3-6 クラウディアの決意
ギルベルトが一旦屋敷に戻り、シルヴェスターが呼んでいることを話すと、クラウディアは大急ぎで登城するに相応しいドレスに着替えた。
またしても2人で馬車に乗り込みながら、ギルベルトは事の経緯を説明して、
「嫌なら、断って良いのだからね。もともとシルは反対しているし、私も父上や母上、お祖母様が何と言おうとディアの気が進まないことをさせるつもりはないから」
と言ったが、クラウディアは首を横に振った。
「お母様とお祖母様のおっしゃる通りです。私には王家の方々や、シュタインベック家の者、それに何より大切な国民を守る義務もあるのですから」
「……ディア」
◆ ◆ ◆
王宮に着き、シルヴェスターの執務室に入ると、待ち構えていたシルヴェスターが早速ディアと2人きりで話したいと言ってきた。
「奥の応接間に案内する。ドアは開けておくから心配するな」
「シル……」
ギルベルトは仕方がないとため息をつくと、渋々了承した。
「余計な手出しはするなよ」
「ああ」
「ディア、おいで」
シルヴェスターはクラウディアを呼ぶと、エスコートと言うよりクラウディアと手を繋ぐような形で応接間に入っていった。
ディアの向かい側ではなく隣り同士にソファに座る。
「ディア、ギルベルトから話は聞いたよ。きみがいざと言う時に6属性魔術を使用して敵と戦うよう教育されていることもね」
「はい」
「だが、私はディアに戦わせることなどしたくない。それが最善の方法だと分かっていても、ディアを戦いの場などに連れて行きたくないんだ」
「シル…様……」
ディアはそんな場合ではないと承知していながらも「お兄様」と付けずにシルヴェスターを呼ぶのに少し躊躇して頬を赤らめた。
「シル様、お心遣いありがとうございます。ですが、私なら平気ですわ。
幼少の頃より母や祖母から教育されている通り、それは私の義務だと理解しております。
6属性魔術を持って産まれた者の宿命だとも。
「そんな義務も宿命もない!ディアはかわいい私だけの女性だ。戦場に立つ必要などないのだよ。
昨日だってあんなに怯えていたではないか」
「それは…、申し訳ございません。昨日は醜態をさらしました。デビュタントで油断していたのです。ウェンデルに対する恐怖の方が先立ってしまいました。
ですが、二度同じ失態は起こしません。どうぞ、存分に私の魔術をご活用くださいませ」
「ディア、ディアは女性だ。いくら6属性の持ち主と言えど、本来王太子として非情でも命令を出さねばならないと分かっていても、私にはディアにそれをすることはできないよ」
そう言うと、シルヴェスターはクラウディアの肩に手をまわし、自分の肩口にもたれかからせるようにした。
「シル様?」
「嫌だ。ディアを危険にさらすなど私にはできない。ディアはこうして私の腕の中で守られていればいいんだ。」
「シル様……」
クラウディアは突然のシルヴェスターとの接触と言葉に首筋まで真っ赤になった。
2人とも何も言えない状況がしばらく続いた後、先に口を開いたのはクラウディアだった。
「シル様……私本当は結構負けず嫌いですのよ」
「うん、知っているよ。小さいころからそうだったよね」
「ですから、ウェンデルに対してもやられっぱなしではいられませんの。私自身の手で、この件解決したいのです」
「ディア……それでも……」
「ウェンデルよりも私の方が魔力量も多く、使える魔術も多いです。
少し離れた場所からだったとしても彼の闇魔法を封じ、身体を拘束することは可能ですわ。
ですからどうか私をお使いくださいまし」
「ディア……」
シルヴェスターはもう片方の手もクラウディアの肩に回すと、腕の中に閉じ込めるように抱きしめた。
「……本当に良いのか?」
「はい」
「では、約束してくれ。ウェンデルの前面には飛び出さないと」
「はい」
「私かパトリツの指示を守れるね?」
「はい」
「片が付いたら、今のように抱きしめさせてくれるね?」
「は……え?」
「君の無事を確かめさせてくれないかい?」
クラウディアはその言葉に赤くなった顔を隠すように下を向きつつ、小さく…本当に小さく頷いた。
クラウディアの返事を確認すると、シルヴェスターはため息をついて、クラウディアに廻していた腕を解いた。
「全く、君も頑固だね。この件の責任者である私が出る必要は無いと言っているのに」
「それでもですわ。他の場合ならともかくウェンデルに関しては、私を使うことが一番の方法です」
「分かったよ。きみの魔術を当てにさせてもらおう」
「はい!」
シルヴェスターは苦笑しながらも了承し、クラウディアは嬉しそうに笑った。




