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15話:【最終話】私はこうしてハードボイルドを目指している。

今話でこの物語は最終話となります。

お読みくださった方々、どうもありがとうございました。



 その日の夜だった。

 万代はグラマン館から戻ると、そのまま自宅の部屋でなにもせずに眠っていた。




 事件は解決した。

 だが訪れたのは空しさだけである。

 自分の未熟さや非力さが腹立たしかった。

 いっそこのまま干からびてしまいたいとさえ感じていた。




 だが……さすがに空腹には勝てず料理の匂いが漂って来たので、ふらふら立ち上がった。




「祝杯って訳じゃないんだが、先にやらせてもらってるぜ。買ってきた料理ばかりで悪いんだが」




 青咲はそう言ってビールをあおった。

 テーブルの上にはテイクアウトものばかりが並んでいる。ピザとか寿司とかである。




「なにこのピザ。具が全然ないじゃない」




 万代は文句を言いながらも椅子を引き寄せた。

 そして目を閉じる。




「……なにやってんだ?」




「黙祷よ。いちおう四人の死者が出ているんだし」




 万代が答えると青咲も、ああ、といって黙祷に付き合う。

 迫水伯爵とそのホンモノの長男、次男、そして長女が犠牲になった。




 だが閉じた瞼に浮かぶのは本物の慧、つまり麻奈美のことである。

 短いつき合いだったが不思議と波長の合う女性だった。




「中西って言う弁護士のじいさん、さっき来たぞ。屋敷の話はあらかた聞いた。

 で、迫水伯爵の子供でただ一人生き残っている本物の恵、……日本で長期入院している娘だな。

 この娘に遺産が全額行くそうだ。で、家政婦のおばさん姉妹もじいさんが次の働き口を紹介するらしい……」




 先に目を開けた青咲が言う。




「……そう」




「もうひとつある。ティトゥとか言う警察官から連絡があった。

 屋敷の近くの森の中でもう一体の死体が見つかったそうだ。

 空から落ちて来たらしく高い枝に引っかかっていた。……どうやら迫水家の男兄弟のどっちからしいぞ」




 万代は考え顔である。

 海岸公園で水死体で発見されたのが当主の敬一氏。

 そして同じく海岸公園でホットドッグ屋に落ちてきた死体と、今の話にあった森の中で見つかったのが本物の長慶と次景。




 これで本物の迫水家の男たちの死体はすべて見つかった。




 そして麻奈美と名乗った本物の慧は崖の上で溺死させられていた。

 だから唯一の迫水家の生き残りが日本で入院している本物の恵なのである。




「まだある。

 ……あの二人。まだ見つからないみたいだぜ。

 迫水姉妹に化けていた八龍団の小皇帝と小太陽。

 生きている訳ないと思うんだがな。例の大波に飲まれたんだろ?」




 八龍団については万代は青咲に聞かされていた。

 偽物の恵が小皇帝、偽物の彗が小太陽と呼ばれる香港系マフィアの幹部である。




「わかんないのよ。最後の瞬間だけははっきり見たんだけどね。

 恵が立ち上がって警官から銃を奪って、それに呼応した彗とドアを開けて玄関を飛び出したの。

 そしたら波がね。……五階のレバーが『潜水艦』になっていたから二人に直撃だった。


 ……私ができたのはせいぜい玄関の大扉を閉めることだけ。

 ガラス越しだから見えるのよ。ふたりの身体はクルクル舞い上がって……」




「ふーん、なるほどな」




 青咲は頷いた。




「……グラマン館はガラス張りなのに全然見えない陰謀たちが隠されていたわ。

 そしてそれが同時進行したことから複雑になり、ある方面から見るととても説明できない状態になっていたのよ。

 ……ちょうどあなたがいった折り紙の『だまし舟』のようにね」




 万代はグラスに口をつけた。そして話し始める。




「……あの屋敷を造ったグラマン氏はアカデミー賞を受賞した名優よ。

 そして屋敷を舞台にもう一度壮大なお芝居が行われた。


 それは何年も前から時間をかけて準備する必要があるほど複雑で大がかりなものだったわ。

 だから私も騙された」




「ああ……」




「でも……その公演を行うために演じる資格がない本物の敬一氏は真っ先にこの舞台から降ろされたのよ。 つまり殺害されたってことね。


 ……そしてそれを行った主犯格は……山下夫妻。

 でも山下夫妻は主役じゃないわ。あくまで俳優たちを引き入れるのが目的だったのよ」




「俳優か。つまりニセモノの兄妹たちってことだな」




 青咲の発言に万代は頷くと寿司に手を付ける。

