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てなもんや魔女ミドリコ  作者: 大石次郎


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野分けのハープ 10

「ディフェンドシェル! 高速飛行魔法(ピクシーウィング)!」


守備魔法でざっくり雨粒を避け、魔力消費が大きい飛行魔法は魔法石の欠片を1つ使って補い飛び上がる!


バシュッッ!!!


雨粒が轟音を立てて魔法障壁に当たって進行方向の視界悪っ。だが音と派手な水飛沫と『宙のより高い位置』を侵したことで注目を集め、まるっと見下ろせる位置にも上がれた。


「ハイリーディング!」


渦巻き状になって追ってきだす種類は色々な淡水系の『敵性浮游魚類(ハンターフィッシュ)』の大群を観測する!


雨季の始まりに、魔除けの林道から外れた人里離れた川辺に来たらこうもなるっ。


「スタンウィップ!!」


精度優先で教練のワンド・改に魔法石の欠片2つを対価にっ、細く圧縮した鞭状の電撃で追ってきたハンターフィッシュの群れを纏めて縫うのように貫通させて感電させて仕止めてやった!

放電タイプはいなかったから『濡れてる魚』には効果抜群だぜっ!


強く帯電させたまま地上に降らせると仲間に被害が及ぶかもしれないから9割くらいの電撃は杖で巻き取って、ついでに魔力をリサイクルした。


「おっっ?」


使いきれなかった魔法石の分、少し魔力過剰になって額にアゲートティアラの紋が浮かびそうになって慌てて宙に放電して調整する。

危なっ。一次解放だけでもクールダウン後、半日はふにゃふにゃになっちゃうからわりと致命的何だよね・・


「さてと」


地上の、水量上がってるから魔物抜きでも普通に危ない川辺では、残りの20体くらいのハンターフィッシュに、


ユパっちはドラミン鞍の熊型・改参に乗って熊の針弾(しんだん)で無難に応戦。

ナイサは川だから柳の樹ベース? の何かワサワサしてるドリアードの鹿に乗って器用に霊木の弓で矢を射って応戦。


そして新たに同行することになったゴロロのオーシャンピープル商会の事務員にして髪ふわふわなアル・シャインスケイルは、

雨中で川辺と淡水でもオーシャンピープル向きな環境で絶好調! といった感じで「よいしょっ」とか、おっとり目の掛け声なのに+1くらいの珊瑚の装飾の銛で次々とハンターフィッシュを両断&貫通していっていた。わりと近接タイプだよね・・


あたしはあとは有利な高度をキープしつつ、基礎攻撃魔法で援護するに留めるだけで十分だった。


無事退治はできたけど、あたし達は別に「よしっ、発作的に川で怪魚の群れと殺し合いしに行こうぜ?! ひゃっほうっ」となったワケじゃない。


『ミロロ川のポポヨッテ民管理域にある滝の水神(すいじん)廟に行く』


という目的があった。


ミロロ川はあたしらが活動しているユルソン地方の大河、瑪瑙(めのう)川の支流の1つでゴロロの町の先の山地にある。

そのミロロ川の源流の一地域を海底の町ポポヨッテの管理していて、廟はそこのとある滝の裏にあるらしい。


「オーシャンピープル、結構陸まで攻めてるよね。というか歩くのダルっ」


あたし達は危険な川辺から崖の上のうっすら魔除けの利いた山道だか林道に移って、のそのそと進んでいた。


さっきのハンターフィッシュの群れは魔除けの基点の1つが雨のせいで起きた崖崩れて壊れて機能してない所を狙われだけ。ヤドカリとか魚とそんな戦いたくないしっ。


「騎竜と馬は樵の方々の所に預けてしまいましたからね」


「わたくし達が進出できるのは本来川の下流までですよぉ? 淡水種ではないので。まぁ今は雨の多い季節ですし動き易くはありますがぁ」


「・・・」


土が剥き出しで緑の多い所だからずっと鹿形態ドリアードの召喚を維持できてるナイサは鹿の上! 水辺で雨降ってるから浮游の維持が楽なアルはずっと浮游! ユパっちはいつも通りオン・ザ・熊!


