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side ノスティヴィア

 また一人、罪のないものが捨てられてくる。


 彼女が来ると聞いたとき、はじめはそう思った。

 けれど彼女……エルピシラは、不思議(ふしぎ)な人だった。


 彼女はルシオン第一王子の婚約者でありながら、稀代(きだい)の悪女として名を()せた人物だと聞かされていた。

 数々の浮名(うきな)を流し、伯爵をだまして身分を偽っていたと。


 けれど都から聞こえてくる話など信じるに値しない。

 今までこの領地へとやってきた者は皆、都で汚名(おめい)を着せられ捨てられた者達だったから。

 今回もそうなのだろうと思っていた。


 ただ今回ばかりは勝手が違った。

 いつものようにただ追いやられるだけではなく、私の妻に据えられたのだ。


 もちろん、警戒した。

 なにせ王家が関わっていることは間違いがなかったから。


 もしかしたら新たな手先を送り込んできたのかもしれない。

 もしくは単純に嫌がらせかもしれない。


 ……どちらにしても、私に拒否権などなかったのだが。



 だから私は、直接会ってから見極めようとした。

 そうして送られてきた彼女は、初対面で私を押し倒した。


 初めこそ噂通りの好色家がよこされたのかと思ったが、違った。

 あれは王家の息がかかった使用人たちを遠ざけるための方便(ほうべん)だったのだ。


 彼女はすぐに屋敷の状況を見抜いていた。

 そして私のことを、領地のことを守りたいと申し出たのだ。


 そんなこと、信じられるわけがない。

 だって、私には秘密がある。私が存在ごと抹消(まっしょう)された、第三王子であるという秘密が……。


 この国では、王妃に(にら)まれればどのようなものも生きていけない。

 だから既に王妃に(うと)まれている私に、味方など現れるはずもない。


 彼女もそれを知れば、私を守りたいなどといえなくなるだろう。


 そう思っていた。はずなのに……。



『ノスティヴィア様が第三王子だということは、初めから知っていると言っているのよ』

『それの何がいけないの? 血が同じだからなに? それだけで旦那様の全てを語ろうとするなんて、おこがましいことこの上ないわ』



 あの日、月の光を浴びながらそう告げた彼女から目を離せなくなった。


 彼女は、私の正体を初めから知っていたと言った。

 そのうえで――。


『血統など、身分など。結局は誰かが決めたまやかしに過ぎない。その人の価値は、その人の行動に現れるものよ』

『彼らこそ守られるべき人たちだわ』


 私を、領民を、そう評価してくれていた。

 血や身分だけで人の価値が決まるわけじゃないと。


 その言葉は、自分につけられたレッテルのすべてを否定してくれた。そして私という存在を肯定してくれた。

 生きていていいと。自分にはその価値があるのだと。


 だからだろう。

 あのとき、私の中を今まで感じたことのないような激しい感情が駆けめぐった。

 心の底から湧き上がるような、奮い立つような。そんな気持ちが。



 この感情を何と呼ぶのか、私にはわからない。

 けれども、彼女を信じてみたい。いいや、彼女なら信じられる。そう思った。



 そして彼女は「守る為にきた」という言葉の通り、ずっと(いさ)められずにいた使用人たちの悪事をわずか三日で暴いてみせた。


 しかも、そのために何年も前から罠を張っていたらしい。

 彼女はこの地に突然現れた「聖女・エル」だったのだ。


「……いったい、彼女はなんなのだろうな」


 あいにく、答えなど持ち合わせるはずもない。

 けれど彼女はいった。


「私は私、か」


 きっと彼女は確固(かっこ)たる自分を持っているのだろう。

 何があっても揺らがない。そんな自分を。


「私は、彼女の強さの秘密が知りたい」


 なぜ、そんなにも強い意思を持てるのか。

 それを知れば、きっと私も強くなれる気がするから。


「……」


 私はそっと目を閉じた。


(私は、強くなりたいのか。……どうして?)


 少し、考えてみる。


(領主だから? 義務だから?……いいや違う)


「……ああそうか。(あらが)っていいんだと教えてもらったから」


 身体が弱いからとか、何の権利もないからだとか。

 今まではそう理由をつけて諦めるしかなかった。

 でも生きてていいのなら……。


 頭の中を、彼女の姿がよぎる。

 私を、領民を守りたいと真っ直ぐに告げる彼女が。


「これは……負けていられないな」


 そんな彼女に情けない姿は見せられない。

 なにより、私も皆を守りたい。同じような境遇の仲間を……。


 ならばやるべきことは一つ。


(一人で立つことすらままならなくとも、できることはあるはずだ。まずはそれを探してみよう)


 彼女に置いていかれないよう、私も励まなくては。



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