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第23話 私の旦那は消防士(予定)!

「俺、ふゆきっちゃんが好きだ」


「うん」


「別れたくない」


「私も」


「これから先。俺はきっと何度もあん時みたいに、見知らぬ誰かのために突っ走ると思う」


「行かないで、って泣く私を、置き去りにして?」


「うん。それでも、俺はふゆきっちゃんと別れたくない。傍にいてほしい。勝手だと思う。酷いこと言ってると思う。別れようって言われても、しょうがないと思う」


 羽鳥くんの太い腕が、優しく私を抱き締めて包み込む。


「死なないって約束して」


「ごめん、無理だ」


「自分の命を最優先にするって、誓って」


「それはできない」


「絶対に生きて帰るって」


「そうしたいけど、言えない」


 バカ! 泣くな私! ここで泣いたらめんどくさい女になるぞ! 泣くな! 泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな!


「羽鳥くんの、バカあ!」


「うん。ごめんな、俺バカだから。バカでごめん」


 あの日のことを思い出して泣きじゃくる私を、抱き締めることしかしてくれない羽鳥。


「こわかった。本当にこわかった。羽鳥が死んじゃうんじゃないかって。死んじゃったらどうしようって」


「ごめん」


「生きてて、よかったよお!」


 結局のところ。一番言いたかったのはそれだ。死ななくてよかった。生きててよかった。本当によかった。


「うあああああ!」


 羽鳥の胸に頬を寄せて、私は泣いた。泣いて泣いて泣き続けて。気の済むまで泣いた。


「私、ふこうちゃんって呼ばれるぐらい、ついてないんだあ」


「知ってる」


 羽鳥の腕の中で、泣き疲れた私は目を瞑る。


「私に近寄ると、不幸がうつるかも」


「それでもいい」


「死んじゃうかもよ?」


「なるべく死なないように頑張る。最大限努力する」


 キスされる。キスする。泣き腫らした目を見られたくなくて。でも羽鳥の顔が見たくて。


「だから、俺の傍にいてほしい」


 うん。


「愛してる」


 うん。


「愛してる、二幸(ふゆき)


「私も、愛してる。羽鳥」


「卒業したら、いや、俺が晴れて消防士になったら。結婚しよう」


「……うん!」


 ドラマチックな人生なんてものは、きっとすごく疲れる。ドラマ性なんてなくていい。平凡でありふれた、退屈でつまらない日常でいい。だけど。


 愛する人と一緒なら。ドラマチックで波乱万丈な人生を一緒に乗り越えていくのも悪くないんじゃないかって。今はそう、思うのだ。




うちの旦那は消防士!~幼馴染み系ヒロインなんかになってあげないんだから!~

Fire-IN.




「などと誓い合った私たちだったが、大学進学後は遠距離恋愛ゆえ次第に疎遠になり、就職活動の忙しさにかまけていつの間にか連絡が途絶え遂には自然消滅。所詮高校生の恋愛ゴッコなんて長続きしないのであった。まる。」


「余計なアテレコしないでもらえます!?」


「あで!?」


「うわ!? ごめん羽鳥! 大丈夫だった!? 鼻血出てない!? 舌噛まなかった!?」


「だ、大丈夫!」


 弾かれたように立ち上がった拍子に、羽鳥の顎に私の頭がぶつかってしまう。意図せぬアッパーカット頭突きをかましてしまった。その元凶となったのは。


「黒崎ちゃああああん!? 覗き見とはいい趣味してますねええええ!?」


「おやおや? ロマンスの恩人様にそんな態度を取ってよろしいのですかな?」


「施錠に来た見回りの教師、誰が足留めしてあげてたと思ってんの?」


「いやあ、青春だなあ」


 黒崎ちゃんと、真凛と、うんうん頷いてるうちの担任。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」


「お、落ち着いてふゆきっちゃん!」


「これが! 落ち着いて! いられるかあ!」


 やっぱり私はふこうちゃんだあ! なんて、言うと思ったか! 今の私は正真正銘、誰がなんというと二倍の幸せちゃんじゃい!

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