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7-6 2回目

 シルヴェスターとクラウディアは彼女の私室で2人きりで夕食を採っていた。

 国王からはクラウディアが目覚めた祝いに王家とシュタインベック公爵家で晩餐会を開こうと言われていたのだが、シルヴェスターはまだクラウディアを他の男の目に晒すことをしたくなかった。実家と家族ぐるみの付き合いである王家の者だけとはいえ、その中にクラウディアを窮地に陥れた者がいるのもまた事実だ。それにクラウディアにはもう少し心身の状態が良くなるまでゆったりと過ごしてほしかった。

 

 歓迎はしていないが、ステイグリッツ帝国の皇子2人が使者であることには変わらないので、夕食にはフルコースの料理を用意させた。

 シルヴェスターとクラウディアの2人も同じ料理を食している。

 クラウディアは上品にフォークとナイフを使いながら、「美味しい…………」と呟いた。

 考えてみれば、目を覚ましてから、今日は病人食と言うような消化の良い物しか食べていない。そこからフルコース料理までギャップがありすぎて大丈夫かと思ったが、イヴァンを相手に魔術を使ったり、1日眠り続けたりして身体も心も美味しい食事と栄養を欲していた。

「それなら良かった。料理長も腕を振るった甲斐があるね」

「ええ、本当に。とても美味しいですわ」


 食後のコーヒーが出されると、シルヴェスターは今日の会談の様子をクラウディアに愚痴交じりに話して聞かせた。

「まあ、帝国の皇帝陛下が(わたくし)の結婚を仲介ですか?もしお祖母様がいらっしゃらなくて身体に瑕が残り、シル様との縁談が破談になったとしても、国外へ出るつもりなどありませんのに。もしそうなったとしても、父や国王陛下が何とかしてくださるでしょうし…………」

「ディア、前提が間違えているよ。もし身体に瑕が残ったとしても、私はディアを手放さい。どうしてもと言うなら、ビンスもプラティニもいるんだ。王太子の地位を降りてディアと領地でのんびり過ごすよ」

「シル様…………そんな、(わたくし)なんかのために王太子の地位を降りる等とおっしゃられては駄目ですわ」

「「わたくしなんか」なんて言わないで。私が幼い頃から一番大切だったのはディアなんだから。ディアを手放すくらいなら王太子の地位を捨てるよ」

 シルヴェスターの口調は軽くても、その眼差しは真剣そのものだった。

 その眼差しに中てられて、クラウディアも素直な心情を吐露した。

(わたくし)も同じですわ。例えどのような身体になっても、シュタインベック公爵家を勘当されても、シル様が(わたくし)の手を離さないでいてくださる限り、シル様のお傍にいたいです」

 クラウディアの告白にシルヴェスターの理性の導火線に火が付いた。

「ディア、ごめん。今日もいい? 入浴して就寝準備した後……」

 クラウディアは赤くなって俯いた。

「あの…………今日みたいに歩けなくなってしまうと困るので…………そうならない範囲であれば。その…………」

「うん。善処するよ。ありがとう。ディア」


 閨事を承諾してしまい恥ずかしさに耐えきれなくなったクラウディアは強引に話題を変えた。

「それで、その今日の会談のことなんですけど…………あの方の処罰について、彼が犯罪を起こしたギルネキア王国の法で裁くのが普通だと思います。ですが、帝国での処罰内容がギルネキアと同じであれば、帝国で処罰するのでも構いません。処罰した証明となるようなものを送っていただく必要はあるかと存じますが。とはいえ、首を送ってこられても困りますけど」

「ディアは寛大だね。私はそこまで譲歩する気にはなれないよ」

「寛大ではございませんわ。貴族牢とは言え、同じ王宮にいるのが耐えられないのです。一刻も早くあの方が(わたくし)の行動範囲からいなくなって、処罰されるならいっそのことどちらでも構わないと言うのが素直な心情ですわ。あの方が実は予備の空間転移の指輪を持っていて、また私の所に来るのではないかと思うと、護衛の方が付いていて下さっても怖くて仕方ないのです」

「そうか。分かった。ディアの気持ちを優先して交渉に当たるよ」

「はい。よろしくお願いいたします」

 その後も、会談のことについてや、明日はギルベルトをはじめとする兄弟に会ってみるか等、真剣な内容のものも多いが、穏やかに会話して楽しい時間を過ごした。

 

 程よい頃合いを見計らって、エレーヌが入浴の準備が整ったと伝えに来た。

「エレーヌ、今日も頼むよ」

「殿下…………今朝お嬢様がお一人で立てなかったのをもうお忘れですか?それを昨日の今日でなどと」

「エレーヌ。ディアの了解はもらっているよ。今日は無理しないよう善処するから」

 そう言うとシルヴェスターはクラウディアの額に口づけし、部屋を後にした。

「お嬢様は殿下に甘すぎますわ。嫌な事は嫌とはっきりおしゃいませんと」

「エレーヌ。それが、その恥ずかしさはあるけれど、嫌ではないのよ。それに閨事はともかくとしても、今はまだあの方が王宮にいるから、シル様がお傍にいてくださらないと不安で仕方ないのよ」

「お嬢様…………そう言う事なら、かしこまりました。お任せください。エレーヌも他の侍女たちもお嬢様を磨き上げて差し上げます」

「ありがとう」

 クラウディアはほっとしたように微笑を浮かべた。


 ◆ ◆ ◆


 入浴、お肌や髪のお手入れが終わり、薄紫色の可愛らしいがちょっと艶っぽさを感じさせるネグリジェを着させられて、クラウディアは夫婦の寝室に案内された。

 そこにはもうシルヴェスターが来ており、ベッドに腰かけて本を読んでいた。

 クラウディアが入ってくると、シルヴェスターは本から顔を上げて、「ディアおいで」と両腕を広げた。

 クラウディアはゆっくりと近づいていき、最後はシルヴェスターがクラウディアの腕を引っ張って自身の膝の上に彼女を横抱きに抱き上げた。

「良かった。来てくれて」

「それは、その、お約束しましたもの」

 赤くなって俯くクラウディアの髪をシルヴェスターは愛おしそうに撫でる。

「ディア、愛している」

「…………シル様。……(わたくし)もその、お慕いしております」

「ディア、いい?」

「…………はい」

 2人の2回目の閨事は始まったばかり…………


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