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第20話 紅は意味不明!

「なあ紅。お前は酷い奴だよ。好きだからって理由でふゆきっちゃんを傷付けてさ。好きな子にはつい意地悪しちゃうとか、素直になれないとか、いくらなんでも限度があるだろ。それで好きな女の子傷付けてちゃ世話ねえよ。って言いたいとこだけど、俺だってお前に酷いことしたよな。ごめん。お前も俺に酷いことしたけど、だからってふゆきっちゃんを利用してやり返していい理由にはならなかった。そういう意味では俺もお前と同じぐらい最低だ」


「は!? なんだよそれ!?」


「お前さ、なんでふゆきっちゃんのことイジメてたの? 好きなら好きって言えばいいじゃん。意地悪するより好かれる努力をすべきだっただろ」


「だって……だって! 楽しかったんだ! ふーちゃんを怒らせるのが!」


「最低か!」


 校舎裏に私の絶叫が木霊する。率直に最低じゃないか!


「ふーちゃんの怒ってる顔が好きだ。笑ってる顔も悲しんでる顔も好きだけど、ふーちゃんは怒ってる時が一番綺麗なんだ。それに、怒ってる間はずっとふーちゃんが俺のことだけを見ててくれるから」


「よーしよくわかった。お前はどうしようもないバカだ」


「頼むから死んでほしい」


「そうだよ。その目だ。まっすぐに俺のことだけ見つめてくる。ああ、綺麗だなあ、ふーちゃんの怒った顔は」


 まるで飼い主に構ってほしくてわざと悪さをする猫のようだ、と言うと猫に失礼かもしれない。今忙しいから、と相手をしてくれない飼い主の気を引くために、わざと物を落としたり、脚に噛み付いたり。


 猫は猫同士で、或いは人間相手に愛情表現として甘噛みをすることもあるが、幼いうちに引き離されて育てられた猫は力加減がわからず血が出るまで噛んでしまったりすることもあるという。犬を躾けることはできるが、猫を躾けることはできないように、紅もそういう生き物なのかも。


 というか、嫌えば嫌うほど喜ぶってこと? それこそ意味がわかんないんだけど。ドSに見せかけたドMなの? 本当に理解できない。


「何をやってる!」


 生徒が校舎裏で喧嘩をしていれば、当然騒ぎを聞き付けて教職員がやってくる。


「違うんですこれは!」


「とにかく全員生徒指導室に来い!」


 紅や坂東の取り巻きたちは逃げ出し、羽鳥くんと私と坂東と紅の4人が教師に生徒指導室に連れてかれることになった。うちの担任も呼び出され、説教される羽目に。


「羽鳥、お前陸上の大会に出るんだろう。なんで喧嘩なんかしたんだ。このままだと出場停止になりかねんぞ」


「だから、違うんですってば!」


「……俺が、浦部に喧嘩売ったんだよ」


「紅?」


 意外にも、紅は素直に自分の非を認めた。自分は服部二幸のことが好きで、服部二幸と付き合ってる浦部羽鳥に別れろと迫ったと。で、断られたから逆上して殴った。浦部は一発も殴り返してこなかったと。何故か坂東も紅に口裏を合わせたので、今回処分を受けるのは紅独りで済んだ。


「なんで急に」


「……怒ってさえもらえなくなるから」


「は?」


「嫌ったり、憎んだりされるのはいい。俺に怒ってくれるから。でも、浦部を出場停止に追い込んだら、そこから先は見限られる。怒りさえわいてこないぐらい徹底的に失望されるのは、嫌だ」


 表向き今回の一件は痴情のもつれ、学生同士の他愛ない痴話喧嘩ということで処理されることになった。学校側としても問題を大きくしたくはないだろうしね。青春だなあ、などとほざいているうちの担任と生徒指導の先生に感謝である。


「俺、ふーちゃんのこと、幼稚園の頃からずっと好きだったよ。今でも大好きだ」


「なんで? 私、あんたにそこまで好かれるようなことした?」


「誰かを好きになるのに理由とか、資格なんて必要ないだろ? 好きでい続けるのもね」


 紅は憑き物が落ちたように、晴れやかな顔で去っていった。その後を坂東が追う。あんたまだそいつのこと好きなの? 1周回って逆にすごいね? そこまで行くとなんか尊敬するわ。


「一件落着、ってとこかな?」


「本当にわけわかんないけど、そうみたいだね」


「喜んでいいの?」


「いいんじゃない? 知らんけど。ていうか羽鳥くん、なんでわざわざ律義にあいつの相手してあげたわけ? 喧嘩で停学処分とかになったら陸上の大会に出られなくなるし、消防大の受験資格なくなるかもしれないのに」


「そうだなあ。紅が泣きそうな子供みたいな顔してたから、かな」


「は?」


「あいつはふゆきっちゃんや俺に酷いことしたけど、俺もあいつに酷いことしたから。それに、折角クラスメイトになれたのに、このまま1年間ずっとギスギスしたまま気まずい空気のまま過ごすの嫌じゃん? 俺はバラ色の青春が送りたかったのであって、シュラバ色の青春が送りたかったわけじゃないし」


「何それ。上手いこと言ったつもり?」


「でも、結果的に上手いこと丸く収まっただろ?」


 羽鳥くんを抱き締めてキスをすべきなのか、呆れて肩を落としながらため息を吐くべきなのかはわからなかったけれど。


「羽鳥くんが私の彼氏になってくれて、よかった」


「おう、そりゃよかった!」

次回! クライマックス!

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