野分けのハープ 1
羊歴781年、5月時竜王の月の中頃、この間すったもんだあったソルトロック領に近い、ガラスの森にあたしとユパっちは来ていた。
ここは魔力も強いけどエルフ由来の植生もあって結晶化傾向の植物が多い。
薄曇りの空からはポツポツ小雨が降っていたけど、結晶の木々の枝葉のお陰でさほど気にならない感じ。
「・・ワタシは『野分けのハープ』探し、辞めたい。ドラミンもそう言ってる」
ギルドでタダで借りれた騎竜に乗ってるあたしの横で、ドラミン鞍の熊型・改弐(驢馬くらいに小っちゃくなった)に乗ってるユパっちが脈絡無く言ってきたっ。
「いきなり過ぎでしょっ? 3日前に始めたばっかじゃん??」
体調がある程度回復してからもゲームブックにハマったあたしとユパっちはアリシャ隊から『お勧め中古ブック』をどっさり買い込み、ミドリコ城でゲームブック三昧で貯金を消化する楽しい日々を送ってたんだけど、
「お前らいい加減にしろっ! 働く気配も無いとは何事だっ?!」
「平原の家にいた頃より酷くなってるじゃないかいっっ」
ヴァルトッシェ指導官とテパリアーカ様が怒鳴り込んできて、20年くらい前からガラスの森近い沿岸部で見失われてそれきりになってる、野分けのハープ、を探すバイトをするハメになっていた。
「家から離れて尋ね歩く毎日に疲れ果てた。工場のラインで蒸し小豆饅頭にピンクの点を付ける仕事に従事したい」
「あたしより意欲の低いヤツに初めて会った?? それはそれでホントに仕事してる人いるかんね?」
「がぅ~・・」
「移動長いから飽きただけだよね? 次の魔除け野営地、転送門併設だからさ、そっからジャンプして近場のエルフの郷に行こ。すぐだって」
ホントはそこで1泊するつもりだったけど、ユパっちがこれ以上グズったらややこしいわっ。
魔除けの利いた林道を少し外れ、ショートカットすることにした。泊まらないならジャンプした先からの移動を考えると途中で日が暮れちゃうぜ。
熊型と騎竜には魔除けを提げさせてるけど、案の定、林道を外れると植物属性の緑餅魔の群れがちょっかい掛けてきたりしたけど、熊型の『麻痺針ブレス』とあたしのマナショットで軽くいなし、そのまま野営地まで直通で進もうとした、
と、結晶の頭上に気配。殺気や敵意は無い。
「いい手際ですね」
森の民族服を着た弓を持ったエルフの娘がいる。
「ガラスの森のエルフっすね。あたしはウィザードギルドのミドリコ・アゲートティアラ。こっちは助手のユパっち・ニートポンコツドルフ、イテテっ」
ツインテの片方をグイっと引っ張られたっ。
「ワタシはユパアーカ・ムーンハート。ドールテイマー・・」
「ふふっ、仲良し何ですね」
「ええ~?」
「そうでもないとドラミンが言ってる」
「私はナサイ・オータムアンブレラ。転送門の野営地に近道してるなら、バサ郷に行くんでしょう? 私もそこに帰るんです。同行してもいいかしら?」
あたしとユパっちは顔を見合わせた。
特に断る理由は無いね。