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変わらずの指輪 12

『ブラックブリッジの乱』ソルトロックの前領主の圧政に領内のブラックブリッジ郷を起点として起こった反乱。

子爵位に過ぎないけど王家や軍部にツテのあるソルトロック氏の兵力で速攻で鎮圧されたけど、相当酷い見せしめをしていた。


当代の踊り手はその乱に参加したドールテイマーの娘らしい・・


「何あの態度っ! ユパっち先輩、ドラミン砲の発砲を許可するっっ!!」


「ワタシだけ捕まる。ズルい」


あたし達と6番隊は、領主の居城のある(ユルソンの子爵で城持ってるのはレアケース)ソルトロック領城下町の衛兵署に来ていたんだけど、


「応援を要請したのは国軍の親ソルトロック派だけ。勝手に来るな」


「思い付きで少量の物資を配布するな。政治家のパフォーマンスじゃあるまいし、噂が広まれば政府系の物資輸送車が行く先々で領民に囲まれるハメになる。幼稚さを恥じろ」


「首都のチンピラ魔女等連れてくるな」


「何だこの優男は? 役者崩れの傭兵か?」


「ムーンハート家は元凶だ。汚らわしい。招き入れるな」


「支援金は持ってきていないだと? 子供の使いか?」


一応、中央の6番隊とソルトロック署の署員なら庁職員の方が上何だけど、ソルトロック氏の立場の特異さと先代から続く独裁的な自治の影響で、署長はあたしらと6番隊の隊長に言いたい放題で、結局まともに連携できそうになかったワケよ。


それでも隊長は青筋立てつつ、事務方や署の現場の責任者何かに確認を取りに行ったけど、あたし何かはプリプリ怒って署から出てこうとしていた。


竜車に戻ったらイーストガーから持ち込んでて温存するつもりだった『特上チョコバー』齧ってやんよ!


と息巻いていたら、


「ムーンハート氏と、ヴァルトッシェの手の者だね?」


ロビー近くで、ガッツリ取り巻きに囲まれたバァツリー・ホールベアに声を掛けられた。


ドールテイマーギルドの研究室幹部で変わらずの指輪の研究推進派の男。


ただしこれまでの資料によれば、踊り手による指輪の奪取は現物に触れず研究が思うように進まないバァツリー達の手引きによる可能性がある、とかないとか・・


「ども、手の者のミドリコ・アゲートティアラです。チョコバー食べます?」


ポーチから取り出して勧める。周りの取り巻きにすんごい遮られたけど頬ギリギリまで近付けてやんよ。むぎぎっ。


「うっ、結構だ。私はバァツリー・ホールベア。ドールテイマーギルドの研究室で変わらずの指輪を担当していた。今回の件は極めて遺憾だね」


「へぇ、遺憾ですかぁ」


「生憎我々研究室は戦闘の専門家ではないが、指輪の回収後の事後処理やソルトロック氏との交渉には協力させてもらうよ」


「え~? 指輪の回収ってドールテイマーギルドの研究室の担当ですかぁ? あれぇ? ウチ(ウィザードギルド)かそちらの禁忌古物対策室かムーンハート家が妥当じゃないですかぁ?? 何か研究進める前提で仰有ってますよねぇ~? ところで踊り手の『中の人』に何か心当たりありませんかぁ? 一応ですけどぉっ」


「ぐっっ、無礼だね、君! あんな狂人知るワケがないっ。指輪の扱いについては『末端』の君ごときは考える必要は無い。せいぜい踊り手一味の幹部をあと1人か2人程度始末してくれたらいい。私からも報償も出そう。噂では、君には保釈金こそ必要じゃないかね? ふんっ」


言うだけ言って取り巻き達と署の奥の応接室の方へバァツリーは去っていった。署員も数名同行してる。ソルトロック氏関係もちゃっかり抱き込んでんね。


「ケッ、穴熊野郎っ」


あたしはロビーでチョコバーを齧って近くの署員から白い目で見られてやったさ。


「噂通りの人だね。でもあの調子じゃ、渦中にどうこうする程の器量はないんじゃない?」


「だが、ああいう手合いは保身と見栄の為なら何でもするよ? 被害の規模は酷いが、まだ復讐だかで動いてるらしい踊り手の方が真っ当と言える部分もあるかもね」


「あんなのどうでもいい。指輪はもうこの時代に破壊する。お祖母ちゃんの時間を何十年も使わせた。許さない。ドラミンもそう言ってる・・」


バァツリーは事態中途に自力で介入する程の器量は無さげ。それがわかっただけでもよしとするか。



6番隊と現地署員との調整は少し時間が掛かりそうだから、あたし達は城下町の様子を見て回ることになった。


ソルトロック領の5代くらい前は海も近いし色々コネも利いてそこそこ栄えているから観光が発達して、エルフやハーフエルフの移住者が多かったみたいだけど今は要塞じみた造りで、エルフ達の姿は無い。


