変わらずの指輪 8
オジラ一味の主なシノギは6級テイマー仕様程度の単純な造りのサーバントドールの別のマフィアへの販売とメンテナンス請負。大きな仕事はしてない。構成員も常時15名前後でコンパクト。
頭のオジラの趣味は自分で『仕込んだ』人間の遺体を使ったサーバントドールの製造。同好の士の中で行われる品評会では評判らしい。マフィア活動もそれを成立させる環境と資金を得る為だけにやっているフシがある。
身の丈わきまえてるタイプのクッソ野郎だね。
踊り手が変わらず指輪を獲得したことに関心を抱いてすぐに接触したようだけど、どうも踊り手とは趣味が違った? かして結局間接支援に留める形になったっぽい。
それでもヒューマンドールを2体所持していることをドールテイマーギルドの調査員が突き止めていた。
『交渉可能なタイプのクズ』だからこれまで泳がされていたみたいだけど、今回の件で年貢の納め時と相成った感じだね。何しろ、
「必ず生け捕り、ないし蘇生可能な程度の損傷で確保しろ!『てなもんや魔女』ミドリコ・アゲートティアラ。お前の軽犯罪の数々は一先ず保留にしてやるっ」
イーストガー衛兵警察隊の6番隊の隊長が隊員を引き連れてオジラ一味のアジト近くの岩影まで来ちゃってるからさ・・
と言うかあたしの通り名! 一度も名乗ってないかんねっ。
「ああ、うッス。前向きに善処しまっす。え~と・・ちょっと待って下さいね」
あたしは隊長に愛想笑いしつつ、自分のサイキックタクトで荷台から犀型のサーバントドール2体を外していたトッピに全力速足で詰めよった。
「トッピ! 何で衛兵警察が来てんのっ?」
聞いてないんですけど??
「いや、相手の人数は少なくてもそこはドールテイマーだから、人形でかなり嵩増ししてくる。4人じゃ厳しいよね? それに御先祖がやらかしたのはもう、うん百年前だけどこうなるとやっぱりムーンハート家の心証が悪くなるからイーストガーの当局も立てとこう、ってさ」
「・・・」
確かに、言われてみれぱ小規模とはいえマフィアのアジトにカチ込むにしちゃ少数精鋭だな、とは思わないでもなかったけど・・
「まぁお陰でやり易くなったし、ミドリコの心証もちょっとは良くなるんじゃないか? ふふ」
「何で半笑いなんだよっ、エリオストン!」
「どうでもいい、ワタシとドラミンの新たな力に度肝を抜かれろ」
「それしか言わなくなったじゃん? と言うかいつまでソレ被ってんの?」
土壇場で色々プラン変わっちゃったけど、あたし達はイーストガーの衛兵警察6番隊と共同で、辺鄙過ぎて廃棄された魔除けの野営地をリサイクルしたらしいオジラ一味のアジトを強襲することになった!
衛兵警察は最初に、
「蘇生し易いよう、綺麗に仕止めろ」
数名岩場の高所に配置していた火縄銃を使える『銃使い』達が、見張り台にいた人相の悪いドールテイマーを仕止めた。
「囲えっ」
続けて魔法道具の『隔絶の杭』を20本くらい使ってアジトを囲って起動させて、囲いの内側の空間の転送系術を一時的(設定によるけど今回は40分程度)に封じる。
「発破っ」
さらに地下の隠し通路を爆破して封鎖。
あとは内部活動に支障が出ない程度に砲筒で煙幕弾も各所に撃ち込み、動ける隊員は砲筒の通常弾で吹き飛ばした2ヵ所の出入口から突入!
あたしはオジラだけ取っ捕まえればいいかと思ってたけど、衛兵警察は一網打尽にする気満々っ。
突然の強襲にアジトが混乱し出す中、
「トッピよろしく!」
「任せて」
事前に数ヶ所の出入口とは別に城壁の脆い各所を調査員に教わっていたあたし達は、トッピの2体の犀型サーバントドールを突撃させて壁を粉砕し、アジトの敷地内に侵入したっ。
見張り台と出入口を固めていた人員を考慮すると、フリーで動ける相手のドールテイマーは12名程度。行ける行ける!
