変わらずの指輪 15
やられた。完全に。クソっ! 鼻も鳴らして涙を拭う。
トッピだけじゃなかった。あたし達がスモドネルにカチ込みを掛けている間、周辺を大きく囲って通信系の魔法道具を阻害するヒューマンドールと気配を消すヒューマンドールが組になって何体も配置されていて、何も伝わらないまま、ソルトロック城が潜伏していた踊り手本隊に襲われていた。
議会長の館へ向かった衛兵署の連中は自爆特化型のヒューマンドールの群れに襲われて半壊。幹部にも逃げられた。
聖堂へ向かった強壮な親ソルトロック派の政府軍は、相手の自爆ドールぐらいじゃ削れないと踏んだ幹部の1人が捨て身で挑んできて、討ち取りはしたようだけどこれまたかなり損耗。
ソルトロック城はギリギリ持ちこたえてるようだったけど、隠し通路は塞がれ、隔絶の杭も逆に打たれてるみたいで、増援無しじゃ長くはなさそうだった。
あたし達と6番隊、ムーンハート家本隊、衛兵署の生き残り、政府軍のすぐ動ける兵達は、ソルトロック城近くの普段は威張り散らして衛兵署の兵くらいじゃ早々入れないらしいソルトロック領兵本隊の兵舎に入って手当てや装備の調整をしつつ方針を整理していたけれど、だいぶ混乱してる。
「署員はもう少な過ぎる。蘇生できる者を蘇生させたいが費用が・・生き残りの有力者の離脱に協力したい」
「聖職者とその関連の救出はいくらか成った。政府筋の有力者ならこんな死に体の独裁領にもうそう残っていないだろう?」
衛兵署と政府軍はもう積極的に死地に臨むつもりは無さげ・・
「エリオストン、大丈夫かよ?」
「コイツのお陰で随分いい」
強い魔力を込めてヤラれた腹の傷がすぐには回復できなくて、しょうがないからしつこいソーサラーのボロ布に持続治癒の魔法を付与して胴に巻いてる。血が染みてんだよなぁ。
「・・ワタシは守られるだけじゃない。ドラミンもそう言ってる」
頭にドラミンを被ったユパっちは凄い手際で自分の骨董のようなワンドで念力を器用に使って熊型2号を改造していた。
マズいね。手に終えるレベルの仕事じゃなくなってきたけど、ユパっち先輩は引き下がりそうにないし、エリオストンがあたしらを見切ってバックレるってこともない。
トッピの借りは返したいし色々悔しいけど、どうしたらいい? と野戦病院じみた兵舎で頭を捻ってると、
「オイオイっ、安いギャラで来てみりゃ、もう店仕舞いかぁ?!」
「負け犬どもがキャンキャン鳴いてるぜっ」
ファイターギルドの人達がズンズン兵舎に入ってきた。即「何を!」「傭兵が!」とか、めちゃ反論されてるけどっ。
さらに、
「ドールテイマーギルドの禁忌古物対策室だ! 踊り手一味の戦力も大幅に減退している。ウィザードギルドからもいくらか増援が来た。今ならば連中を前後から挟み打ちにできるっ。衛兵署員にまで無理強いはしないが、軍はどうだ? 今回の有り様で、中央に戻って報告できるのかい?!」
兎人族だった今の禁忌古物対策室室長らしい人と室のドールテイマー達と、それから見知った顔のウィザードギルドの人らも十数人入ってきた。
その中には、
「オ~ッホホのホっ!! 誰かと思ったら5級止まりの半グレ魔女のミドリコ・アゲートティアラじゃないっ、テロリストにボコられてトンズラしたんですって? 愉快~っ!!!」
「そうだそうだ!」
「完全同意!」
アリシャ・グランミラーとその子分魔女のヨミーとナマハムだよ・・
「アリシャ、仲間が1人殺られてんだ。1回謝ってから、ちょっと黙ってくれる?」
「えっ? そうなの?? ・・何か、ごめん」
アリシャ隊は慌てて相談し、あたしの前に色取り取りのドロップをいくつか置いた。
「マジカルドロップの限定味、あげるわ。わたくし達は、今回の件のドサクサでソルトロック家秘蔵の魔法書を強奪・・もとい、保護することになってるの。だから、その、段取り忙しいからっっ」
「あ、アリシャ待ってっ」
「戦闘終わってから城行こうよっっ」
アリシャ隊は退散していった。ふんっ。
ちょっと変なのも来ちゃったけど増援が来たことで状況が変わり、所属によって温度差はあっても兵舎から城への出撃が本決まりになった!
