野分けのハープ 12
「綺麗に壊れているな」
「もっと早くに預けてもらえばな。そもそもアーチャーギルドの領分であろうし、詳細の報せも無く20年余り経過、論外だ。禁忌古物・・とも言い難い」
ウィザードギルド特別断罪室のヴァルトッシェ3級指導官と同じくウィザードギルド禁忌古物対策室室長の東方の血統らしいドワーフ族の老人『ショウゲン』様がしかめ面で台座に納められた壊れた野分けのハープを検分していた。
嵐の属性の+3級の竪琴。何やら清い力も感じた。
あたし達は水神の廟で無事? ハープを回収し、イーストガーのウィザードギルド本部に戻ってきていた。
ハープを渡したら報酬をもらうなり、罪歴をまたいくらか抹消してもらい、とっとと帰れるかと思ったら、1人待たされ、この状況!
禁忌古物対策室の一室であたしはヴァルトッシェ指導官とショウゲン様と1人で面と向かうハメになっていた。
くっ、一昨日の午前中は『お尻は元々割れてるよ?』的な事を言って和気藹々と冒険してたのにっっ。
「ミドリコ、ドールテイマーギルドやゼドのかつての仲間達、ポポヨッテのオーシャンピープル達にも探りは入れてるが、お前の感触ではどうだ?」
「感触? えーと・・」
ハープ回収して依頼完了! くらいしか考えてなかった。
ヴァルトッシェ3級指導官は溜め息をついた。
「もういい。追加で資料と経費を渡す。情報の整理を付けてから、もう一度っ、ゴロロの町に戻り詳細を調べろ。その海の魔物の群れ強襲とやら、どうも鎮めただけのように見て取れる。危機は去っていないはずだ」
「いやでも、何かその痴情縺れ的な・・・」
「そんなことはどうでもいいっ、霊器の類いを回収しただけでは事態収拾にはなっていない! 再びゆくのだっ」
「了解ッス」
任務続行かぁ・・
「君もツイてないね。取り敢えず野分けのハープの修復はしておこう。これは悪しき物ではない。むしろ魔を祓う物だ」
「はぁ。お願いしときまッス。・・それじゃ」
あたしは退室した。
「ふぅ~・・卒業してから半年、ほぼ音沙汰無かったのに、最近、スクールの時の感じに戻ってきてるよね? ヴァルトッシェ指導官っ。完全に目を付けられてるわぁ」
とぼとぼと歩きだし、途中、やたら歯車の付いた扉がたくさんある壁面に着く。これ全部、本部内のあちこちの扉に繋がった簡易転送門。
「ええっと禁忌古物対策室の事務所行きのドアどれだっけな?」
ちょっと迷ってると、いきなり1つが開いて、エルフの魔女が飛び出してきてあたしに首に腕を掛けてきたっ。
「ちょっ?」
「ミドリコ・アゲートティアラ! また古物絡みの面倒押し付けられたってぇ?」
特別断罪室スティールチズル姉弟の姉! ゼゼミオだっ。
「まぁ、そんなとこッスよ」
「弟は別件で出てて、暇にしてんだよ。私がソロ別動で! サポートしてやろうか?」
「え、大丈夫ッス。お断りしま、痛たたっっ?」
ヘッドロックに変えてきたっ。結構なパワー!
「『血統』の力は潰しが利かないんだろ? 私を利用して保険掛けとけよ、ミドリコ! 原始の魔女っ」
「掛けますっ、掛けますっ、保険掛けさせて頂きます!」
「そう、それでいいんだよ。私はポポヨッテにツテがあるから、直に行って調べてきてやる。あんたは『お友達』達と、海辺でウロウロしてな」
「・・・」
ヘッドロックから解放された。それなりに『嫌なパイセンムーヴ』をカマしてっ、ゼゼミオは歯車のドアの1つからどこかへ転送されていった。
「んだよっ、自分ポポヨッテ行きたいだけじゃないのっ?」
くっそぅっ、ちょっと半泣きにさせられたっ。
いつか姉弟でギャフンと言わせてやんからな!
そんな不毛な流れで事務所で資料をドッサリもらったあたしは、金の根っこ亭の大部屋に戻った。
「ということだったんだよっ」
「大変でしたねぇ」
イーストガーまではさすがに付き合わせられなかったアルは水晶通信で話に加わってた。
「しかしミドリコ隊の活動は続行ですね!」
ガラスの森から遠いけど付いて来ちゃってるナサイ。
「・・泣かされたのか。2ドロップやろう。ワタシとドラミンからだ」
スライムの賭けでも勝ってるから鷹揚にマジカルドロップを渡してくるユパっち。
「泣いてないしっ、袖がちょっと目に入っただけだしっっ」
思い出し半泣きしつつ、恵んでもらったドロップをもにゅっと口に入れ、海辺探索特化! 第2次ミドリコ隊の再出発は決まった!!




