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てなもんや魔女ミドリコ  作者: 大石次郎


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野分けのハープ 17

薄く魔法障壁を張った『鶴型・改弐』に乗ったトッピ・ムーンハートはユルソン地方の雲海の上を飛行していた。

陽光と風を完全には遮断していないのでゴーグルとマスクをしている。


とウワバミ仕様ではないウエストバッグのポケットに入れていた水晶通信機がデフォルトの無機質な着信音を鳴らした。


「ん?」


落下防止の長いストラップを伸ばし手に取るトッピ。ユパアーカの再従兄弟の父ダルヨーカ・ムーンハートからであった


「もしもし? トッピです」


「ダルヨーカだ。もう北ユルソン山脈は?」


「越えました。ちょっと空の魔物に絡まれたりはしましたけど、今回色々支給されたので」


「うん。ドールテイマーギルドの方は様子がオカシイとはいえ都市の行政サイドとモメるのは及び腰だ。ユパちゃんの保護を優先してくれ。ミドリコ君はまぁ何とかなるだろ」


苦笑するトッピ。


「エルフの人や年輩の方何かも隊に入ってるようなので、なるべく満遍なくサポートします」


「人が好いな。頼んだ。飛行は気を付けて」


「雨を避けてギリギリまで雲の上を行きます」


「そりゃ人形使いの仕事かね?」


「ふふっ、じゃ」


「ああ、よろしく。諸々こちらもフォローはする」


通話は切れた。


「さて、今日合流って断罪室の人に言っちゃったからね。ああいう余裕無い人に絡まれたくないし、鶴! 急ごうっ」


「クゥアアンっっ!!」


トッピを乗せた鶴型のドールは鳴き、障壁を強め雲海の上を加速した。



一方、エリオストン・サマードックは南ユルソン平原北部の国境近くにファイターギルドの者達といた。


この辺りはこの時期でも降雨は特に多くは無く、空は晴れていたがやや冷たい風が吹いている。

平原の先のトエールガ地方は比較的気温の低い地域であった。


「ほっ」


跳び上がって、新調したやや小振りだが魔力が乗り易い両手剣『青のクレイモア』で剣技諸手十字を放ち、『小鬼(ゴブリン)族』の兵を7体纏めて斬り払うエリオストン。


近くの洞穴で過剰繁殖したゴブリンの討伐依頼であった。

ファイターギルドの仕事としては定番ではあったが、倒しても倒しても別の地域、別の時期に過剰繁殖は起こるので『終わりの無い仕事』で、

そこそこ危険度は高いにも関わらずベテランは面倒がる為、若手や食い詰めた者が対応することが多く、結果、事故の多い仕事でもある。


エリオストンの場合、先日4級ファイター試験を受け直したが『実技、筆記、面接、実績に問題は無いが素行点が不足』と評価された為、点数稼ぎで平均レベルの足りない討伐隊のお守りを命じられていた。


「まぁ開けた所で戦えただけマシか、よっと」


大柄な『重鬼(ホブゴブリン)』の側頭部を甲虫のアンクレットの障壁を集約させた左足で蹴り割るエリオストン。

希少かつ自分が持っていても使う機会の少ない人形殺しはムーンハート氏に返却したが、甲虫のアンクレットは報酬代わりに貰っていた。


エリオストンが積極的に隊が押された位置に移動し、突出したゴブリン兵達を抑えていることもあり戦況に問題は無さそうではあったが、時間は少々掛かりそうな気配も感じていた。


若手は技量が足りず、食い詰め連中は身を守ることに必死過ぎて手数が足りていない。


「・・・ミドリコ、あんまり待たせると文句が酷いからな」


狙いを『小鬼王(ゴブリンキング)』と『小鬼女王(ゴブリンクィーン)』に定めたエリオストンは雑魚を斬り伏せつつ、草地を駆けた。


首魁を伐てば退散を始めるだろうが、場所は平原。討伐隊員は『弓等飛び道具が使える事』を条件に集められていた。伐ち漏らしは無いだろう。


5体、8体、13体、斬ってゆくが中々雑兵の壁が厚い。食い詰めの隊員達がホブゴブリンの群れとカチ合うのを恐れて持ち場から下がった為、陣形が乱れた結果だった。


(対応力を越えた配置をした俺のミスか。やっぱり集団戦の采配は苦手だ)


エリオストンは予定を変更し、狙いをゴブリンクィーンのみに絞った。キングの方が手強いがクィーンは魔法を使う。集団戦で後に残すとより厄介だった。


切り替えたエリオストンが回り込む構えを見せた瞬間、


「っ!」


上空から凄まじい雷の魔力!


ドォウッッ!!!


電撃のブレスがゴブリンクィーンと周囲のゴブリン兵達を消し飛ばした。


「なっ?!」


空を見上げると、頭部に1人の人物を乗せた雷竜(サンダーナーガ)が高速で飛来してきていた。

人物はフェザーフット族のニンジャ職らしき装束。


(ニン)っ!」


人物は主張の強い掛け声でサンダーナーガから飛び降り、鉤爪を二刀流に構えゴブリンキングに躍り掛かった。


「『超ソニック飛天返(ひてんがえ)し』っ!!!」


ゴブリンキングと周囲のゴブリン兵を消し飛ばす二刀流ニンジャ。


キングとクィーンを失い、残存のゴブリン兵達は慌てて散り散りに逃げてゆく、エリオストンはワケがわからないなりに、謎のニンジャは敵でないと即断した。


「これは増援だっ。武器持ち替え! ゴブリン達を追い射てっ!!」


号令を出し、戸惑う討伐隊員の装備を飛び道具に替えさせ、追撃を行わせた。


「・・・援護、助かりました。ニンジャギルドから、ですか?」


正直無さそうであった。ゴブリン討伐にこのレベルのニンジャ職は大袈裟過ぎる。


「うむ! (それがし)はニンジャギルド『魔獣対策室(まじゅうたいさくしつ)室長』ワッパ・ヨッパーノなりぃっ」


東方の古典演劇のような見栄を切ってくるワッパ・ヨッパーノ。


益々困惑するエリオストン。虚偽にしては実力が伴い過ぎていた。そしてミドリコの件の関係者でもあったはず。


「ゼド氏の件で」


「いかにもぉおおっっ!! 戦友(とも)、ゼドよぉおお!!」


反応の激しさに戸惑うばかりのエリオストン。


「・・トエールガ地方の仕事の帰りでな。お主、原始の魔女ミドリコ・アゲートティアラの仲間であろう? 龍に乗ってけ。昔の仲間のやり残し、思ったより拗れていたようである。遅過ぎたが、あっ、助太刀致すぅぅっっ!!!」


より激しい見栄。龍もそれ付き合い、演出用に軽く背後に放電してみせる。


「そりゃ、またご苦労様で、え~・・お世話に、なります」


尋常な人物ではない、と諦めたエリオストンは副隊長を勤める者に手短に引き継ぎをして、サンダーナーガに飛び乗った。

ワッパも即、一跳びで乗り直してくる。

ゴブリンを追い伐ちする討伐隊が唖然と見上げる中、龍は軽く放電しながら風の障壁を張りながら、空へと舞い上がっていった。


「龍ならばっ、転送せずとも一息なりぃっっ!!」


「よかったです・・ハハ」


取り敢えず笑って返しつつ、本来、多少素行に難があっても精々腕利きの傭兵程度で終わったはずの自分も、ミドリコに関わると『冒険者』らしくなってしまう物だなと、どこかこそばゆくエリオストンは考えていた。

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