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5-6 国王陛下の思し召し

 その頃、王宮ではシュタインベック公爵家当主ウーヴェと嫡男のギルベルトが国王に面会していた。

 ウーヴェは今日、イヴァン・ステイグリッツから襲撃を受けたこと、クラウディアが無体を受けたことを包み隠さず報告した。

「そうか…………すまないことをしたな。早急にディアを王宮で保護するべきであったな」

「いえ。当家から保護をお願いすべきでした。護衛は強化していたのですが……光魔術の精神操作を使われ、役に立ちませんでした」

 ウーヴェもギルベルトも後悔と憤りに顔を歪めている。

「明日謁見の場で、正式に抗議しよう。無論婚約の申し込みも断る」

「はい。よろしくお願いいたします」

「ディアには明日の謁見式と舞踏会に王太子妃として出席してもらわねばならぬが、大丈夫そうか?」

「…………それは何とも…………」

「私たちが家を出る際にはひどく取り乱していると報告がありました。シルヴェスター王太子殿下がディアを宥めに行ってくださいましたが…………」

「そうか。シルがなんとかディアの心を落ち着かせてくれていると良いが……」


「ところで、物は相談だが宰相。今更だがディアを王宮で預かろう」

「はっ。ですが、イヴァン・ステイグリッツも王宮に滞在するのであればかえって危険ではありませんか?」

「いや、ディアには王太子妃の部屋に滞在してもらう。王太子妃の部屋も王太子夫婦の寝室もディア好みに8割がた仕上がっている。

 短期間であれば生活するのに問題はない」

「陛下、それはどういうことでございましょう? クラウディアが王太子殿下からの婚約のお申込みをお受けしてからまだそれほど日にちは経っておりませぬが」

「なに、王妃がやったことだ。ディアの成人に間に合うように1年前からディアの好みに合うよう改修工事を行っていた」

「それは…………」

 ウーヴェとギルベルトは互いの目を見かわし、ため息をついた。

「王妃陛下も無茶をなさる。これでクラウディアがお断りしていたらどうなさるおつもりだったのでしょう」

「私もそう言ったのだがな。ディアが断るわけはないと。成人したらいつでも嫁いでこれるように部屋を整えねばと息を巻いてな。

 その部屋でディアを預かろう。さすればシルも自然と近くにおる。ディアも安心するだろう」

 それはそうかもしれないが、婚約式前からそれでいいのだろうかと、ウーヴェもギルベルトも頭を抱えた。

「なに、婚約式はまだでも婚約の件自体は正式に国内外に発表している。多少順番が変わっても問題なかろう。

 私はこの際、興が乗ってシルとディアが契りを交わしても良いと思っている。ここのところ何度も言っているがな。

 ディアを他国へ渡さないためには最大の防御になる。今は残念だが一般常識にも2人の感情にも忖度していられない」

 ウーヴェは緩く首を横に振った。

「陛下。やはり私はそれは認められませぬ。ディアを王宮に預け、王太子夫婦の寝室を使うとしても添い寝までが限度です」

「ははは、この件に関しては宰相とことごとく意見が合わぬな。同じ父親でも娘を持つ者と持たぬ者の違いか?ギルはどう思う?」

「お言葉ですが、陛下。この件に関しましては私も父と同意見でございます。シルヴェスター王太子殿下のことは信用しておりますが、それとこれとは別問題でござます。なにより世間体と言うものもございます」

「最近は貴族でも正式に結婚する前に契りを交わす者も多くなったと聞くぞ。そこまで気にしなくても良いのではないか?」

「下級貴族や伯爵位くらいの者であれば、そういった風潮でも良いのかもしれません。ですが、王太子殿下と筆頭公爵家の娘の婚約となれば古くからの慣習を守ってしかるべきでございましょう」

 真面目な意見を述べるギルベルトに対し、国王は意地悪く笑った。

「溺愛している妹を取られるのが癪か?」

 ウーヴェとギルベルトは再び頭を抱えた。この国王は時々意地悪く人を揶揄う癖がある。困ったものだ。

「陛下。お戯れが過ぎます。私はシルとディアの婚約を喜ばしく思っておりますよ」

「そうか。2人がそこまで言うのなら仕方あるまい。シルには、添い寝までと申し伝えよう。だたし、男女のことだ。2人共に興が乗ってしまった場合は致し方ないと納得してくれ」

 これ以上は堂々巡りだとウーヴェもギルベルトも反論を諦め頷いた。

 国王はクラウディアの登城と城への滞在を願う旨、侍従に申し伝えてシュタインベック家へ早馬を走らせた。


「話は変わるがな、宰相。先日の10歳の魔術測定で面白い者が見つかった」

「それはどのような?」

「平民の王家御用達の商家の子息だが、白黒火、風、光、闇の4属性を顕現させておる。もっとも平民と言っても何代か前に貴族の娘が降下しておるようだがな」

 ウーヴェもギルベルトもまさかの事態に目を見張った。

「イヴァン・ステイグリッツの件で早急に宰相に情報連携できずすまぬな」

「いえ、そこはお気になさらず。して、その者の処遇はいかに?」

「シュミット一代男爵として取り立て、王宮……というよりは近衛騎士団で育てることにした。王家御用達の商家の子息だけあって、基本的な読み書き、計算、礼儀作法は身に着けておるしな」

「左様でございますか。光、闇属性を持つ者をどこかの貴族に縁付けることは危険でしょう。私も王宮で育てることに賛成でございます」

「その者には、将来王太子妃となったディアの護衛に付かせたいと思っておる。どうだろう、この滞在を機に顔合わせをさせてみては」

「ご配慮ありがたく。陛下の思し召し通りに」

 今日の件も、先日のウェンデルの件にしても、相手が光や闇属性を持っていると騎士が役に立たない。同じ光、闇属性を持つクラウディアか祖母のマルレーネだけが頼みの綱だった。だがマルレーネももう高齢だ。無理はさせられない。クラウディアがどんなに苦手な相手であろうと、怯えていようとクラウディア自身が自分で何とかするしかなかったのだ。

 だからこそ、シュミット一代男爵は、クラウディアの護衛として貴重な存在だった。

 

 

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