野分けのハープ 9
だいぶ遅くなったから宿に帰る頃にはユパっちは、か~な~り不機嫌だった。
「・・糖分」
「はいはーいっ、マジカルドロップ『プレミアムクリスタルメロン味』だぞ?」
「・・普通のでいいのに」
と言いつつプレミアムなドロップを3個を口に入れてモニュモニュ噛みだすユパっち。マジカルドロップは樹脂みたいな歯触りだかんね。
「有益な情報を得ましたよ? 心の強さで!」
「そうそう、心の強さでね」
「・・・何?」
余計イラっとさせたっ。その場にいないと伝わらないヤツか。
取り敢えず、揚げたカットソーセージを詰めたライスボールと辛い海老と玉葱のスープと瑪瑙タロ芋のベイクドケーキも差し入れし、ナイサが蜂蜜入りのフェアリーカモミールティーも淹れて御機嫌を伺いつつ、あたしらは成果を話した。
ゼド像の工記によると、資金提供者は海底にある町『ポポヨッテ』のオーシャンピープル達だった。
どうも彼らは海辺の魔物騒動から数ヵ月後にゼドの墓参りを兼ねて陸の様子を見に来てたまたま途中で寄ったゴロロの町で、『ゼドの最後の活躍がほぼ伝わってない』ことに驚愕して! せめてもの手向けに、とこの町に像を寄贈することにしたらしい。
工記には、
『気前は良かった』
『何やら忙しいらしく、注文と落成式には代表が顔を出したが他は陸で活動するオーシャンピープルの商会が代行した』
『ゼドの無名に義憤を感じているようだったが、詳しい事情は話さなかった。商会からも詳細はなかった』
『下手に首を突っ込まない方がいいと判断し、余計なことは調べなかった』
といったような事がかなり端的に『備考』のような形で走り書きされていた。
「祠巡りは一旦置いて、ゴロロの町のオーシャンピープルの商会に聞き込みしない? ヤドカリに殺されそうになるし」
「・・いいと思う。ただ何かトラブルのニオイもするから、ギルドに経過報告はしとこう。ドラミンもそう言ってた」
触れてない状態だとドラミンは『過去形』で話すんだよね。ま、いいけど。
あたしらミドリコ隊は少し活動方針を修正することになった。
翌日、相変わらずの塩っぽい気がする小雨の中、宿から3人で出ていた。
「昨日から言ってるけどさぁ『熊型・改参』カッコよくない?」
合羽を着たユパっちは鞍ドラミンを敷いた再改造した熊型に乗っていたんだけだ、新しい熊は暗色系でシャープなデザイン! カッコイイっ。
「・・何回も言わなくていいよ。ふっ」
満更でもない様子のユパっち。
「防水防湿防塩機能アップで、魔法障壁も強化! これは商品化できるんじゃないでしょうかっ?」
「・・難度高い。ドラミンの鞍がないと乗り難い。維持コスト上がってる。変形してワタシと合体する前提。売れないよ」
「そうですかぁ、残念です・・・」
「というか『ドラミン自体』を量産できないの? それ、チートじゃね?」
自在に変形しバフも掛かりまくりの謎ドール!
「・・それは無理」
「ええ~?? ベースはヌイグルミだろ? 強化材料教えろよぉ」
「・・無理。悪用しそう」
「んだよぉぅっ」
等と言いつつ、あたし達はゴロロの町のオーシャンピープル商会に向かった。
「ほほう」
「小じんまりとしてカワイイですね」
青い平屋の建物で『人魚の家をモチーフとした民宿です』と言われても納得しそう。
一応、建物と敷地を覆う水の魔力を底上げする結界を展開する、低めの柱型の設備はちらほら置かれていた。
「・・宿で聞いた範囲だとゴロロのオーシャンピープル住人は20人くらい。出入りもそんなに多くないだろうし、商会の支部があるだけでも珍しい」
ゴロロは海に近いけど海には面してないかんね。オーシャンピープルはちょっと生活し難い。
「工記の話でもポポヨッテのオーシャンピープルはまずこの町に来てたから、そういう動線があるのかも? てドラミンが言ってる」
「う~ん。ま、取り敢えず入ってみよう。こんちはーっ! うおっ、水の魔力強っ」
「失礼しまーす」
中に入ると、魚の下半身のふわふわ髪のオーシャンピープルの姉さんが浮遊して陸珊瑚の鉢植えの手入れをしているところだった。
「はい、いらっしゃいませ。ここ宿やダイナーじゃないですからねぇ?」
やっぱり間違えられるらしく、事務員風のふわふわ髪の姉さんが前以て訂正してきた。
「しかしこの小洒落た外観! 儲かりそうだぞう??」
何か隙がある姉さんだったので絡んでみる。
「ええっ?」
「ミドリコ」
「イテテっ」
室内で熊に乗ってる子にツインテ引っ張られたっ。
「ワタシ達はゼド像のことで来た。ここの商会が対応したはず」
「ミゾガス工房で調べました!」
「ミゾガス・・ゼド、様の?」
忘れていた名前を聞いたような顔をするふわふわ髪の姉さん。むむ?




