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てなもんや魔女ミドリコ  作者: 大石次郎


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野分けのハープ 8

「頼もうっ!」


「すいませーん、お話伺いたいのですがぁ?」


工房は出入口付近に見本の石像等が置かれ、右手壁側には様々な石材の見本。左手側には工具がズラっと置かれていた。


奥には作業場と応接スペースがあって、応接スペースにドワーフの爺さんと黒い肌のロングフット族の中年の男が座って、ボードゲームらしいのをやっていた。


「何者だっ?! いらっしゃいませ!」


「『ボードゲーマー』の気配を感じますね。ククッ」


「・・・」


「・・・」


店員の癖、強っ。というかロングフットの方は店員? 何かの制服は着ているけど、石工ではないような??


「実はあたし達」


2人にざっと事情を話した。


「できればお話か、工記(こうき)なりを見せて頂きたいのですが」


「あ、そうそう工記ねっ。見せてよ?」


ドワーフの方が腕を組んで鼻から息を吐いた。


「まずゼド像の話に関しては・・『19年前の時点で既にワシは引退していたので店のことは息子に任せてある。因みに息子は旧ソルトロック領で補修の仕事をしていていない』よって、話すこと無しっ!」


19年前の時点で引退てっ、これだから長命種(ドワーフの寿命は200年)は! まぁいい。


「工記はあるよね?」


「ある! だがっ、タダで見せるワケにはゆかんっっ」


「え~? お金取んの~っ」


「金等取らんっ、コイツで勝負だ!」


ドワーフの爺さんは得意気に応接スペースの卓の上のチェス系のボードゲームの盤を示しきた。



説明しよう、『オーシャンチェス』・・海辺で盛んなオーシャンピープルが広めたチェスゲーム。取った相手の駒を自軍に加えることができるが最前の駒より2列後ろにしか置けず、駒全般長距離移動に制限が強いこともあって局所戦で駒の取り合いになり易いアグレッシブなチェスゲームである。

4代目の聖ユルソン王国の国王が瑪瑙海の海底王国国王にこのチェスゲームでコテンパンに負け、「嫌いっ、もう外交しない!」と憤怒してしまった為、ミドリコ達が活動する聖ユルソン王国は未だに正式に瑪瑙海の海底王国と国交を結んでいない。

亡くなったゼドに関する情報収集が難航気味な由縁でもあった。



というワケであたしはオーシャンチェスの盤を挟んで対峙する先代ミゾガス親方とナイサの脇に急遽作られた『実況席』にロングフットのおじさん並んで座っていた。


「いや~、とうとう始まりましたねっ、ミドリコ氏」


「あー、うん。えっと、おじさんはここの店員じゃないよね?」


「私は4軒先の貸本屋の主人ですが店の方は娘夫婦に任せて、主に昼間は近所の友達の家を訪ねて回ってます」


学校無い時の子供みたいな行動パターン!


「そう、なんだ・・というかチェス、あたしが出てもよかったんだけど?」


「ダメだダメだ! 魔法や杖何かを使ってインチキする気だろ?」


カチーン。図星だけどっ。


「ナイサだってドリアード使えるよっ?」


「いや、アンタは『何か嫌だ』っっ」


「ぐっっっ」


本能的に拒否られた!


「大丈夫ですミドリコさん。私はクォーターのエルフです。『永い暇な時間』の中ではオーシャンチェスに興じる年月もありました!!」


「お、おう」


ホント暇だったんだね・・


「負ければ、在庫整理を手伝ってもらうぞっ? お嬢さんっ!」


「望むところですっ、工記は見させて頂きます!!」


「では先行は挑戦者ナイサ氏から。持ち時間は守って下さいね?」


「はい、ゆきますっっ」


正直、オーシャンチェスのルールよくわかってないから先手が有利かもよくわかんないんだけど、ナイサが『鰯の歩兵』をターンっと盤に置いて、先代親方とナイサの戦いは始まった!


「ナイサ氏っ、鰯の歩兵に石鯛(いしだい)重装兵を絡めて縦に縦にと攻めますね!」


「お、おお」


駒の移動が重いボードゲームだから同時に複数のことはやり辛いようで、盤の左右の駒はほぼ不動。中心の駒だけで取り合いになっていた。


「対するミゾガス(おう)海王(かいおう)への侵入路を大蛸(おおだこ)兵等の斜め移動駒で囲う『穴子(あなご)構え』で迎え撃っています!」


「蛸なのに穴子何だ」


まぁでも移動力が低いから斜め駒を縦に並べられると、途中で討たれちゃうんだな。このゲーム持ち駒は2列後ろにしか置けないから押し切り難いし。


でもこれじゃ埒が明かないんじゃ? と思っていたら、縦に動いていた戦局が徐々に右方向にズレだした。

ズレると互い取れる駒が変わって、動きも変わり、それぞれの陣形が崩れてカオス化しだした!


「あれ~? こんな動き重い感じのルールでもこんな荒れるんだ」


「重いので最初縦に動いて距離を稼がざるを得ないのですが、縦に対して横や斜めや一段飛び等で有利を取っていると自然と陣形が崩れるんです。そしてその駒の重さから一度崩れる完全には立て直せなくなるっ。この2局面のコントラストがオーシャンチェスの醍醐味なのです!」


「ほぇ~」


スクール時代必修だった『ウィッチチェス』はイカサマ合戦だったけど、色んなチェスがあるもんだ。


陣は右にズレた後、また真ん中に戻り、そこからさらに左にズレて全ての初期配置が乱れる頃、ナイサの取られたら負けの海王の駒に、元親方の穴子構えと比べるとショボいけど申し訳程度に壁になる駒が数個置かれた形になった。


ここでナイサの顔付きが変わった!


「・・ミゾガスさん、お髭が煤けていますよ?」


「何っ?!」


どゆこと??


猛攻が始まった。ナイサは相手の海王以外の駒を取ることには注力せず、自軍の海王の守りも貧弱な壁役に投げ、ひたすら相手の海王を取りに掛かる手を打ち続けた。


「何という捨て身っ。何という心の強さっ。ナイサ氏がミゾガス翁の海王に喰い下がり続けますっっ!」


おおおっ、ルールの詳細はわからないけど、凄い勢いだっ!


「はぁあああーーーっ、です!!」


「うぉおおおーーーっ、じゃ!!」


捨て身のナイサっ、守りつつナイサ陣の貧弱さを突こうとする元親方!


決着は・・・っっっ!!!


「参った!」


「勝者っ、ナイサ・オータムアンブレラ氏っっ!!!『心の強さ』で押し切りましたねっ」


そのワード推すね。


「はいっ! 心の強さで攻め続けました!!」


乗ってあげんだ。


「ワシの穴子構えがっ、心の強さに破れたぁっ!」


あんたも乗っかるんか~い。


「いやぁ、ミドリコ氏! 見事な心の強さでしたねっ?」


「あ~~・・いい、心の強さだったね!」


もう言うしかないじゃん。


最後までルールの詳細はよくわかんなかったけど、あたし達は『ゼド像の工記』の閲覧許可をゲットしたっ!


心、強かったぜ?!

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