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変わらずの指輪 13

広間に面した崩れ掛けた教会な屋根裏に、子供1人が腹這いになればどうにか入り込める空間があった。そこに私はいた。


玩具のような母が残した片腕の無い小さなサーバントドールが『探知回避』の障壁を張り続けてくれた。


私の手には折れた父のワンドが握られていて、私はその杖を使い最初に、焼け出されて死んだ鼠をドールとして操り、数ヶ所ある瓦礫の隙間から出して他の郷に溢れる敗残兵や無関係な村人の死骸を食む鼠を狩らせ、持って来させ、私はそれを齧って啜った。


隙間の1つに身体を反らせると、懐かしい広間が見えた。

ここで両親と村人に人形劇を披露し、友達と遊び、幼馴染みと他愛無く将来を誓ったこともあった。


最初の数日は領兵達が敗残兵や関与を疑われた村人等を処刑したり火葬していたけれど、暫くして正規兵が減り、傭兵や臨時雇いの類いが多くなると無抵抗の者を嬲り物にしたり、豚や使役してる魔物に喰わせたりするようになった。

最後に人がいなくなると、魔除けの壊れた郷に死体を漁る野生の魔物やただの森の動物、虫、夜な夜な彷徨う死霊達だけが見られるようになっていった。


屋根裏に籠って20日後、母の人形が力尽き、父のワンドも砕け散り、魔物と死霊達に気付かれだす頃、汚物にまみれた私は『魔法』と『精神』と『構造物』を理解できていた。


身体はすっかり利かなくなっていたけれど、自分自身を操り、教会の残骸を『1つの大きな人形』として操り、目につく魔物と死霊の群れを全て叩き潰し、


私はブラックブリッジ郷を後にした。


先代の踊り手と出会ったのはそれから7年後のことだ。


・・仮面の下、私は、まだ何かに糸で操られたような気でいる。


きっと無意味で、生きてる者のいない、しかし演ずるより他無い、ただの喜劇なのだろう。


「踊り手、ムーンハートと中央の犬、それから宗家の娘だかとそのお守りが餌に食い付いたようだ」


「オジラのゲス野郎も少しは仕事したらしいぜ? ヘヘッ」


「いい興行が打てそうですな? 踊り手!」


「楽しもうぜっ」


「楽しもうね!」


『団員』達は盛り上がっていた。私に付いてきてくれたのは3割程度だが、この残った者達にとって後先等些細なことなのだろう。

指輪を、変わらずの指輪を見る。変幻自在の指輪。恐らく変身術と使役術の融合を目指した『ただの失敗作』の魔法道具なのだろう。


だが、多くの意味を与えられ、今、私の指にある。


「ああ、そうだ。幕が開くなら踊るしかない。それが傀儡であるならば、尚の事だ。もう、止まる術は無い」


城下町地下の忘れられた原始巨人を信仰する旧教の地下聖堂跡で団員達を鼓舞し、私の最後の演目が始まろうとしていた。



・・協議の結果、この件に関するあたし達『ミドリコ隊(他に立候補がなかったからあたしが隊長!)』の最終ターゲットは踊り手一味の幹部の1人『案山子のスモドネル』となった。

まぁ居場所はわかってるのが領兵団長の館を占拠してるスモドネルと、あとは領貴族議会長の館を占拠してるヤツと領教会の聖堂を占拠してるヤツの3人だけ。


議会長の館はソルトロック領の衛兵署の連中が張り付いてるし、聖堂は親ソルトロック派の政府軍が担当してる。

領兵団長家は既に全滅してるのと、領兵本隊はソルトロック城を死守してる最中。


差し込めるフリーなとこがここしかなかった、って感じ。それは6番隊とムーンハート家本隊もそうで、あたし達は纏めてスモドネル討伐に挑むことになった。


因みにドールテイマーギルドの禁忌古物対策室は踊り手本隊を探ってるみたい。

ウィザードギルドの方はあたしら以外はどの程度どの部門が今のタイミングで介入してくるか『不明』。一応、応援は要請してるけどね・・


他のギルドは『破れかぶれにテロかました踊り手と独裁化したソルトロック家は共倒れ、変わらず指輪には特別な関心無し』といった反応。

行き掛かり上、ファイターギルドが『金次第』でフォローしないでもない、てくらい。


現状、今ある材料で自分の仕事するしかないって感じ。


そんなこんなで、


「ハイリーディング! ディスペル! マナショット!!」


あたしは魔法障壁持ちの元ソルトロック市民や領兵を素材とした『下級のヒューマンドール』の障壁を纏めて解析解除しつつ、魔力の追尾砲弾を撃ち込んで仕止めていった。


城下町郊外にある領兵団長の館へ続くよく手入れされた林の中を、纏った持続化特性の魔法道具しつこいソーサラーのボロ布に『高速飛行魔法(ピクシーウィング)』を付与して負荷を軽くして飛びながら交戦中。


