第6話 春の遠足は波乱の予感!
4月の下旬に春の遠足がある。入学してもうすぐ1か月経つし、ぼちぼちクラスメイトとも打ち解けてきたところでみんなで登山でもして仲を深めようという企画らしいが高校生にもなって登山なのはどうかと思う。
いやそんな本格的な高い山に登るわけじゃないんだけど。ハイキングやピクニックに行くのは嫌いじゃないが、どうせなら遊園地とかにしてくれればいいのに。
「ふゆきっちゃんはまた風邪引かないように気をつけろよー」
「むしろ今回こそ引くべきじゃない? 山登りとか疲れるし」
「マラソン大会理論ですな。引きたい時に引けず、引きたくない時に引くという」
「二幸は昔っからマラソン大会上位だったよね」
「ただ走るだけでいいからね」
「マジ? ふゆきっちゃん陸上部入らない?」
「入らない。走ってても疲れるだけで楽しくないもん。逆にマラソン選手は何が楽しくてあんなに何十分も走り続けるの?」
「そればっかりは個人の趣味によるとしか。俺は好きだけどねランニング!」
「そういやラーメン食べに来る時もうちまで走ってきたよね」
「マジで? 二幸んちって結構先の駅じゃない?」
「体力には自信あるから俺!」
1軍に復帰できなかった浦部くんはそのまま私たちのグループに加わり、晴れて『3代目紅さんのイジメには絶対負けないの会』を結成する運びとなった。
初代は小学校時代、2代目は中学校時代。私と真凛以外の会員が入ってくれたのは今回が初めてだ。それも同時に2人も。2人には悪いけど、真凛以外の友達がようやくできて本当に嬉しい!
「よろしくねふこうちゃん」
「げ、紅さん」
だが世の中いいことばかりではない。遠足の班はくじ引きで決めることになったのだが、偶然にも紅さんと同じ班になってしまった。不幸ちゃんを名乗るつもりは毛頭ないが、それはそれとしてそう呼ばれるのも無理はないのかも、と思う程度にはついてない。
ちなみに真凛と浦部くんは同じ班で黒崎ちゃんは別の班。特に親しくもないクラスメイトだらけの集まりに放り込まれてしまった黒崎ちゃんは『拙者遠足当日は風邪引いて休むでござる!』とこの世の終わりのように呟いている。一緒にズル休みしようか黒崎ちゃん。
「ふこうちゃんは昔から結構抜けてるとこあるからなあ。ウッカリ道に迷って遭難しないようにね」
「しません! そもそも遭難するような山じゃないし!」
「服部、油断は禁物だぞー。低山でも遭難するリスクはあるんだからな」
「生徒が遭難しないように監督するのが引率の先生方の仕事じゃないですか!」
「ま、それはそうなんだが。みんなも笑い事じゃないぞ? 低山だって滑落事故や遭難事故は起こり得るからな。遠足とはいえくれぐれも油断しないように」
担任の先生にも注意されてしまった。クスクス笑う紅さんを横目で睨む。
「怒られちゃったね?」
「誰のせいだと?」
昔から紅さんにはこうやって、事ある毎に私を人前で笑い者にしようとする悪癖がある。或いは、意図的に私を怒らせるようなことばかりする、と言った方が正確かもしれない。そんなことして何が楽しいのかまったくわからん。
唯一紅さんとは別ベクトルで強い孤高のオタクに優しいギャルの真凛だけは傍にいてくれたけど。本当にありがたい。真凛がいなかったら私の青春はもっと暗かったと思う。というか、真凛がいなかったら黒崎さんとも友達になる機会が永遠になかったかもしれないし。
「折角同じ班になれたんだからさ、親睦を深めるために放課後カラオケでも行かない?」
「いいね!」
「賛成!」
「俺駅前のカラオケ屋の会員証持ってるよ!」
「私は店の手伝いがあるからパスで。ごめんね、うち自営業なの。私はいいからみんなで行きなよ」
紅さんの提案に班のメンバーが盛り上がるも、私の一言で白けた空気が漂う。お前空気読めよ、みたいな顔をされるが空気を読んで一緒に行ったところで別に楽しくもないし。そもそも紅さんと遊びに行きたくない。
なんだか楽しいはずの遠足が憂鬱になってきたなあ。私も黒崎ちゃんと一緒にズル休みしようかな本格的に。
『ふーちゃんには俺だけいればいいんだよ。ふーちゃんのよさは俺だけが知ってればいいんだ。それなのにあの真凛とかいう女。ほんと邪魔なんだけど』