変わらずの指輪 14
入ってみたら、戦力を外に出したから? 意外と敷地内に敵が少ない・・
(ほえ~、気配薄いと思ったらこんなもんか。ユパっち先輩。実際当たってみて穴空けるドールはどんくらい持ちそう?)
(空けてるだけなら1時間くらい。ドール自身を守る障壁はさっきまでのヤツらくらいのに袋叩きにされたら10分持たない)
(来た穴から早期撤退が無理そうなら、後続隊が来るまで潜伏も考えた方がいいね)
(まずルート決めようよ? ミドリコ)
ふむ・・トッピの小鳥のドールに反応して迎撃しだしてる敷地内にいくらか徘徊してたカマキリ型のサーバントドール主体の敵達を観察。
変動が激しく死に難いヒューマンドールじゃないし、障壁も張ってないけど、アレはシンプルに外皮がめちゃ硬いヤツ。
(あのカマキリ達、面倒臭そうだね。使い勝手悪そうだけど周り込んで北東側の障壁展開器、壊しに掛かってみよう。『展開器への攻撃』自体、陽動になるよね?)
北東側の塀の外は騎竜でも入り難い木々が複雑に生えた急勾配の崖になっていて、障壁を解除しても今すぐには効果的とは言い難いエリア。
でも単に敷地内でワーワー騒ぐだけよりマシだし、中途の戦闘も避けられそうだった。
ん~、いや、展開器の破壊するだけなら今回もゴリ押し突進も有りだったかも?? となるとトッピのドールの編成は・・
(ミドリコ? どうした?)
(あ、何でもない。もしもだったら、とか考えちゃった。行こっ、北東ルート!)
あたし達は小鳥のドールに惑うカマキリ型との接触を避け事前の調査、観測で確認されている北東の建屋に設置された展開器を目指し、敷地内の移動を開始した。
結論から言えば、問題無く使用人の宿舎だったらしい北東の建屋の近くまで来れた。
建屋は外壁がほぼ崩壊していて、かなり大雑把に大型の障壁展開器が設置されてる。犠牲者のヒューマンドールは周囲に多数配置されていたけれど・・
(そういう使い方?)
全員展開器の警護ではなく『動力』として魔力管で繋がれて、生前の人格に基づいてるだろううわ言を呟いて蠢いていた。
(『生身』のドールをこんな風につかうなんてっ)
(終わらせよう)
(・・度肝砲、撃つ?)
あたし達がドン引きしつつ介錯に掛かろうとしたその時、
(っ?! 上!!)
『ドラミン被り』で感度が高まってるユパっち先輩が警告したっ、
ドォオッッ!!!
同時に本館の屋根に潜んでいたらしい、巨体のモノが飛び降りてきてのたうつような範囲攻撃を放ってくる!
緩めの幻覚魔法は全員引っ剥がされ、少し遅れたトッピは騾馬ドールも破壊され、すぐに呼び寄せた熊ドールに飛び乗り、もう1体召喚する。
相手は巨大なムカデ型・・いや、ムカデ風の外被を被せられた。数十体のヒューマンドールっ。
エリオストンが回避ざまにウワバミの腕輪から抜いたジャベリンを投擲すると、ムカデヒューマンドールの頭部に乗っていた人物の左腕で閃いてジャベリンを打ち払う!
「案山子のスモドネルっ!」
手足をドール化したヒョロりとしたエルフのドールテイマー。踊り手一味の幹部の1人っ。
「潜入が得意なようですね。冒険ごっこ気分ですか?」
大ムカデヒューマンドールに猛烈な火炎を吐かせるスモドネル。範囲が広過ぎるっっ。館が焼けても全く構わないやり方!
これにユパっち先輩が小型ドールを1体突進させて、最大出力で魔法障壁を張らせた。オーバーヒートして爆発しながら防ぎ切ってくれた。
「いい操作です。ムーンハートのお嬢さん」
(ハイリーディング)
思念で詠唱して方式を組み、発動! 解析してやんよっ、案山子野郎っっ。
あたしの動きに反応して、エリオストンがカイトシールド+1も出しロングソードを手にジリジリ間合いを詰めようとした。
これにスモドネルはノーモーションで右手の人差し指を超高速で触手のように打ち出し、カイトシールドを粉砕してエリオストンを後退させた!
「くっっ?」
「変わったドールを被っていますね。無粋なヒューマンドールは戦力差からやむを得ず使ってる次第ですが、そのドール、興味深い。私は『人体の一部ドール化による性能の向上と人間生の均衡』に創作の妙が有ると考えています。どうでしょう? お嬢さん? いっそ貴女の頭部とそのドールと差し替えてみませんか? より『貴女らしく』なれるでしょう」
トークがキモいにも程があるけど、解析ムッズっ。ムカデの方はギッチギチに硬めてあって大掛かりな魔方陣何かが使えないなら単純にパワーで弱い箇所を突いて破壊するしかない。
でもスモドネル本体は何コレ?? ただの強化義肢じゃないっ、コイツの魂と結合してる。どういうことだよ??