独裁自治が進むとまず情報が伝わらなくなるからね。イーストガーからそこまで遠くもないけど、あたしも初めて来た。


守りが堅牢だから町が完全に破壊されたりはしてないけど、それなりにあちこちに被害は出ていて残ってる市民も多いはずだけど、あまり不用意に出歩く人はいないみたいで閑散としてる。


「今の正体はともかく『踊り手が代替わりする』、ていうのも不思議だね。てっきり凄い高齢か長命種なのかと思ってたけど」


これも集めた資料によってわかったことだった。確認されただけでも『7人』の踊り手がいた。代ごとに行動方針が違っていて、今回の件で明らかになるまで『気紛れな狂人の類い』と認知されていたんだ。

オジラも先代と面識があったから接触したようだけど、いつの間にか代替わりしていて困惑したんだって。


わりとホラーだったと思う。


「中の人、替わったよ?」


てね。


『開いてる飲食店があったら入ろう』くらいで、特に目的地のなくウロウロしてたあたし達は高台になっている所にあったブッ壊されて水も止められた噴水の側まできていた。この高さと角度なら城下町の向こうに現領主ゲラント・ソルトロック子爵の城が見えた。


城と言ってもそこは子爵。ムーンハートの砦の野営地よりかはそりゃ立派だけど小じんまりした物だった。


昔は瀟洒だったらしい。今はブラックブリッジの乱で懲りたのか、やたら守り固そうな造りだった。


これまでに3回踊り手一派に襲われて結構傷んではいたけど・・


「城を訪ねてゲラント卿から直に話を聞きたいけど、私達じゃね。ギルドかムーンハートの本隊に任せるしかないか」


「ワタシはお腹空いてるんじゃないか? とドラミンが心配してる」


回りくどい言い回しで急に空腹アピールしてくるユパっち先輩。くぅ~っと、お腹も鳴らす。


「どこも閉まってるもんね~。ここ閉鎖的過ぎて冒険者通り的なのも無いしなぁ。チョコバー食べとく?」


ヌッと顔の近くに差し出したら露骨に顔をしかめられた。


「口がチョコバーじゃない。と、ドラミンが言ってる」


「ドラミン、選り好みするじゃん?」


等と言ってると、気配。小さい。飛んでる。敵意無し。


「ピピ」


『小鳥型のサーバントドール』が1体、噴水近くのあちこち壊された人気の無いカフェの焦げてる洒落た看板に止まって鳴いた。


「ダルヨーカさんのドールだ。やっぱり本隊もこっちに来てたんだよっ」


「ふぅん?」


「こっちとも方針の擦り合わせは必要だね」


「・・ドラミンは御飯、食べられるのか? 気にしてる」


あたし達は多少昼食も期待して、小鳥のドールの案内でムーンハート家の本隊に合流することにした。



昼食はジュ~っ、と焼いたベーコンエッグと野菜スープと豆パンとナッツケーキとジャム入りの紅茶だった。

朝食っぽいけどユパっち先輩の口に合ったらしく、機嫌好く食べてた。

テパリアーカ様の料理もどっちかと言うとシンプルだったしね。


ムーンハート家本隊は城下町の外れ方の半ば倒壊した宿屋の内部を補強して拠点化した所に滞在していた。


「踊り手一派は、中央の6番隊より我々か、現役の禁忌古物対策室の連中を警戒してるだろうからさ」


ダルヨーカさんはウィスキーを落とした煎り豆茶を飲んでいた。


「ムーンハートだけでもミドリコ達以外にも外部の10組以上に協力を求めていたし、お前達には今後の為に宗家のユパちゃんに経験を積ませて欲しかった、ってくらいだったんだが」


そうなの?


「やっぱりヴァルトッシェの弟子というのは伊達じゃなかったな」


お?


「そッスかぁ? まぁぶっちゃけ才気の自負はあるんだけど? デヘヘっ」


「ミドリコ、わかり易く調子に乗り過ぎない」


「んだよっ、エリオストン!」


「だが状況は切迫してきている。お前達の場合6番隊の方針にもよるだろうが、何パターンか仕事の割り振り案を決めておこう」


「既にそれなりに仕事してます。あまりユパやミドリコ達に無理はさせない方がいいと思うんですが?」


「ああ、それはな」


あたし達はユパっち先輩好みの昼食を摘まみながら、ムーンハート家本隊との擦り合わせを始めた。


と言っても、バァツリーの言った通りに動いた挙げ句最後アイツに指輪持ってかれるのは避けたいよね?

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