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第15話 服部二幸の初恋!?

「ちょ!? ふゆきっちゃん!?」


「あの店もう二度と行けない!」


 慌てて浦部くんの手を取って、私たちは真っ赤な顔のまま店内から逃げ去った。ファストフード店でよかった! 会計が後だったら食い逃げになっちゃうところだった!


 そのまま走って、走って。私たちはコンビニの駐車場で足を止めた。その場所を選んだ理由はない。単純に脚が限界だったのだ。


「はあ! はあ! はあ! はああああ!」


「……ぷっ! あははははは!」


「あははははははは!」


 突然大笑いし始める浦部くん。無理もない。私だって笑うしかないもん! つられてふたりで大笑いだ。


「なんつーか、告白はもっとロマンチックなシチュエーションでした方がいいな!」


「恥ずかしすぎて死ぬかと思った!」


 ぜえはあと深呼吸をしながら、私たちは夕暮れ時の、水色からピンクや薄紫、オレンジにグラデーションしていく茜空を見上げる。


「お父さんが言ってた。恋ってのはスープみたいなもんだ、って」


「何それ?」


「最初は不純物だらけ。でも何回も何回も灰汁を取って丁寧に漉してくうちに不純物が取り除かれていって、最後は透き通ってるのにうまみが凝縮された、愛のスープになるんだって」


「そうなんだ。いかにもラーメン屋さんらしいね」


「いきなり何言ってんだろって当時は思ったけど、今ならお父さんが言いたかったことの意味がわかる気がする」


「最初は純愛じゃなかったとしても、いつか純愛のスープになるぐらい愛をふるいにかけ続けろってことか」


「最後に残るものが純愛かどうかはともかく、途中で放り出しちゃったら確認できずじまいでおしまいだもんね」


 そこでようやく私はずっと彼の手を握り締めたままであることに気付いて、ごめん、と照れながら手を離した。


 すると今度は浦部くんが私を優しく抱き締めた。紅に無理矢理押し倒された時のことを思い出して一瞬硬直してしまったけれど、大丈夫、浦部くんは違う。浦部くんはあいつじゃない。


「驚かせてごめん」


「ううん、いいよ。平気。浦部くんだから、こわくない」


「ふゆきっちゃんがすげー可愛くて、愛しくて」


「真顔で言われると照れる!」


 浦部くんの心臓の音が聴こえる。たぶん私の心臓の音も伝わってる。共鳴するみたいに、ふたりして大騒ぎしてる。


 無言のまま、どれだけそうしてただろう。


「好きだ、ふゆきっちゃん。俺と付き合ってください」


 不意に、空から告白が降ってきた。ように思えた。弾力のある筋肉。大きな体。汗と制汗剤の香り。力強い男の人の体。でも、その力は乱暴なものじゃない。嫌なものじゃない。


「!」


 答える代わりに、私は浦部くんにキスをした。幸い頭突きは飛んでこなかった。そのままキスをし続けて、キスという行為そのものに刻まれてしまったトラウマを払しょくする。


 好感度ゲージが、グーンと急上昇していく音が聴こえたような気がした。


 どうしよう、私。浦部くんのこと、普通に好きかもしれない。

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