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変わらずの指輪 18

世界の始まりに原始巨人が死んだ時、その欠片の中で『魔法』の形を取った物がいくつかあった。


その1つの力があたしの一族、アゲートティアラ家には伝わってる。


それは『未分化さ』。最も純粋な混沌の具現。


真下の人形達の奔流とも似た形で、あたしの奇妙な髪が妖しく輝いて脹ら脛の辺りまで伸び、背後に広がった。

髪の斑模様は多数の蛇がのたうつように激しく変わり続ける。


合わせて歴代のアゲートティアラ家の魔女達の記憶の断片が脳裏に掠め、力が、溢れ出す!


初代何て『謎に蠢く肉片』の中から出てきて「うっほ~いっ!」とか真っ裸のまんま笑って飛び出して原初の魔物達を粉砕しまっくっていて、もはや人間かどうかかなり疑わしいっっ。


鼻血も出たけど拭い、あたしは槍の人形2体と引き替えに全てのウィスプを退けた踊り手と対峙した。


ストライカーワンドとパリィワンドはそれぞれ結晶に覆われ光る奇妙な剣の形に変わり、あたしは双剣を構えたようになった。


「・・フフッ。醜く足掻いた先で、真理の一端に拝謁できるとは、光栄だ」


仮面の下で踊り手は笑って、追加で25体の槍のヒューマンドールを召喚した。

これに飛翔大蛇(エアヴァイパー)を召喚して乗っていたヴァルトッシェ指導官が即座にマナショットを連打して牽制するっ。


「露払いしてやるっ。存分に暴れろ!!」


「・・うッス」


さっき脳にブチ込まれた始祖のキャラの記憶が濃過ぎて思わず「うっほいっ」と返事しそうになってしまったけど、自我を保って返答! 負けるもんかっ。


コイツが『情報だけでも依り代があれば当たり前の顔で現実世界に具現化してきやがることは散々懲りてる』んだよっ!


「原始に触れてみるか」


踊り手は指導官の目論見に特に抗わず、というか向こうも邪魔されたくなかったようで槍のドールは全てそちらに回し、あたしに対して変わらずの指輪を不吉に輝かせ、異形の、おそらく旧世紀の法式を多重展開させた。


「っ!」


あたしの手足が変質し『人の皮を被った人形の四肢』に変換されてゆくっ。が、


「この手の術は利かないかんね?」


蠢く斑の髪が一際強く輝き、法式は強引書き換えられ一旦光の法式に変換されたあたしの手足は元の実体に戻り、編まれた指輪の法式の陣は砕けた!


「今のあたしは『魔法その物』」


「生命を持つ法式・・高次存在。フフフッ。魔法は本来自由なのだろうな」


停滞していた真下の人形の奔流が逆巻きだしたっ。


「現れろ、ブラックブリッジドール」


人と人形で成形されたいくつも鐘を鳴らしながら、全ての奔流を使って巨人型のドールが現れたっ。

その胸部か開き、指輪を使って『心臓の人形』と化した踊り手が収まり、人形の巨人に仮初めの生命を与えた!


巨人は右腕を全損させながら、


「あっ?」


力任せにゲラント達の障壁を砕いて一撃で全滅させると、あたしと対峙した。そこ、そんなあっさり行っちゃうの??


「運命以外に挑むのは初めてだっ! 原始の魔女! 私はお前が妬ましいっ。ハハハッッ」


笑って細剣(レイピア)状の針の弾丸を連発しながら、巨体で素早く襲い掛かってくる踊り手の巨人人形!


「えっ? どんな感情なの?? ま、いいや。ハイリーディング!」


今のあたしなら『完全に止まった視界』の中で観測できる。


(ふ~ん? 針も本体も、触れた物体と霊体を破壊する性質か・・地下室崩壊しちゃうから取り敢えず、保護しとこう。竜鱗魔法(ディフェンドシェル)


鱗状の魔法障壁でざっと既にガッツリ壊されてた部屋を最低限度保護する。


(問題は巨人ドール本体。この法式と指輪の性質からすると、踊り手の魂を使い切ると『暴走後に消滅』するだろうけど『周囲の対価対象を吸収し続ければ』指輪が壊れるまでは存続、拡大し続けちゃうな。そうか・・この指輪、何か『不滅の物』を造ろうと開発されたんだ)


あたしは一考した。別のことに意識が行ったから始祖人格の霊体が勝手に現れて「ほよほよ」言って纏わり付いてきたけど、スルー。というか、ただの記憶のクセに存在が強固過ぎっ。


(うん、踊り手の自我がある内に終わらそう。この指輪は回収しない!)


あたしは始祖人格を追っ払いポフンっ、と煙と共に消して、限界突破ハイリーディングによる時間停止を解除した。


「原始の魔女よっ!!!」


テンション高めな猛攻は全て躱し、必要な法式を練り終わるとパリィワンドの剣で左腕の一撃を払って大きく仰け反らせた。


砕け散る魂の光魔法(アークノヴァクレスト)


ストライカーワンドの剣の切っ先を巨人人形の心臓に向け、あたしは滅びの魔法を発動させた。


数え切れない抽象化された光でできたアゲートティアラ家の紋章が巨人と撃ち出された針を捉え、光の粒子に変えて消滅させてゆく。


ザザザザザッッッッ・・・・・!!!!


