第17話 真凛は喧嘩上等!
「紅が不良になったあ!?」
「どうにもそうっぽいのよね」
「予想外の展開。いや逆にありがちか?」
もうすぐ梅雨が始まるんだろうなあ、と予感させるジメジメ曇天が続く5月下旬。どうにも学校に来ないと思ったら紅は不良になって喧嘩に明け暮れ始めたらしい。なんでそうなるの?
紅のおばさんいわく、髪の毛を燃えるようなオレンジ色に染めたかと思えば毎日夕方に出てって朝方に帰ってきて、いかにも喧嘩してきました! みたいな傷を作っているという。
そんなんうちの母に言われても困るが? と言いたいところだが、うちの母と紅のおばさんは大学時代からの友達らしいので、あんなことがあった今でも友情は続いているらしい。そこに文句はない。ないのだが。
「何考えてんだか、あのバカ」
「何も考えてないのかもしれませんぞ? とにかく頭空っぽにして怒りの矛先を何かにぶつけて鬱憤晴らしがしたい自暴自棄な気持ちになってるとか」
「どっちにしろ人としてどうかと思う」
まあいい。紅が不良になろうが喧嘩で停学になろうが出席日数不足で留年しようが私の知ったことではない。幼馴染みに冷たい、と思われるかもしれないが、こちとらしつこくまとわりついてくる羽虫のような腐れ縁をようやく断ち切れたばかりなのだ。
「あのさ、ちょっと話があんだけど」
「何?」
「ここじゃなんだから、ちょっと顔貸してよ」
「は? 何その上から目線」
「真凛氏、抑えて抑えて」
さすがに1か月近く学校を休んでいると他のクラスメイトたちも騒ぎ始める。紅は入学1か月で人気者のイケメンでクラスのリーダーの座に君臨していたので1軍カースト軍団は紅が学校に来ないと困るようだ。特に女子。
坂東白雪はうちのクラスの女子カーストの頂点だ。入学してからずっと紅の彼女面して傍にいたけど相手にされてなかった。でも紅はそういう女子を使いこなすのが上手いので、適当におだてて便利に使ってた。
「炎星が学校に来なくなったの、あんたのせいなんじゃないの?」
「は?」
「メッセしても無視されるし、電話しても出ないし、みんなで炎星んちまで行っても炎星のママは理由教えてくんないし。原因があるとすれば幼馴染みとか言って調子に乗ってるあんたぐらいのもんでしょ。あんた炎星くんに何したわけ? 場合によっちゃゆるさないから」
1軍女子軍団が正義面して睨んでくる。アホか。何かされたのはこっちなんですけど!? と怒鳴りつけてやりたいが、それをやると紅の悪行がクラスに広まってしまうのでさすがにそれは。
折角当事者が穏便におさめてあげようってのに外野が余計な騒ぎを起こさないで頂きたい。と思っていたら真凛が私を庇うように一歩前に出てくれた。頼りになるねほんと。
「別にあんたたちには関係なくね?」
「関係あるに決まってんじゃん。クラスメイトなんだよ? それがもう1か月も学校に来ないんだから、気になるでしょ普通。知ってるなら教えなさいよ。それともやっぱ言えない理由があるわけ?」
「おお! なんという正論!」
「言えない理由があるってわかってんなら空気呼んですっこんでなよ。そんなこともわかんないわけ?」
それを言われてしまうとそうですねとしか言えない。孤高のギャルと普通のギャルが一触即発になったその時。教室の扉がバン! と乱暴に開いた。そこにはバカみたいな、失礼、燃えるようなオレンジ髪になった紅が立っていた。
「紅さん!?」
「炎星! どうしたのその髪!?」
「別に? ただのイメチェン」
1軍カースト軍団がどよめくが、彼は彼女たちを無視して自分の席に着いた。こちらには視線を向けようともしない完全無視である。と言っても悪意ある無視という感じではなく、どうしていいのかわからなくて無視してる、といった感じ。
どうやら1か月近くの無断欠席を経て、そろそろ復学する気になったようだ。
「ホームルーム始めるぞー、って、どうしたんだ紅! その頭!」
「ただのイメチェンっすよ、イメチェン。いいからさっさとホームルーム始めてくださいよ先生」
紅の大胆過ぎる校則違反は問題になったようだがあいつが呼び出しを受けようが私には関係ないので先生方にはご苦労様である。紅は私を完全無視。私もあえて触れはしないので完全スルー。
結果クラス内には非常にギスギスした緊迫ムードが漂い始めたがそのうち薄れるだろう。人間慣れだからね。