「徒歩あたしだけじゃんっっ」


「・・魔法にばかり頼らず、たまには自分の足でしっかり歩いた方向がいい、とドラミンも言ってる」


「ユパっちだけには言われたくないしっ!」


ゴネたけど、ショートカットできる転送門も途中になかったので黙々と歩き続け、日が暮れる頃、目当ての『廟のある滝が見下ろせる崖の野営地』にたどり着けた。


「うひょーっ、東屋付きじゃん! 合羽干せるっ、トイレも水洗キターっ!! え、こんな高い位置なのに構造どうなってんの??」


普通の旅人どころか冒険者の類いも来ないので人気は全く無い感じでも結構ちゃんとした野営地だった。景色もいい!


「ちょっとアル、ここに茶店を作って観光地化すればマネーチャンスが」


「ダメですぅ。すぐビジネスを始めようとしますねミドリコさんはぁ、ここは立ち入り禁止の聖地ですからぁ! めっ」


「それよりお腹好きません? 昼間のハンターフィッシュの中から美味しい種だけ選りすぐって持ってきたので調理しましょう!」


「・・魔物料理するの好きだね」


「ふふふ、森暮らしですからっ」


というワケで夕飯はハンターフィッシュのフルコースになった。


「ふうっ。ま、それなりってとこだね」


「・・エラそう」


完食後、あたしらは雨を避けられる東屋から、水の魔力が強いから魔力の粒子の発光現象がぼんやりと起こってる滝壺の辺り見下ろしながら、食後のフェアリーカモミールティーを飲んでいた。

ナイサとアルは茶にそれぞれ好みの酒を少し落としてる。


発光現象で滝の裏の廟の入口が少し見える。


「アル、聞いていい? ゴロロの町のゼド像。あんまりちゃんと管理されてなかったみたいだけど? 町の人達は由来もほぼ知らないみたいだからしょうがないけどさ」


「お恥ずかしい話ですがぁ」


アルは気まずそうに瑪瑙マンゴーのリキュールを落とした茶を一口飲んだ。


「ゴロロの商会や廟等を統括するポポヨッテの有力者の方が9年程前に替わってしまわれて、その方はゼド様の件を快く思われていらっしゃらないようで、わたくし達は像に近付けなくなっていたのですぅ」


「野分けのハープで魔物退治に協力したのにですか?」


「その、ゼド様は統括されてる有力者の方の妹君と、その、何というか、所謂、『近しい御関係』になられていたようでぇ」


「・・何だ、『痴情の縺れ』か。てドラミンも言ってた」


ドラミンは洗って干されていたので過去形でユパっちが言って、この場にめちゃ重い空気が流れることになったのさ・・・


翌日、滝の裏に続く細道をぐるっと回り込んで、あたし達は廟の入口まで来た。

滝の裏ってだけでなく、奥からひんやりとした氷の魔力を感じた。こういう流水近くの暗所って氷の魔力溜まり易いんだよね。


「スライム出るんだろ? こっちにしとくかっ、ネガトーチ!」


あたしは魔物が反応し難い青い負の篝火を数個灯して照明にした。


「一応、確認させて下さい。本当に野分けのハープは回収してよいんですよね?」


そう、この奥にあたしらが求めた、野分けのハープは納められてるのだ!!


「はい、ハープは破損していて補修は必要ですし『また災いが起きた時、これを使って鎮めてほしい』というのがゼド様の遺言だったそうですぅ」


「オーシャンピープル主導じゃなくていいのかよ? その『統括の人』とかいうの、厳しそうじゃん?」


「むしろオーシャンピープルの聖地の1つからこれを機会に排除したいみたいですね。水晶通信でもわたくしに『速やかに』と強く命じられていましたからぁ」


「ほぇ~、何かやな感じ!」


「すいませんん」


「アルが謝らなくていいけどさ」


「ですねっ、『血が混じる』ことにうるさいこと言う人が悪いんです!」


「・・速やかに、には賛成する。痴情の縺れに関わるとロクなことにならない、エリオストンを見て学習した」


ユパっち、痴情縺れの件推すね。

あたし達はまた気まずくなりながら、陰火に照らされた廟の奥へと進みだした。


何の縺れでも、野分けのハープっ、いよいよゲットするぜい!

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