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第19話 坂東さんは恋する乙女!

「何それこっわ。女子の同調圧力ここに極まれりって感じ」


「さすがにそれは浦部には黙ってた方がいいね」


「うん」


「おはようさん!」


「「「おはよ」」」


 翌日。坂東たちが私に絡んでくることはなかった。紅と話をしたのかは不明だが、とりあえず表立ってリアクションはない。羽鳥くんも普通に朝練を終えて教室に戻ってきたので、私たちは昨夜のヒソヒソ話を切り上げる。


 今度は坂東とその取り巻きたちに因縁吹っかけられたーなんて言ったら羽鳥くん絶対責任感じで毎日うちまで送り迎えに来るでしょ。陸上の大会だって控えてるのにそんな真似させられんし。


 6月に入って毎日ジメジメした蒸し暑さが続く嫌な季節が始まった。とはいえ6月と言えばジューンブライド。


 なんとなく街中やスマホの広告で目にするブライダルウェディング特集に目を奪われるようになり、自分が結婚式を挙げる姿を想像してみたりなんかしつつ、私は浮かれていたんだと思う。なんせ人生初の彼氏ができたのだ。それも、結構ラブラブ。


「うへへへへ!」


「わあ、旦那そっくりのウザい笑い方」


「羽鳥くんはウザくないもん! いや、たまにちょっとだけちょいウザ男子みたいな悪ノリする時もあるけど!」


「旦那の方は否定しないんかーい!」


「よかったね、ふゆ」


「うん! ありがとう真凛! ほんと今があるのは真凛のお陰だよー! 真凛大好き!」


 とはいえ私はよく知っている。幸せというのは存外長続きしないものだ。人生は転がる下り坂で、よりよい明日なんて混迷極まるこのご時世もう二度と来ないんじゃないかとさえ思う。せめて現状維持、明日は今日より悪い不運不幸が起こりませんように、祈るばかりなわけで。


 その夜、私は羽鳥くんの部活が終わるのを図書室で待っていた。学校内ではスマホをいじれないので、本でも読んで待ってるのが一番いい。暇なら大学受験に向けて受験勉強しろよって? それはそう。


「服部! いる!?」


「坂東?」


 暇そうな図書委員と私しかいない放課後の図書室。カーテン越しにもわかるオレンジ色の眩しい西日。焦った顔の坂東が飛び込んできたので、図書委員が何事かと慌てふためく。


「ちょっと来て!」


「何何どうしたの?」


 だが坂東はそれ以上に焦っていた。尋常でない様子からタダゴトではなさそうだと判断した私は、本を棚に戻してそちらに向かう。


「紅と浦部が喧嘩してんの! あんたじゃないと止めらんない!」


「なんですと!?」


 焦ってるのは演技で実は坂東の罠、という可能性もなくはなかったが、さすがにそこまで悪質だとは思いたくない。坂東に連れられひと気のない校舎裏まで行くと、紅の怒鳴り声が聴こえてきた。


「ふっざけんなよ! なんで殴り返さねえんだよ!」


「俺だってお前を一発殴りたいよ。でも、お前には俺を一発殴る権利がある」


「そんな権利いらねえよ! 返せよ! 俺のふーちゃんを返せ!」


「ふゆきは俺の彼女だ。お前のじゃない。そもそもお前のだったことなんて、一度もない!」


「ふざっけんなあ!」


「何しとんじゃボケエ!」


 紅と羽鳥くんの殴り合いの喧嘩、ではなかった。羽鳥くんが一方的に紅に殴られていた。でも、どれだけ殴られても羽鳥くんは堂々と仁王立ちしている。鍛え方が違う。


 私は堪らず紅を怒鳴り付けた。


「ちょっと紅! あんた何やってんの!?」


「ふーちゃん! これは!」


「いいんだふゆきっちゃん」


「いいわけないでしょ!?」


「ふゆきっちゃん。俺を信じてくれ」


 信じろと言われれば信じるしかないのだが、何をどう信じろと? 何も考えずとにかく信じて待てばいいの?

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