「クイックムーヴっ!」
ドール犀とエリオストンの走力が高過ぎるから、あたしは自分とトッピに加速魔法を掛けるっ。ユパアーカは・・エリオストンがおんぶして走ってた。
「おい、ユパっち先輩!『新しい力』はどーなったのっ?」
まだドラミン被ってるしっ。
「がぁう!」
ドラゴンっぽく吠えてきて、それだけっ。何?? やたら魔力は上がってるから『何か』やってくれるんだろうけど・・
困惑しつつ、警備用のテイマー無しで動く自立型小型サーバントドール7~8体は先行する犀ドールが容赦無く吹っ飛ばし、城壁より薄い建屋の壁も吹っ飛ばし、あたし達はたぶん衛兵警察より早く、アジトの屋内に侵入っ。
やみくもに入ったワケじゃなくて、調査員が目星を付けておいた、オジラの『お楽しみルーム』をあたしらは目指していた。
その部屋にヒューマンドール2体はキープされてるはず。転送系術が封じられると『人形の召喚』はできなくなるので直に取りに行くはずだ。お楽しみルームにはオジラの他の『戦力』もあるだろうしね・・
途中、中型のサーバントドール付きの輩ドールテイマー2人と遭遇したけど、
「何だテメェらっ、だぁっ??!!」
「ちょ待っっ?! べぅっ!」
狭い廊下で何か啖呵を切ろうとしている間に犀ドールに、一応自動反撃はしようとしていた手持ちの人形ごと吹っ飛ばされていった・・。状況判断甘いよ?
その勢いのまま、小型警備サーバントドールを犀ドールを吹き飛ばしつつ(今のところ犀達しか仕事してない)お楽しみルームの扉が見えるところまで来たっ。
「トッピ、あの扉! 雷属性の防御障壁張ってるわっ」
鑑定するまでもなかった。急拵えで出力を上げた障壁だ。調査員の資料にはここまでの出力は記載されていなかった。
「もったいないけど1体ここで使い切ろうっ。1号! 耐電準備っ、『160パーセントっ、バーストチャージ』っ!」
犀ドールの1体が猛烈に出力を上げて加速っ、扉にブチ当たって感電しながら自爆して扉を突き破ったっっ。
「しゃあっ、カチ込ちじゃー!!」
「ちょっと雑だった?」
「ミドリコと組むと大体こんなもんだから」
「がぁうっ!!」
あたし達は残る1体の犀ドールを先導させて、お楽しみルームへと雪崩れ込んだっ。血生臭さと薬品臭が酷いと思った矢先、
「っ!」
速攻で服装を含め、生前の形状が『残り過ぎている』女のヒューマンドールが蜘蛛のように変形して犀ドールに側面から組み付いて、床で組み合いになったっ。
「2号っ?」
「・・最悪だな。ギルドとは上手くやってきたつもりだが、やはり『生身の人間は信用ならない』ものだ」
忌々しそうに部屋の奥で呟いた顔色の悪いエルフ族の中年の男、オジラは自分の前にファイター職のドワーフを改造したらしいヒューマンドールを立たせた。
「オジラっ!! 観念しなっ。吐くもん吐いたら、懲役100年くらいで済むんじゃない?」
「イーストガーのチンピラ魔女か。チッ、こんな小者が差し向けられるとは」
「また小者って言われたっ!」
行く先々で!
「私は犀で女のドールを押さえるっ」
「よろしく! からのハイリーディングっ!」
取り敢えず1体はトッピに任しながら、相手のヒューマンドールと、ちょっと無理めの解釈だけで、周辺状況を『記号』として認識してざっと把握する。
ドワーフのヒューマンドールはフレッシュだけど3代目御先祖と比べればだいぶ劣る。それでも海千山千の現役ドールテイマーが直接操るとなれば話は別っ。
拷問具だらけの部屋には人の遺骸を使った中型サーバントドールが合わせて5体。ヒューマンドールと違って抽象化された『造形』で、不快だけど『作家性』は確かにあった。
遺骸ドールの『端材』もあちこちに散らばったり積まれたりしてる。合わせて十数名ってとこか・・
「エリオストンっ! ユパっち!! 取り敢えずフルボッコしようと思うけど異論あるっ?!」
「無し!」
「度肝っ!!!」
2人が答えると同時に、あたしはストライカーワンドとパリィワンドを構え、クソ野郎とドワーフ人形と対峙したっ。来いやぁ!




