閑話3 坂東さんはマジよ
「そんなに服部が諦めきれないなら私がジェネリック服部になろうか?」
「ジェネリックふーちゃんって何?」
「服装から髪型からメイクから全部真似して、よく似た存在になりきるの」
「いや、それ本物じゃないじゃん」
「だからジェネリックって言ってるでしょ」
「本物じゃないならいらない」
「代償行為だよ。芸能人とは付き合えないけど、よく似た雰囲気の相手は探せば見付かるものだから。ないものねだりをするより、手に入るもので妥協した方が幸せじゃない?」
「それって坂東さんも虚しくならない?」
「別に? 私は好きな人が振り向いてくれるのなら誰かの代替品扱いでも構わないから」
「それ本気?」
「当然じゃない。ありのままの自分を愛してほしいだなんて傲慢なことは言わない。好きな人に振り向いてもらうためなら全身全霊、全力で努力する。それが真の恋愛ってもんじゃないの?」
「それは恋愛とは呼べないんじゃないかな」
「炎星がそれ言っちゃう?」
「それ言われるとぐうの音も出ないんだけどさ」
「私は憑依型だから、心から演じてるうちに心までなりきることだって不可能じゃないわ」
「その才能はもっと別のことに活かすべきだと思うよ」
「私が欲しいのは名声でも栄光でもなく好きな人の心なの」
「でも俺の前にも好きな人がいたんだよね?」
「ええ。そして気味悪がられて振られたわ。なんでもかんでも思い通りになりすぎて逆に不気味だって。ネイルの色はともかく長さまで好みを訊くのはやりすぎだったと反省してるわ」
「そりゃそうだよ。改め直した方がいいんじゃない?」
「改め直した私の方が好きだと言ってくれるのならそうするけど」
「ダメだこりゃ」
「1年かけて服部さんの怒った顔を完全再現してみせるわ。炎星が監修してくれるのならそれが一番手っ取り早いもの」
「でもふーちゃんをわざと怒らせようとしたら今度こそ浦部にぶん殴られそうだけど」
「学生は1日の約1/3を学校で過ごすのよ? それだけあればやりようはいくらでもある」
「お願いだからやめて」
「ええ。炎星がやめてほしいと言うならもちろんやめるわよ」




