第2話 真凛は友達!
高校に入学して2週間が経つ頃。早速私はクラスで浮き始めていた。
「そりゃみんな、ふこうちゃんに近付いて不幸にはなりたくないもんな?」
「うるせえぞ紅! さん! お前も不幸にしてやろうか!」
ふこうちゃんに近付くと不幸になる。否定するつもりはないが、だからって入学早々ちょっとインフルエンザにかかって40度の高熱にうなされて2週間学校を休んだぐらいで酷い話だ。
折角の新学期なのに開幕いきなりぶっ倒れてしまったせいでふこうちゃんという私のあだ名がすっかりクラス内で定着してしまった。おまけに私が休んでる間にクラス内のグループが大体できちゃってるし! 完全に出遅れてる!
「ふゆきっちゃん風邪はもう大丈夫なん?」
「お陰様で!」
私をふこうちゃんと呼ばずにいてくれる男子は浦部くんぐらいのものだ。彼は私がふこうちゃん呼びを嫌がってるのに気付いてそれとなくふゆきっちゃんと呼ぶようになってくれた。
見た目は三枚目だが中身はできる男らしい。こういう男でいいんだよこういう男で。いくら顔がよくても性格悪い男は絶対NG!
「相変わらずだね二幸と紅は」
「そろそろ縁切りたいんだけどなあ!」
完全に出遅れてクラス内でぼっちになりかけだった私を救ってくれた救世主は同中の眼鏡女子・羽柴真凛だ。
真凛はいわゆるオタクに優しいギャル系ライトな女オタクで、早速漫研で3年の先輩と対立して漫研を3日で辞めるという伝説を成し遂げてきたらしい。
なんでも絶対譲れない戦いがそこにはあった、とかなんとか。なお勝ったのか負けたのかは解釈による、らしい。
「真凛氏、これがいわゆる幼馴染み系カップルという奴ですかな?」
「カップルじゃないから! ただの腐れ縁だから! そういうのマジでやめて! あいつとカップル扱いされるぐらいなら死ぬ」
「おお、これは人として本当に茶化してはいけなさそうな奴。それはさておきテンプレ台詞キタコレ。リアルに聴くと軽く引きますな」
「あんたに言われたかないわい!」
ちなみに真凛と入学2週間目にして既に大親友になっている美少女は黒崎蜜柑。こちらはゴリゴリの腐女子らしく、趣味でVtuberもやっているらしい。
真凛が比較的ライトな女オタクなら彼女は筋金入りのディープなヘヴィオタクといった感じ。
オタクに優しいギャルって実在したんですか!? と驚いたのがきっかけで仲よくなったらしいが何をどうすればそんな驚き方をする展開になるのかは永遠の謎。
真凛と黒崎さんのお陰でぼっちにならずに済んだのはありがたい。高校生にもなって友達を取られた―! みたいなアホなことは言わないよさすがに。
なお紅さんの奴は既にクラスの1軍カーストの頂点に君臨したらしく人の輪の中で楽しそうにしている。性格は悪いけど顔と要領だけはいいからなあ昔から。みんな騙されてるよ。
「そういやあんた部活はどうすんの?」
「強制じゃないから中学ん時とおんなじ帰宅部かなあ」
「バスケ部には入んないわけ?」
「中学ん時のあれで懲りたよ。運動部には二度と入らん」
「何かあったのですかな?」
「部活の先輩が紅さんに惚れてこっちに火の粉が飛んできた」
「それは御愁傷様です。やっぱ運動部員は総じてクソですな」
「ふゆきっちゃん部活入んないなら陸上部のマネやんない?」
またしても首を突っ込んできたのは浦部くんだ。彼はちゃっかり1軍カーストの末席に座ってるわりにちょこちょここちらに声をかけてくる。
どうやら真凛と黒崎さんにも粉をかけてあっさり袖にされたらしく、まだ脈のある可能性の残っている私に声をかけてくるのだろうか。
自慢じゃないが私はクラスの中ではそんなに悪くない方だと思う。黒崎さんみたいにモデル級の美人とかアイドル級の可愛さとかはないが、ラーメン屋の常連さんたちには看板娘扱いされる程度には需要がある。
それが嬉しいかどうかは別として、嫌われるより好かれた方がマシなのは確かだ。
「絶対やだ。仕事の手伝いさせられるとかうちだけで十分」
「ふゆきっちゃんちなんかのお店なの?」
「ラーメン屋だよ。横浜家系ラーメン二幸。よければ今度食べに来てよ」
「マジで? 俺家系ラーメン大好きよ! おろしニンニク置いてる?」
「タダでかけ放題」
「わかってるう!」
「ほほう。家系ラーメンですか。拙者家系ラーメンには少々うるさいですぞ?」
「それなら今度ふたりで食べにおいでよ」
「いいね! 行こうぜ黒崎ちゃん!」
「嫌でござる。男子とふたりでお出かけとか拙者には荷が重たすぎるでござる」
黒崎さんはすっごく美人なのに中身がこれなので非常に残念だ。美人だからこそこういうのでもいい、むしろこういうのがいい、と思う男子は意外と多いかもしれないけど。
でもいきなりデカ受け認定されたのは浦部くんでもちょっと引いてしまったらしい。ちなみにデカ受けというのは刑事ドラマのBL妄想ではなく、デカい方が受けをやるジャンルだよ、と真凛が教えてくれた。そんな知識いらないから!