変わらずの指輪 7
イーストガーからそこそこ離れた平原にあるムーンハート家の野営地は、普段はドールテイマーギルドが管理しているけどドールテイマーは数が少ないから、他のジョブの各ギルドの緊急時用に又貸しする形で使われてる施設。
簡易な魔除けの野営地だと大体楕円形の魔除けの魔方陣の端よりに炉があって、反対側に詳しい解説は略するけど下に対応種の餅魔を飼ってる穴空いてるだけのトイレがあるだけなんだけど、ここはほぼ砦の様になってた。
そこの訓練場で、
「はい、まだ休まない」
「ワタシはもう嫌だっ!」
訓練用の綿入りの防具で身を固めたユパアーカ先輩が『長棍(と言っても子供サイズ)』を手に、平服に檜の棒を持ってるエリオストンをコーチ役にして、泣きながら稽古を付けられていた。
因みにはドラミンは監督役の再従兄弟の父だったダルヨーカ・ムーンハートさんがキッチリ封印の札を貼ってキープしてる。
「ドラミン使うっ、ワタシはドールテイマーだっ。ワタシはドラミンなのっ!」
「魔力の使い方は人形を媒介としているからやはりドールテイマー何だろうけど、闘い方は実質、武僧や格闘士として戦ってるワケだから。今の『怪力の子供が船の錨を振り回してる』みたいなやり方じゃ、高速高精度のドール系の相手に対応できないよ? ずっと俺が付いていられるかわからないし」
「そうだユパちゃん。まさか未だに着ぐるみ状態とは・・せめて形態を集約するなり何なりしないと動きが遅過ぎる。踊り手の一団はそこらの野盗や野良の魔物とは違うんだ。ゴマメ扱いになるぞ?」
「ワタシはドラミンなのっ! あ~んっっ!!!」
とうとうその場に寝転がってジタバタして号泣しだしちゃった。
「・・これは時間掛かるヤツだね」
この野営地の売店で買ったサワークリーム味のカウチをバリバリ食べながら訓練場を見下ろせる上階の手摺のとこでムーンハート家の案内役の人と見物していたあたし。
「魔力の総量は今の内の一族で断トツのはず何だけどね」
案内役はロングフットとのハーフのフェザーフットで、あたしと身長もあんまし変わらない黒い肌のトッピ・ムーンハートは歳も同じくらいで、北ユルソン山脈の遥か向こうの砂漠地帯アビサァ地方で普段は活動しているみたい。
「トッピさ、あの魔法道具のぬいぐるみに何で拘ってんのあの子?」
「御両親の形見のぬいぐるみを自分でサーバントドールに改造したんだよ。あの子も色々あって・・でも随分コミュニケーション取れるようなったんだよ?」
「ほぇ~、でも実力は実力。地下室でもエリオストンのハンディマッチ感、中々だった。今のままだと普通に危ないわ。あの子もあたしらも」
「手厳しいね」
「そりゃそうよ。1個年下でもアウトロー界隈に身を置いてたからさ・・くくっ。ま、それはともかく。こっちはエリオストン達に任せて、ヒューマンドールのサンプル見せてよ?」
「はいはい」
あたしはカウチを1袋完食しつつトッピの後に続いた。
実は野営地に着いてからまだ小一時間くらいしか経ってないんだ。ユパアーカ先輩がトレーニングするしないでちょっと揉めてたんだけど・・
収容されたヒューマンドールのサンプル遺骸は3代目の御先祖が封じられた地下室程じゃないけど、低温を保たれた部屋に安置されていた。
合わせて12体。老若男女種族や職業も様々。御先祖は言ってしまうと完全に魔物に見えたけど、これはフレッシュで造りが甘い分、生前を感じさせた。服装も生前のまんまも多い・・あたしは無意識にフードを被り直しちゃったよ。
「変わらずの指輪を奪われてから7日余りでこの有り様。あの指輪は対価の多くを変化対象に求めるから、効率もいいんだろうね」
「ハイリーディング」
鑑定系魔法を無効化される心配は無いけど、同じ魔法で3代目の時と対比させて判断したかった。
「なるほど・・」
「無理してない?」
「大丈夫。3代目、ミゼフアーカさんと比べたら軽い、というか拙い。・・でも生身だから回復可能で、限界を越えて改造前の能力が使える」
「そう、何も訓練を受けてない一般人でも改造されると、5級ドールテイマーが使う戦闘用のサーバントドール並みの『性能』になっちゃう。あと、『生きてるから回復できる』ていうのも地味に厄介でね。ポーション数本分仕込むギミックを内蔵されるだけで、かなり倒すのに手間取る」
「・・遺族、とかは?」
一応聞いとく。
「これはドールテイマーギルドの方針でもあるけど、全部終わったら『普通の死体』に改造して引き渡す。あんまり死体が綺麗でも蘇生魔法何かが効かないことを納得させるの難しそうだけどね」
「そう。何か、あんまりない義憤みたいなの感じちゃうよ」
ホントね。何のつもり? って話。
「でも間違えないで、ミドリコ。貴女はウィザードギルドから指輪の探索を頼まれてるだけだからさ。私達もハッキリ言っちゃうと、直系で禁忌古物対策室元室長のテパリアーカ様とは感覚が違う。そりゃムーンハート家だからやるだけやるけど、なるべく被害を出さずにやり過ごしたい、っていうのが大半の本音だよ」
「トッピ、正直者じゃん」
「命懸かってるのに、誤魔化してもさ。お互い、上手くやろ?」
「おう。・・もそっと調べとくか」
あたしはトッピに手伝ってもらいながら、もう帰らない犠牲者のドール達の検分を続けた。
翌日、例によって早朝。あたし達3人は犀型のサーバントドール2体が牽く平原を爆走する幌付き荷台(犀車?)に乗って、野営地から北へ、北ユルソン山脈方面に向かっていた。
御者はトッピ。騎竜より速いけど、ドワーフ式のサスペンションや衝撃吸収の魔法素材が使われてるから揺れはそうでもなかった。
この先の岩場に踊り手一派のはぐれドールテイマーのグループの1つが根城を組んでるらしい。
小規模ということもあって、あたしらはまずコイツらを潰して情報を得ようって算段だった。
「トッピさんの故郷は山地のずっと向こう何だろな。あ、変な意味じゃないからね?」
先回りして言い訳するエリオストン。
「・・・」
「・・・」
あたしもユパアーカも無反応。いや、というか! あたしの前に座ってるユパアーカっ。『頭部に、顔面だけだして、集約させたドラミンを被って何やら集中してる』んだよっ! エリオストンにツッコミ入れる余裕が無いわっ。
「え? 待って、昨日の特訓の結果、ソレ? 着ぐるみから被り物にしたの??」
「違う。別のパターンを試してるだけ」
「別のパターン??」
「時間も無いから、結局ダルヨーカさんに提案された『集約化』でやってみることになったんだ。実戦では取り敢えず今回も俺がフォローするから」
「状況良くなってんの?」
『可愛い』から『面白』に転身しただけじゃないの??
「ミドリコ、ワタシとドラミンの新たな力に度肝を抜かれろ」
「キメ顔で言われてもね」
「ユパアーカさん、強くなってるからっ、コレは違うからっ」
「エリオストン、『やればできる子』みたいになってるよ?」
「ワタシとドラミンの新たな力に度肝を抜かれろ」
「それ言いたいだけじゃん」
困惑しかないけど、あたし達ははぐれドールテイマー『オジラ一味』のアジトへとドール犀で運ばれていった。
大丈夫なの??