 形は不格好で得体の知れない白身魚がネタとして乗っているが、まあ寿司と言える。



「で、敬一氏がいなくなったことで舞台の準備は整ったわ。

 それで俳優たちが登場し、いちばん最初に始まった舞台が企業相手の詐欺事件だったのよ。


 伯爵領は当然治外法権なのでニコバレンの法律にしばられない企業活動ができる。

 そしてそれを餌にして多数の企業から土地売買契約の前金をだまし取っていたというのがこのグラマン館を舞台に選んだ最大の理由だった」




 万代は寿司を咀嚼する。

 その顔を見るに味はそれなりだが少々不満が見える。




「まして当主の敬一氏は人嫌いで死期が近い老人だった。

 だからその代理として息子たちが前面に出てもそれを疑う企業はまずないわ。

 そして搾れるだけ搾り取ったら、ある日突然姿をくらますのが当初の目的だった。


 でもそのためには邪魔な人間が二人いるわ。

 だから俳優たちはその二人を殺害した。……手段は敬一氏と同じやり方でね」




「――なるほど。それで殺されたのが本物の長慶と次景……か。

 おそらく遺産をちらつかせて日本から呼び寄せたんだな。


 本物の迫水慧の安アパートにもニコバレンへの招待状が届いていた。

 差出人は迫水敬一だったが、たぶん山下とかいう執事が送ったんだろう」




 青咲の言葉に万代は頷いた。




「で、そこで犯人グループ。

 つまり八龍団の前に予期せぬファクターである前名麻奈美と名乗る女性が現れた。

 つまり……本物の迫水彗だったな?」




「ええ。以前からグラマン館の近くの海で見知らぬダイバーが何度も見かけられていたから、彼女がそれだとはわかっていた。

 ……たぶんボートで密入していたのね。


 そして前名麻奈美の名前に隠されたメッセージに気がついたから彼女が腕時計を送りつけたのもわかった。

 腕時計は海から引き上げられた死体、つまり迫水伯爵が身につけていたものだったのよ」




「……『全ては明らか、それが真実』ってやつか?」




「ええ。……それで考えたんだけど、そもそも彼女がこのニコバレンに来ていたのはたまたまだったんじゃないかと思う。

 でも今回、父親がニコバレンにやって来ていることは実は知らなかったんじゃないのかな?」




「あり得る話だな。

 ダイビングをしているのなら南の島にやって来るのは自然だ。


 それにこの国は父親の屋敷もある。

 機会があれば訪問したいと少しくらいは考えていた可能性もあるな……」




「そうね。彼女の部屋に招待状が残っていたというあなたの話からも、彼女は呼ばれてここに来た訳じゃないことが証明できる。

 ……でも彼女は偶然にも父親の敬一氏がこの国に来ていることだけじゃなくて、すでにグラマン館が偽物に占拠されていることも知ったんだと思う」




 青咲は難しい顔になり腕を組む。


「そうだな。単に流れてきた情報を拾っただけの俺でもあそこに迫水敬一が戻ってきているのを知ったいたくらいだからな……。


 たぶんダイバーの仲間同士の情報交換で仲間が務める会社が八龍団たちが目論んだ偽の商談に欺されて参加していれば、グラマン館に迫水家の一家が全員揃っているという話は簡単に手に入るからな」




「ええ、私もそう思っている」


 万代はグラスの残りを一気に飲み干した。


「だから彼女わざわざ英語で『Kei Sakomizu』なんて宛名を書いて犯人グループに警告したんでしょうね。本物の迫水敬一が殺されたのを知っている、と……」




「でも……なんでその女は殺されたんだ?」




「彼女は海岸公園で引き上げた死体が本当に敬一氏って確信がなかったんじゃないかな? 

 腕時計は確かに記憶通りだったけど、腐敗が激しい遺体だったから何年も会っていない実の父親に間違いないって思えなかったんでしょうね。


 それで生存を確かめるために五階への侵入を企んで……。

 それだけじゃないわね……。

 ひょっとしたら敬一氏の件で犯人たちを揺すろうなんて危険な考えもあったのかも知れない」




「……それで突き落とされた、って訳か?」




「ええ。でも……わかんないんだけど。

 彼女、水死体を見たときに別に悲しそうじゃなかった。

 確かに確信は持てなくても父親の可能性が高いのなら、悲しみの表情を少しくらい浮かべてもいいと思うけど」




「人間ってのは置かれていた状況でそういう場の反応に違いはある。

 ……あの女、本物の迫水慧のアパート、家賃はかなり安そうだったぜ。

 それに本物の腹違いの妹の恵が入院している病院も大したところじゃない」




「そうなの? 