あたし達とムーンハート家本隊はとっくに魔法障壁が破れられてる城の西側から入って引き付け、6番隊も加わった正面突貫部隊の負荷を軽くする役目を担当することになった。
「トッピのことを気に病むなとは言わない。だが、我々の認識が甘かった。スモドネルのヤツはおそらく今まで自分の実力を見せた相手を1人も生かしていなかったのだろう。知るよしがなかった」
アレはね。拒否はしていたけど、場合によっちゃユパっち先輩の法式の延長線にある禁忌魔法だと思う。
「ここからは我々と一緒に行動してくれ。無念だが、指輪の回収ないし破壊は現役の禁忌古物対策室とファイターギルドの精鋭に任す。我々は援護に専念する。ユパちゃんもわかってほしい。結果的に、指輪の脅威を排除するのが最優先だ」
「・・わかった。ドラミンもそう言ってる」
今、ユパっち先輩は『熊型・改』に乗ってる。
「この剣とアンクレット上手く使ってみせます」
エリオストンは対傀儡で攻撃力が上がる魔剣『傀儡殺し』と守備力が上がる装飾品『甲虫のアンクレット』をムーンハート家から借りていた。
クィックムーヴも掛けてある。今回はずっと飛んでらんないから自分にも掛けてる。
「やるだけやろっ、全体としては、トッピの弔い合戦だい!」
「おうっ」
「がぁうっ」
あたし達は崩された西側城壁から城内の庭園があった辺りに入り、領兵とヒューマンドールと城内の非戦闘員と様々な形状のサーバントドールの死骸が散乱する中をまだ交戦している城の深部へと向けて進んでゆくと、
ドォオオッッ!!!
壁面と瓦礫と死骸の山をブチ抜いて、焼け焦げた跡のある大ムカデのヒューマンドールが飛び出してきたっ。
「コイツっ」
「スモドネルか?」
「度肝・・っっ」
そのまま戦闘にはなったし、何かどっからともなくサーバントドールや他のヒューマンドールも涌いてきたけど、ヤツの姿見当たらない??
「どうやら、我々に直に手を出す程の関心は無いか。あるいは、ここまでの段で破れかぶれな当代の踊り手への義理は果たした、ということかもな」
わりと冷静なダルヨーカさん。だけど、
「イィイイーーーッッッ!!!!」
鳴き方怖過ぎなムカデヒューマンドールっ。パワーはスモドネルに底上げされた時、そのまま! しかも次から次と涌いてくる他のドール達が邪魔でしょうがないっ。『敵を引き付ける』という意味じゃ仕事はできてるんだろうけどっ。
なし崩し気味に乱戦状態になってると、
「氷柱魔法」
「雷鉈魔法」
極太な氷の魔法の槍がムカデヒューマンドールの全身の外骨格の隙間に突き刺さり、強烈な雷が半数近いその他のドールを叩き伏せて砕いたっ。
「手際悪いと横取りするって、言ったよな?」
「はぁ~、どっちかと言うと踊り手一味の方が面白そう何だよねぇ?」
特別断罪室のスティールチズル姉弟! 魔法道具の『飛行箒』に乗ってのそっと現れた。
さらにっ、
「皆っ!」
姉弟の後ろには白鳥型サーバントドールに乗った全身を治癒方式の包帯でグルグル巻きにしたトッピが続いていた!!
「トッピ?!」
「良かった」
「・・生きてた。がぅぅっ」
「無事だったか!」
白鳥ドールで近くまで舞い降りてきたトッピ。
エリオストンやダルヨーカさん達がまだまだいるサーバントドールに対処してくれたから、あたしとユパっちはトッピにハグした(ちょっと痛がられたけどっ)。
また泣けてくる。我慢してたらしいユパっち先輩も泣いてた。
「ゼゼミオさん達が助けてくれたんだ」
「オイオイ、とんだ風評だよ? 私達はスモドネルを狩りに来たらバックレられて、焦げた人形使いが落ちていたから余った霊薬を上にブチ撒けてやっただけさ」
言い方っ。
「姉さん、それよりコイツ、思ったより頑丈だ。スモドネルの術の劣化コピー体だねっ」
多数の氷の槍で磔にされていたムカデヒューマンドールはさらに魔力を高め、槍を砕いて再起動しだしたっ。
「イケメンにヌイグルミに死に損ないに、ヴァルトッシェさんの子分! 役立たずじゃないならっ、ちょっと手伝ってみなよ?!」
「言われなくてもですよっ! 皆、取り敢えずムカデの方には借り返しちゃおうぜ?!」
「了解っ!」
その他のドール達はデルヨーカさん達に任せ、あたし達はスティールチズルのゼゼミオ&ゼゼオムの2人と共闘して、ムカデヒューマンドールと再対峙したっ。
今度こそやってやんよ!!