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7-1 ステイグリッツ帝国

 ステイグリッツ帝国はドロスト山脈をはじめ多くの山々が国土の大半を占め、平野部はほんのわずかしかない厳しい土地柄だった。

 だが、他国にはない魔術と魔道具の革新的な進歩により国民は不自由の無い生活を営んでいた。

 ただし、食糧事情だけは別である。ここ数年天候不順が続き、作物が不作の年が続いていた。貧しい農村では餓死者が出る始末である。帝国上層部はそのことに頭を痛めていた。

 

 そのステイグリッツ帝国の皇帝一家が暮らし、国家の中枢機能を果たすエフゲーニヤ大宮殿では、皇帝エツィオ・ステイグリッツがアレクサンドル・シェスタコフから届けられたギレネキア国王名義の書状に目を通し、激高していた。

「あの虚け者は何をやっておる!?6属性の魔術を使う女性を妃に迎えると言って勝手に飛び出して行っただけでなく、その女性に大けがを負わせてギルネキア王国の貴族牢に捕らえられているだと!?」

「それは真ですか!?」

 エツィオの執務室にいた宰相や側近たちから驚いたような声が上がる。

「読んでみろ」とエツィオは書状を宰相の方へ投げつけた。

 書状読み進むうちに宰相の顔色が悪くなっていく。

「皇帝陛下、いかがなさるおつもりで?」

「あの虚け者などどこで野垂れ死にしようが構わん。被害にあった女性には十分な賠償をしよう。もしこのことが原因で婚姻に支障が出るようであれば私が仲介しても良い。だが、問題なのは帝国の国家機密である転移魔術の魔道具をギルネキア王国に知られたことだ。その一事を以てしてもイヴァンは万死に値する」

「そうですな。国家機密を他国に漏らすような振舞いをするなど、皇族の資格はございませんでしょう。やはり側妃の子はそれまでということですな」

 この側近の言葉にもエツィオは苛立ちを覚えた。正妃に子が出来ぬからと側妃を無理やり娶らせたのはこの側近たちだ。それが正妃に子が生まれ、エツィオが正妃とその子らを深く愛しており、また世継ぎとなる可能性のあるヴィクトルやマクシムが優秀だと知れると手の平を返すように正妃派に回ったのだ。

「ヴィクトルとマクシムを呼べ」


 皇帝に呼ばれて執務室へやってきた、ヴィクトルとマクシムは皇帝と同じ黒髪黒目のすらりとした青年たちだった。

 正妃の子であり第二王子のヴィクトルが20歳、同じく正妃の子であり第三王子であるマクシムが19歳。確かにイヴァンとは少し年齢が離れている。

 ギルネキア王国からの書状を読まされた2人も眉を顰めた。

「イヴァン兄上はいったい何をされたかったのです?求婚しに行った女性に大怪我を負わせるなど、正気の沙汰とは思えません」

「イヴァン兄上のせいで、ギルネキア王国は王家と筆頭公爵家の蜜月具合が高まり、王太子の婚約も早々に纏まってしまいましたね。こちらがエカテリーナの話を持ち掛ける隙も無かった」

「剰え、国家機密を他国に知られるなど…………」

「皇太子を名乗る資格は無いですね」

 ヴィクトルとマクシムの言葉にエツィオは頷いた。

「この際エカテリーナの話は置いておいてよい。魔術も魔道具も後進国であるギルネキア王国へ嫁がせたところで、苦労を掛けるだけだろう。それではエカテリーナが可哀想だ。

 この件2人に任せてもよいか?今すぐギルネキアと一戦交えたい訳では無い。被害に遭った女性には言い値での補償を。その代わりイヴァンの身柄をこちらが引き取り、帝国で処罰を下すことを承知させろ」

「「かしこまりました」」

 エツィオはすぐにギレネキア王国への返信の書状を認め、ヴィクトルとマクシムは皇帝の執務室を退出した。


 ヴィクトルとマクシムは大宮殿の廊下を歩きながら、相変わらず首を傾げていた。

「本当にイヴァン兄上のやることは訳が分からないな」

「お相手の女性は6属性魔術を持つギレネキア王国の筆頭公爵家の長女とあるけどね。彼女の持つ6属性魔術が目的なら、さっさと浚って指輪で帰還すれば済んだものを」

「惚れたのかな?」

「それで手ひどく断られて、ブチギレて魔術で痛めつけたと?」

「イヴァン兄上ならありそうじゃないか?割と自分の思い通りにならないと思いきった手段に出ることもあるし」

「確かにね」

 

 エツィオとアレクサンドルを挟んだギルネキア王国との間で書状のやり取りが行われ、2日後にヴィクトルとマクシムがギルネキア王国王宮に赴くことが決まった。

 クラウディアへの見舞いの品となるようなステイグリッツ帝国の特産物も多数集められ、2日後、ヴィクトルとマクシムは指輪でギルネキア王国へ空間転移した。

 

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