第14話 男を見せろ浦部くん!
気まずい沈黙とは裏腹に、お昼時のファストフード店の店内には賑やかである。お陰で私たちの会話が掻き消されているのはありがたい限りだが。というか、こんな大事な話をするのになんでこの場所を選んだし。
あれか? 最初は防犯ブザー渡すだけのつもりが、耐えきれなくなってつい懺悔し始めちゃった感じ?
「今は?」
「今は後悔してる。俺がどうしようもなくバカだったから」
「そうじゃなくて」
「?」
「今は、もう好きじゃなくなった? 紅にざまあできたから、私は用済み?」
「……そんなこたないよ。今でも好きだよ。でも、好きでいる資格ないじゃん?」
そりゃそうだ、と切り捨てるのは容易い。ああ容易い。でも、それではそこで終わってしまう。
「……いいよ」
「え?」
「そのまま好きでいてくれても、いいよ」
「それって……」
「真凛や黒崎ちゃんが言うところの、好感度が足りてる状態って奴? 私も浦部くんのこと結構いいかもって思ってたし。試しに付き合ってみるのも悪くないかなーって」
「でも、そんな君の気持ちを利用して裏切ったんだぜ? 俺」
「まあ、裏切られはしたし。好感度が下がったりもしたけど……でも、まだゲージはブレイクしてないっていうか」
「?」
「もし私のこと傷付けたって思ってるんなら……その分私のこと、幸せにしてよ。もう誰にもふこうちゃんなんて呼ばせないぐらい、クラスで一番幸せな女の子にして」
「……するよ。クラスで、いや学校中で一番幸せな女の子にする!」
浦部くんが言うように。告白はゴールじゃないのかもしれない。むしろ告白してからがスタートで、よーいドンなのかも。
ヤバい。顔が火照りまくる。たぶん顔真っ赤になってる気がする。つられてか浦部くんの顔も赤くなってる。心臓がマラソンした後みたいになってるっていうか。なんとか暴れる心臓を落ち着かせようと冷たいドリンクを手に取ってストローを吸うけど無理みたい。
「「あのさ」」
「「あ」」
「「ごめん」」
「「……」」
恋愛ドラマか! コテコテのラブコメやってるんじゃないんだよ!?
「「あの……」」
「「……」」
埒が明かん! と私はすいと挙手した。
「あ、どうぞ」
「それじゃあ遠慮なく」
意を決して、私は人生初の告白をした。
「好きって言って」
「え?」
「ちゃんと好きって言って、告白して。そしたら付き合ったげる。試しに」
顔真っ赤! 浦部くんも顔真っ赤!
「……」
「……」
「ふゆきっちゃん、あのさ」
「うん」
「俺、ふゆきっちゃんのことが……」
顔は真っ赤なまま、世界が真っ白になった気分。世界はふたりだけのもの、とか、ふたりだけの世界、とか。バカみたいな比喩表現だと思ってたけど、ほんとに世界中に私たちふたりだけしかいなくなっちゃったんじゃないかってぐらい、浦部くんの声以外はなんにも聴こえなくなって。
「……す」
「ちょっと待って! 本当に静かな奴ある!?」
「!?」
弾かれたように顔を上げる。一番大事な部分を中断させられ驚いた顔の浦部くん。ごめん! でも店内静か! さっきまで賑やかな喧噪に包まれていたのに。いつの間にかすっごい静かになって、お客さんも店員さんも固唾を呑んでこちらを見守っている! いつの間に!