元々早いエリオストンはクィックムーヴの魔法を掛けてるから目で追うのが難しいくらいの速さで動いてる。はっやっ。


「ハッ!」


鋭い気合いで、ロングソードじゃなく格下集団戦用の『グレイブ+1』を手に長い柄の先の三日月型の刀身でズバズバ障壁を持たないヒューマンドールや嵩増しに投入された『ヤスデ型サーバントドール』を斬り伏せていた。

余計なことしなけりゃ普通にイケメン凄腕ファイター職だね。


「1号! 側面から捩じ込めっ」


騾馬のサーバントドールを駆るトッピは新しく造った『熊型サーバントドール』を操って障壁を持たないヒューマンドールとヤスデ型を蹴散らさせていた。

熊型は犀型程の突進力は無いけど、小回りが利く。今回移動の補助は必要無いのとオジラ戦で閉所の窮屈さに懲りたトッピは汎用性重視で新ドールを設計したみたい。


「・・そこと、そこ。違う、もっと速く」


相変わらずドラミンは被ってるけどトッピと同じく騾馬のサーバントドールに乗ったユパっち先輩は『4級仕様戦闘用小型サーバントドール』をテパリアーカ様の骨董のようなワンドで3体、器用操って障壁の無いヒューマンドールとヤスデ型を撃破してた。

器用さもだけど魔力の馬力が凄いっ。


「ユパっち! 普通に人形使った方が強くない??」


「違う。ドラミンの方が強い。被ってると、がぅ!『認識力と精神耐性が1,5倍になる』っっ」


「それ効果あったんだ・・」


「てなもんや! そろそろ館だっ。手筈通りだが、オジラとは格が違う。早まるなよ?!」


6番隊は騎竜を駆って数名ずつ組んで突貫してる。


「はいよ~っ」


スモドネル討伐、といっても相手はゴリゴリの武闘派! オジラの時と違って、6番隊と連携して戦うことになってる。


館ギリギリまで迫って6番隊が隔絶の杭で転送術対策を始めたら、あたし達だけで館に張られてる障壁に穴を開けて障壁展開器を破壊、ないし、後続隊が来るまで敷地内で敵を引き付ける役目は担っていた。


ムーンハート本隊の方は館への正面の道路から派手に進行して陽動担当。但し、あたしらや6番隊のルートが手間取るようなら場合によってこっちを本命にしてあたしらが陽動に専念するのもありあり、という流動的な作戦。


「おりゃーっ、マナショット!」


ガンガン犠牲者達のヒューマンドールとヤスデ型を倒しながら、いずれもだいぶボロボロにされてる館とその塀に沿って張られた魔法障壁が見える所まで来たっ。


「工作隊を警護し、周囲に隔絶の杭を打ち込む! 大雑把でいいっ、中遠距離転送術を阻害できればよし!!」


6番隊は手早く展開して杭打ちを始める。加速してるとはいえずっと走ってきたエリオストンはポーションを飲んでた。動く画の広告でこういうのあるよね。


「あたしらもモタモタしないよっ! ユパっち!」


「・・声、大きい。ワタシはわかってる」


不満顔でも、手足の無い筒型の浮遊するサーバントドールを1体召喚するユパっち先輩。


「穴を開けて」


「ギギ」


筒型サーバントドールは館の障壁を解析し、魔力を展開して中和し、円く穴を開けた!


「よ~し、ご苦労。『マジカルドロップ』をあげよう」


「いらない」


「えー? メロン味だぜ?」


ちゃんと果汁入りの! 魔力もちょっと回復するヤツっ。


「じゃ、塀を片そう」


エリオストンがグレイブで障壁の穴の塀の傷んだ部分を斬り割いて軽く蹴っ飛ばし、くり貫いてくれたけど、同時にグレイブの刀身が砕けた。


「あれ? 使い過ぎたか」


ボヤきつつ、ウワバミの腕輪に折れたグレイブをしまい、代わりにロングソード+1を出して鞘をベルトに取り付けるエリオストン。


「エコーハート! ミラージュヴェール!」


あたしはテレパシーを通し、精度粗めだけど幻覚魔法で周囲の景色にドールを含め全員を溶け込ませた。


(幻覚は雑いから気休めくらいだかんね? あとはトッピよろしく)


(うん。鳥よ! 撹乱してっ)


トッピはムーンハート本隊から預かった大量の小鳥のサーバントドールをくり貫かれた塀から敷地の中へと放った。


(さぁ~て、行きますかぁ?)


あたし達は占拠された館の敷地へと侵入した。

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