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変わらずの指輪 11

用意した物。『時間加速の魔方陣』。水槽を覆う『注目効果の鏡6枚』。いずれも変化術に対応した『魔法及び魔力行使封じの首輪、自動治癒及び滋養及び水分補給の首輪、気絶及び睡眠耐性の首輪』。ドワーフの技師に改造させた『加速再生対応型魔力式蓄音機と蓄音盤(ちくおんばん)』。


そして、


「コレがわかるか? オジラよ。ウィザードギルドの禁忌古物対策室より借り受けた」


檻の中で3つの首輪を嵌められ震え上がるオジラに極めてファンシーな装飾の、私の趣味に合わないワンドを掲げてみせた。

見た目はふざけているが、+3級の凶悪な魔法道具。


「やめろーッッ!!! ヴァルトッシェっ、全部吐くと言ってるだろっ?! いや、待てっ、せめて普通に拷問しろっ!!」


「はぁん?」


魔方陣の上で鏡で覆われた『小さな水槽』と改造蓄音機を前に衛兵警察の6番隊の連中は引いた顔をしている。

司法局のヤツらが来る前に済まさないとな・・


「サディストかつ、人形使いらしく任意で乖離的な自己認識状態に移行可能な貴様は、加虐対象を自分に置き換えることで苦痛を回避できるだろう? この私が、私の貴重な時間を使い、貴様ごとき三下に、御褒美をくれてやる理由は無い。よって」


私はファンシーな杖に膨大な魔力を込めた。


「この禁忌古物『ふわふわ鼠(ファンシーラット)の杖』の力を持って」


「やめろーっ!!!」


オジラは舌を噛み切ったが、即座に自動治癒の首輪の力で傷は回復する。


「んべべっ??」


「貴様は、フワフワになれ」


「っ?! や、やめっっ、おぅむぅぅっっっ、チュッ、チュチュチュ~っっっ」


杖の力で強制的に、オジラを仔犬程度の大きさの綿帽子の塊のような、円らな瞳の愛玩的な魔物に3重の首輪諸とも変化させた。


効果は極めて高度な解除術で解かれない限り永続する。

ファンシーラット以外に変化できず、対象を何ら傷付けることも服従させることもできないが変化の強制力は件の変わらずの指輪よりも強い。


主旨の純粋な、混じり気の無い狂気の産物だ。


「っ! っ?? っ?!! チュゥッッ」


オジラへ混乱してもすぐ小さくなって通れるようになった檻の格子の隙間から逃れようとしたが、私は念力でファンシーなオジラを持ち上げ水槽に入れ蓋をした。


「チュっ?」


瞬時に水槽を囲う注目効果の鏡に釘付けになる。


『オジラの理性に無い姿』


最大の忍耐力で視線を背けるが背けた先にも鏡。ファンシーなオジラが硬直する中、さらに私は念力で蓄音機をまずは標準速度で再生開始。


歯が浮くような前奏から、舌ったらずな歌唱が始まる。


ファンシーラットをキャラクターとして採用した一昔前に流行ったコミックブックの広告ソングだ。タイトルは、


『友達だね! ふわふわラブラブ~世界の君へ~』


と・も・だ・ちっ! イエスっ!! フライアウェイ!! ふわふわふわふわふわふわふわふわふわふわ ラット!!


今日もいい天気! 友達日和 貸した2万ゼム返ってこないけど でも友達!!


僕達 ふわふわふわふわふわふわ・・・



「ヂュューーーッッッッ!!!!!」


血涙して、蓄音機を睨み、怨嗟の鳴き声を上げるファンシーなオジラ。


「私もこれはキツいが、貴様には尚、堪えるだろう。イカれたドールテイマーの育て親に去勢され、ぬいぐるみ扱いで育てられたらしいな? 生前の記録から、その女の声を再現して合成してみた。懐かしいか? ククククッッ」