「・・違う、ワタシはドラミンになりたいワケじゃない。ワタシ達はドラミン!! ワタシがいなくなったら、ドラミンが寂しくなるっ!」
何て?
「なるほど、それが貴女の創作の妙ですか。私とは『人間性』に関する解釈が違うようです」
話、通じ合ちゃってるけど、取り敢えず解析した情報をエコーハートの思念で全員に伝えた。
スモドネル本体は牽制するしかないけど、ムカデはたぶんイケる!
「では、私の創作を優先しますね?」
ニッコリと笑って、ムカデではなく即座に自分の左右十指の触手で超高速の攻撃を騾馬ドールの上のユパっち先輩の頭部に殺到させた!
「おりゃっ」
「ハッ」
1発だけだけど無詠唱でストライカーワンドから圧縮高速射出してやったマナショットで、スモドネルの左手の親指の腹の付け根辺りの義手の駆動系の基点を撃ち据えた。
続けてエリオストンはさっきの一撃の感触とあたしが伝えた相手の指の構造の理解から動きを見切って右手の五指の触手をロングソードで打ち払った!
「変態しかいないなっ、君ら!」
トッピも続くっ。熊型の1体をムカデの構造から対処し難い角度から突進させ、自分の乗っている1体は両手を塞がれたスモドネルに飛び掛かった。
スモドネルはこれまた超高速で右の蹴りの斬撃で迎撃に掛かったけど、この性能も解析済みっ。トッピは熊に障壁を張らせて宙で受ける。
この直後にユパっちの残る2体の小型ドールが無防備にスモドネルに飛び掛かったが、スモドネルの左肩から露出した針を連射する銃身が2体を蜂の巣にしたっ。
でもでもここまで大体解析済み!
「度肝っ!!」
小型ドールが倒されるの合わせて騾馬ドールを突進させた詰めたユパっち先輩が、両手の籠手型に変形させたドラミンから強烈な無属性砲を放ち、今度こそ直撃させて炎上する本館の外壁に叩きつけてやった!
「しゃっ、詰めたぁ! あとはムカデを削り」
ザシュッ!!
さっきまでとは比べ物にならない速度で放たれた手刀の触手が騾馬の上でプルプルしていたユパっちに迫りっ、それを直感だけで反応してロングソード+1で弾こうとしたエリオストンが剣を砕かれ、腹を割かれて吹っ飛んでユパっちに激突した!
外壁まで飛ばされたスモドネルの魔力が爆発的に上がってるっっ。
「『構造』は『魂』に従うもの、私は『均衡』を『理解』している・・」
「うっ?! ヒールライト! マナショット! トッピっ、撤収!!」
あたしは地面に投げ出されたエリオストンとユパっち(頭を打って昏倒してるっ)に回復魔法を掛けつつ、ありったけの魔力弾を魔力マシマシなスモドネルに連射し(効きゃしない!)!
スモドネルに呼応して魔力を高め1号熊ドールを圧倒し始めるムカデヒューマンドールにも焦ったっ。
「見誤りましたね、アゲートティアラのお嬢さん」
解析にこんな能力無かった! くっそっっ。
「1号! 2号! 120パーセント起動っ!! 1号はムカデをっ、2号は『3人』を!」
「3人?!」
疑問に思ってる内に無理から出力を上げた熊型の2号が殺す気っ? て勢いであたしとエリオストンとユパっちを抱え込み、両足を筒型に変形させて風の魔力を噴出させてその場から遁走を始めたっ。
トッピは敷地内に放った全ての小鳥ドールを側に集めてる!
「ちょ?!」
(スモドネルは私が押さえる。大雑把な感じで巻き込んでゴメンね。宗家のユパを守ってあげて)
(トッピ?! バカっ、あたしも仕事っていうか悪さ帳消しにしたくて・・嘘)
2号がさらに深く抱えたせいで振り返れなくなったけどっ、遠ざかる背後で2つ大爆発が起こり、1号熊と小鳥達とトッピの気配が消えた。
「トッピ・・・」
あたし達はまだ奇跡的に空いていた障壁の穴から脱出し、杭を打ち終えた6番隊と合流し、重傷のエリオストンを治療して、結局正面から障壁を大きく破ったムーンハート本隊とも合流して、あたしと先に回復したユパっちは改めて敷地内に雪崩込んだけど、中に居たのはカマキリ型の残党だけ。
スモドネルはムカデヒューマンドールに北東側から穴を掘らせて、隔絶の杭の範囲外に逃れてから転送したようだった。
そして焼け落ちた北東建屋周辺には2つの大爆発の跡はあっても、トッピの姿はどこにも見当たらなかったんだ・・