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第16話 走れ浦部くん!

「浦部くん頑張れー!」


「行けー浦部!」


「スポーツ観戦とか何が楽しいのか理解に苦しむ。が、知り合いが出てるのなら話は別! 浦部氏ー! ファイトですぞー!」


 ゴールデンウィーク明けの5月。紅はずっと学校を休んでいる。どうやら紅のおばさん経由でうちの母に回ってきた情報いわく、紅のおじさんが放心状態で自暴自棄になっていた息子の胸倉を掴んでキッチリ釘を刺してくれたらしく、一応の反省はしたそうだが。


 紅のおじさんはそのまま海外へと戻っていった。おじさんも大変だね。


 それはさておき羽鳥くんが春の陸上大会で新人戦を勝ち抜いたらしく、より大きな大会に出られることになったとのことで、みんなで応援に行くことにした。電車に乗って競技場へ。


「紹介するよ! うちの親父! 親父、俺の彼女のふゆきちゃんと、その友達の羽柴さんと黒崎さん!」


「初めまして。浦部 令文(のりふみ)と申します。息子がいつもお世話になっております」


「服部二幸です! 羽鳥くんとは学生らしい健全なお付き合いをさせて頂いてます!」


「二幸の保護者枠の羽柴真凛と申します」


「あ、どうも。黒崎蜜柑です」


 羽鳥くんちは父子家庭とのことで、お父さんが応援に来ていた。お母さんが亡くなったのか離婚したのかは不明だが、詮索してもしょうがないので気にしないことにする。


「浦部くんのお父さんも消防士さんなんですか?」


「いや、私は救急隊員だ。消防車ではなく救急車の方だな」


「リ、リアルレスキューソルジャー親子!」


「救急車ですか。このご時世大変ですね。お疲れ様です!」


 バカがタクシー代わりに使ったり、受け入れ先がないからと病院をたらい回しにされたり、コンビニでお昼ご飯を買うだけで盗撮されて炎上したり。とかくこの世はままならないようにできている。


「そうだな。だが、誰かがやらねばならん仕事だ」


 羽鳥くんのおじさんは羽鳥くんをもっとガッチリ体型にした感じで、筋肉とか首の太さとかも段違いだった。羽鳥くんが救急隊員にそんな筋肉いる? とも思ったのだが、あって困るもんでもないもんね。


 羽鳥くんもガチムチゴリマッチョ体型だし、ブンブン腕を振って走る姿はさながらジャングルを駆けるゴリラって感じ。でも、夢に向かって一生懸命頑張る姿はかっこいいと思う。


「それにしても、まさか羽鳥が彼女とそのお友達を連れてくるとは。子供の頃からずっと男友達ばかりだったので驚いたよ。うちの倅が迷惑をかけてないといいんだが」

「全然大丈夫です! むしろ色々助けられてます!」

「何かあったらすぐに言ってくれ」


 私たちが付き合い始めたことについて、真凛は特に驚いた様子もなかった。黒崎ちゃんはリア充撲滅しろとぼやいているが冗談めかしたものなのでいつもながら微笑ましい。


「やったー! 浦部くんかっこいー!」


「いいぞー浦部!」


「ナイッスー!」


「羽鳥ー!」


 羽鳥くんのおじさんと話したり連絡先を交換しているうちに大会は進み、羽鳥くんは無事1位で勝ち抜けたようだった。満面の笑みを浮かべ大きく客席に手を振る羽鳥くんにこちらも両手を振り返す。


 これでもっと大きな大会に出られる。ゆくゆくは秋の全国大会も夢じゃないかもしれない、と言いたいところだが、羽鳥くんのタイムがすごいのかすごくないのかは陸上詳しくない私には全然わからない。


 ただ、地区大会や県大会で優勝できるぐらいなのだからきっとすごいのだろう。羽鳥くんの夢はあくまで消防士であって、陸上選手じゃない。でも、やるからには全力で頑張る姿は本当にかっこいいと思う。


「ふゆきっちゃーん! 応援ありがとー! 羽柴っちと黒崎っちもセンキューなー!」


 笑顔でこちらにVサインを向けてくる羽鳥くんを見てると無性にドキドキする。まるで恋する乙女みたいに。これじゃあまるで、恋愛ドラマのヒロインにでもなった気分だ。


 世の中の女の子の多くは、こんな風に恋をしたりするのだろうか。この気持ちも、世間一般ありふれたものなのだろうか。でも、それでも構わないと思う。普通の私が普通に恋をして、普通に誰かと付き合って。そういう普通の人生に、ようやく踏み出せた気がした。


「完全に恋する乙女の顔ですな」


「しー。指摘するだけ野暮ってもんよ」


「いやいや、そんなまさか。羽鳥にも遂に春がねえ」

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