野分けのハープ 19
それからどうにか霧雨の降る港町ラニロロに着いたけど既に一部市街戦の跡があって、船じゃ間に合わないから転送門で派遣された海底王国の本国兵と、
町の衛兵に領兵に急遽雇われたファイターギルドの強面の人達が競い合うように警備に当たって物々しいことになっていた。
「ソルトロックみたいにはならないよね? というかあたし、来ちゃってよかったのかな??」
今更だが呟いてしまう。
「あら? てなもん屋の方が随分殊勝な事を言いますのね?」
また両目にライム張ったろかいっ。
「ミドリコ、サイキックタクトしまって、面倒臭くなるから。君も煽らない」
「ゴホゴホっ、どの道、嫉妬の魔女はお前さんが相手しないとどうにもならん。段取り云々は後になれば何とでも言えるわい。ゴホっゴホっっ」
「大丈夫ですか?」
「・・ミドリコ、マルコス爺が死にそう」
「死なんわいっ。ジジイは多少ヒールされても豪雨の中暴れ回ったら誰でもこうなるわいっ、ゴホゴホっっ」
咳き込みまくるマルコスOBっ、腰も押さえて顔が青い。
「ヒールライト! キュアポイズン! ええっと、詰所になってる宿へはどう行くんだっけ? 治療院の方がいいのかな??」
魔法で応急手当てしつつ、ウィザードギルドとドールテイマーで宿を1つ借り上げているはずだった。
と、ザザザっ!
「ほぇ?」
精神耐性系のアクセサリーをこれ見よがしに身に付けた海底王国本国兵らしい連中と、衛兵と領兵とファイターギルドの連中があたし達を取り囲んだ!
「無垢の原始の魔女っ、ミドリコ・アゲートティアラだな?! 海底王国軍だ! お前を『保護』する!!」
「いいやっ、『お前の仲間が龍で暴れて街が壊された』! 我々ラニロロ衛兵隊と署に来いっ!!」
「無垢の原始の魔女との『交渉』は領主が直接行うっ、町の衛兵は引っ込んでろっ!」
「オイっ、ミドリコ! 何だあのニンジャ?! エリオストンまで『しょっぴかれて』俺達ファイターギルドまで詰められてるじゃねーかっ! 毎回大雑把に俺らを巻き込むのやめろっ!!」
何てっ?!
「いやいやっ、情報量!! えっ? ちょっと順番に言ってくれる??」
あたしは混乱した。
・・・大概混乱してるあたしだけど、嫉妬の魔女に関してざっと補足。
イエウ氏に現れたのはどうも原始の魔女の中でも『原始巨人の嫉妬の具現者』。大昔から産まれ代わる度にあたしの一族や他の原始の魔女に延々絡みまくる、厄介な魔女!
精神干渉型で好戦的過ぎるから、どの時代でも討伐対象にされて血統として定着してない。
だから余計に『嫉妬』して他の『血統を得た魔女』に挑んでくるっ。
て、あたしの代ではどうしようもないって。
まぁたぶんウチの始祖は『何とも思ってない』んだろうけど・・・
はい、というワケで、マッチョなヤツら同士で小競り合いしてる内にマルコスOBがブッ倒れちゃったから、
一応ドリアードをキープしたナサイを付き添うに町の治療院に預けてきて、残りのメンバーでラニロロ署の牢屋に来ていた。
「エリオストン! そこもともっと上手く町長を説得できぬのかっ?!『超大型海魔獣』を倒したのは某達であるなりぃーっ!!」
「いやですからね、もうちょっと町から引き離してから戦いましょ? って『28回』言いましたよね? 被害出るから。出たでしょ? 出ましたよね? 俺、何か違ってこた言ってますかっ? ワッパさん!」
「ぬうっっ」
獄中のエリオストンがキレて理詰めで捲し立てるっっ。レア~~っっっ。
「ちょっと。仕事増やしに来たんッスか? ワッパ・ヨッパーノさんと『従者の方』」
「ぬっ? 原始の魔女か?!」
「従者の方て・・」
ざっと互いの状況なり経緯なりを確認し合った。
「何とっ! ゼドに続きマルコスまでもがっっ」
男泣きするワッパさん。いや、身分的にはワッパ『様』何だろうけど。
「マルコス様は入院しただけッスから」
「ぬっ?」
「色々大変だろうけど、取り敢えず確認されてる範囲でポポヨッテ側の嫉妬の魔女以外の最大戦力は仕止めといた。後は・・ファイターギルドの連中に甲虫のアンクレットを預けといたからそれ、使ってくれ」
「わかった。そっちにはこっちのギルドからも弁護人手配してもらう」
「マルコスによろしくなりっ!」
「あ、はい。ニンジャギルドは動いてくれないんッスか?」
「某は『休暇中』ゆえっ!」
「・・・了解ッス」
え~っと、あたし達はラニロロ署を去り、次はファイターギルドの詰所に向かうことになった。
「・・エリオストン、脱落」
「『足りないイケメン』ですわ」
「言い過ぎだよ。彼はセットで処理されただけでしょ?」
「・・・」
あたしが面目無い、みたいになってるじゃん??
何にせよ、相手は戦力減退っ。あたしは甲虫のアンクレットを借りることになった! 守備力アップっ!!