「ヂュッッ!!!!」


円らな瞳を見開き、痙攣し、おそらく急性胃潰瘍で吐血して昏倒したが、2種の首輪の力で即、回復して目覚めさせられるファンシーなオジラ。


「これから水槽内の貴様の体感時間を加速させる。取り敢えず3ヶ月、憤死し続けてみろ? 交渉はそれからだ」


私は加速の魔方陣を発動させ、合わせて蓄音機も加速させた。キュルキュルと耳障りな音を立て出す蓄音機。


「ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッッッッッッッッッッ!!!!!!!」


あっという間に水槽内は、残像だけ残して踠いてるらしいファンシーなオジラが撒き散らす体液と汚物で汚れ果てだした。


「・・ヴァルトッシェ殿、貴女が断罪室所属とはいえ、やり過ぎではないか? 人道に反する」


6番隊の強面の隊長が見かねて言ってきたが、


「その人道とやらから溢れ墜ちた者達を狩るのが我々だ。法的な処理は任す。2時間もすれば壊れるだろう。脳から直接情報を引き出すのが得意な者をこちらに来させる手筈は整えてある。・・情報の共有は、しっかり頼んでおこうか?」


私は転送の腕輪で、険悪な物となったその場を後にする。


オジラの資産とコネと立ち回りの小賢しさからすると、大した罰も受けない上に粘着質なヤツだ。隙ばかりあるミドリコではロクなことにはなるまい。


直接手に掛けた犠牲者だけでも70人は越える。


法では道理が通らず裁けぬ者ども。


ならば悪名を持って悪辣を制する、それだけのこと・・



翌朝、最近流行りの『(なま)チュロス』の店に、前貸しを作っておいた『行列代行業者』のフェザーフット族達に代わりに並ばせて、サクっと購入したメチャ柔い生チュロスとホットドリンクを4人で買ってモリモリ食べながら『何か問題あります?』って顔でイーストガーの衛兵警察庁に行ってみたら、


オジラは断罪室の介入で長期入院したので面会不可、資料と報償金は提供する


とのことで金と資料だけ受付でドサッと渡されてさっさと帰されてしまった。

庁内に残ってるとまた2番隊の連中が嗅ぎ付けてきて面倒臭いからだろね・・


「ん~、資料はガッツリしてるけどギャラ4人で60万ゼムか。相変わらず警察のギャラ、ショボ~!」


「拘束されないだけマシさ」


「というか断罪室の介入って君のお師匠さんじゃない?」


「・・チクったの? ワタシより告げ口魔」


「チクってませんし~~。一緒にするのやめて下さい~~。あたしは街中でヌイグルミ被ったりしません~~。あ痛っ」


怒ったユパっち先輩に尻パンされた。


「何にしても断罪室は誰が来てもリンチだよ。ヤバい人しかいないから。それより金の根っこは遠いから、どっか個室のある店行こ! 今後の方針を決めないとっ」


協議の結果・・



2日後、あたし達は聖ユルソン政府の物資輸送業者の竜車の一団に偽装した、衛兵警察6番隊に紛れて、イーストガー北西のエルフ達が多く住む『ガラスの森』にわりと近い海沿いのソルトロック領に来ていた。


「荒れ過ぎじゃないの? 情報統制どんだけ??」


幌にある窓を開けて、フードを被ったあたしは他の3人とあちこち『焼け野原』の有り様のソルトロック領のとある町を見ていた。


一般には『現地で疫病が流行りつつある為、周辺への人口流出が起こっている。政府はこれを注視』みたいに報道されたりしてる。『注視』って何だよ、って話だけど。


竜車団は物資輸送業者に偽装してるから、領からの脱出が済んでいない、あるいは脱出する見通しの立たないいくらかの焼け出された人達が、この村に留まりそうにない竜車団を虚ろな顔で見送ってた。


視線に耐えられなかったらしい隊長が1台に指示して停めて物資の配給を呼び掛けさせると、あっという間に住人殺到した。


「・・・」


善行だけどさ、これで用意していたあたし達と6番隊の現地活動物資25日分の内、5日分は飛んじゃったね・・


でもって、窓に顔を寄せてるからユパっち先輩が今日も被ってるドラミンがこっちの顔までモフってきて結構邪魔っっ。


「酷い。ここまでだと、いくら王家の血筋でも元通りとはいかないかもしれないよ」


「事後処理はファイターギルドの飯のタネになりそうだ」


「・・恨みがあるなら、当人達だけでやればいいのに。バカみたい。ドラミンもそう言ってる」


そうソルトロック領は踊り手一派に襲われていた。


「私怨、かぁ」


『当代』の踊り手はここの領主と因縁があるらしい。


正直ダルい、というか、まぁ個人的なこと何だな、て。

人間、度を越えてやらかすのはそんな物かもしれないけど・・

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