(ああ、早く教会に行かないと、皆待ってる・・)


最後に簡単な操り人形とヒビ割れた指輪を持った前髪重めな感じの少女の姿に『変化』して、指輪を棄てた少女は駆け去るように消滅していった。


指輪だけが残った。柱のドールも砕け、槍のドールは全て指導官が撃破していた。


あたしは指輪も砕いてやろうとしたんだけど、


「うっっ」


力が抜け、原始の魔力の光が殆んど消えて髪だけ伸びたまま、あたしは落下しだした。時間切れだっ。くっそ!


「シュルルッ」


指導官から離れたエアヴァイパーがフワッと受け止めてくれた。


「ふむ、まずまずだミドリコ」


浮遊してヒビの入った指輪を手に取る指導官。


「ちゃんと処理してくらふぁいよぉほぉ」


くっ、脱力で上手く口が回らん。指導官はニッと笑ってくるっ。何その笑顔っ?


とここで見知らぬクーダハが地下室に転送してきた。

下手くそな転送で、柱人形もないのにあたしの保護も消えた床に不時着してる。


「ん?」


「ほぇ?」


中から飛び出してきたのはドールテイマーギルド研究室のバァツリー・ホールベアだ。来やがった。


「ヴァルトッシェ・サザンレイク! その指輪はドールテイマーギルドから盗まれた物だっ。直ちに返却したまえっ! これはギルド間の協定と協調に関わるっっ」


「スペルシール、スタンブルローション」


「うっ? どぉあーっ?!」


わざわざ高価な+1の魔法石1つを対価に魔法封印とヌルヌル液体地獄の術を発動し、バァツリーを無限に転倒させるヴァルトッシェ3級指導官っ。


「貴様は取り敢えず、ドールテイマーギルドの特別断罪室の取り調べを受けろ。・・メガマナフレア」


宙に放った変わらずの指輪を炸裂魔法で粉砕する指導官。


「あーっ?! 何ということをーっっ!!」


「ふんっ」


こうして、変わらずの指輪の騒動はドSな具合に終息したのだった。



ソルトロック家は取り潰しとなり一部血族は隣国に資産持ち出し可でも領無しの男爵位身分で追放となった。

旧ソルトロック領は当面、商人達の民会と国から派遣された市制官が行い、2代に渡る鎖国に近い独裁制は終わりを告げた。


オジラ一味のような傍系組織はともかく、踊り手一味本体の討伐や逮捕は限定的で、スモドネルの行方も不明。

各ギルドや衛兵警察は『次の踊り手』の出現を警戒しているような感じ・・



変わらずの指輪の破壊から数日後。あたしは、


「はぁ~~」


イーストガーの貧民街の一角に隠された、あたしの誇る『ミドリコ城』で寝巻きで寝込んでいた。多少マシになったけどまだ身体は利かない。髪も伸びっぱなし。

しばらくは魔力が残ってめちゃんこ硬いからサイキックワンドでツインテにするのが精一杯。

回復早まるように色々法式を仕込んだ、しつこいソーサラーのポロ布がシーツの様に敷かれてる。


以前のユパっち先輩の『プルプル無気化』より断然酷いわっ。


「ユパ! 遊戯本(ゲームブック)ばっかし読んでないで、片付けなってっ。私、今日でアビサァ地方に戻るからね?」


「・・今、5周目のラスボスだから。ドラミンも全ルートコンプ頑張れ、って言ってる」


「差し入れここに置いとくよ? あ、そう言えば水晶通信の着信・・うわ~、溜まってた。取り敢えず既読にはしとこっか」


「ユパ! そのマジカルドロップ、ミドリコのだよね? めっ!これからは家事分担もしないと。テパリアーカ様もデルヨーカさんも心配してるんだからさっ」


「・・ワタシは盗ってない。マジカルドロップがワタシとドラミンの口に入ってきただけ」


「おっ、凄い長文だ。この子はちょっと億劫になってきてるね。ふーん、プレゼントの加減とデートの頻度や温度は考えないと、だ」


「ユパ! そっちのゲームブックはミドリコが隠してる『恋愛物』だからっ、気付かないフリしてあげないとダメだってっ!」


「・・前科20犯くらい帳消しなったし、貯金増えたんだから普通にどっか出歩いて『プロの所』に行けばいい。それから、ワタシの方が年上。ラスボス戦の前に『後輩』の趣味を確認しておく」


「あ~、また刺されないよう、フラットな感じも必要だね。こう、ポップな演出で」


「ユパ! めっ、だって。あんな感じのミドリコだって『魔法無し世界に転生したら、押忍っ! マッスル武道会で地味マネージャーの私がモテモテな件』をコッソリ読みたくなる時だってあるんだよっ。気付かないフリしてあげないとっ!」


・・・・・・カッ!!!


「お前らっ、何しとんじゃーいっっ!!! 勝手に居候決めんなしっ、散らかすないっ、ドロップあたしのっ、ゲームブック周回もやめっ、暇かっ、恋愛本発掘もすんなっ、それアリシャがしつこくお勧めするからたまたま、ふっと、アレ? って間違えて買っただけのヤツだからっ、お前も人ん家でハーレムの好感度管理とバッドエンド回避工作始めんなっ、トッピも『あんな感じ』とかヤメロっっ!!! 風評っ、ツッコミできるようになるまで数日掛かったわっっっ」


無理から叫ぶだけ叫ぶと気力を使い果たし、またあたしは白目を剥いて昏倒した。夢の中で始祖が「うっほ~い」と少女の踊り手とファンシーラットに変えられたらしいオジラと仲良く駆け回りだす。


だから原始のマナ使うの嫌何だよ! もう最悪だっ!!!

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