 ……偽物たちは裕福な仕送りを送ってもらっているって聞いてたから、てっきり相当な金額を送金してもらっているかと思っていたけど」




「恨んでいる……ってまで思わなくても、父への愛情はなかったのかもしれないな。

 本物の迫水伯爵は案外子供たちに遺産を残す約束なんてしていなかったのかもしれない。


 だから急にわいた遺産話に欺されて殺された本物の長慶と次景も、のこのこニコバレンまで来ちまったのかもしれないな。

 ……で、その本物の迫水慧、つまり前名麻奈美を殺したのが偽物の恵、つまり小皇帝なんだな?」




「ええ、そうよ。

 ……あやうく私も殺されるところだった。あの子が立てないって私も本物の彗も思いこんでいた。

 だから本物の彗、つまり麻奈美さんが五階へ目指したときに小皇帝は言葉巧みに呼び止めて窓から落としたんでしょうね。


 落とすには立ち上がらなくては駄目だし……。あのときの悲鳴は自分だって言ってたけど、あれは本物の彗のものだったんだと思う」




「お前はどうして小皇帝が本当は立ち上がれるって気がついたんだ?」




「……その窓、開け閉めは車いすでできるけど鍵だけは立たないと届かないのよ。

 私が駆けつけたとき、窓の鍵は完全に閉まっていたわ。

 ……で、そのとき私が窓の外を見てたら私の腰につかまってたのよ。


 もちろん私も落とそうとしたんでしょうね。

 でも私が振り向いたことであきらめたんでしょう。

 ……でもそれに気がついたのは地下室で閉じこめられたときなのよ。


 麻奈美さんが実は本物の彗だってわかって、家族の中に偽物がいることも理解したのに、それでも私は恵だけは絶対に守るべき対象だと信じ込んでいたの。

 恵だけは本物だと思っていたんだから偉そうなことは言えないわ」




「なるほどな……そしてそのとき本物の迫水慧は大波にもまれていた。

そして訪れた寄り回り波に巻き込まれて崖の上で溺死死体で発見された訳だ。

グラマン館という屋敷の構造を知り尽くしていたから可能だった犯罪ってことだ」




 万代は目を閉じた。そして思いを巡らす。




「考えてみるとつくづく犯人たちは巧妙だったと思う。

 私が慧にホテルの部屋で見させられた迫水家の家族のレポートがあったの。


 あれは完全に客観的かつ詳細に迫水家の人々の様子が書かれていたけど、あれは元々自分たちが成りすますために調べ上げたものに違いないと思う。

 そのくらい彼らは準備万端に犯罪に取りかかったのよ」




「まあ、犯罪の規模が規模だからな」




 青咲は頷く。




「それだけじゃないわ……私が恵のお守りで屋敷内を案内させられたことがあったの。

 そのとき恵に四階の窓を開けさせられたかと思うと、そのあとすぐに窓を閉めてカーテンもすべて閉ざせと言われたわ。


 そのときたぶん寄り回り波が屋敷を包んで潮位を屋上まで押し上げようとしていたからなのね。

 だから外が見えないようにしたんだと思う」




「例のレバーが潜水艦になっていた、ってことか?」




「ええ、たぶん。壁の近くにいた私が気がつかなかったくらいだから、三階にいたビジネスマンたちもきっと気づかなかったと思うわ」




「なるほど。だがいつも潜水艦側ばかりにしていた訳じゃないんだろ? 

 ビジネスマンたちが毎日出入りしているんだから、いつかはそれがバレるだろ?」




「ええ、だからときどき必要に応じて寄り回り波のレバーを飛行機側にも切り替えていたのよ。

 例えば……私が偽者の慧と恵を連れて漁村に行ったときがあるの」




「弁護士のじいさんが居合わせたときか? 万代が二人を連れてドライブに行ったといってたな」




「そう、そのときのことよ。

 斜面から車が落ちてきて危うく事故に巻き込まれそうになったた事件の後ね。

 そのとき漁村で空からたくさんのサカナが降ってきたんだけど、そのとき崖の向こうにグラマン館が一瞬だけ見えたの。


 ふつうなら絶対に見えない位置にね。

 考えてみればあのときはビジネスマンたちが帰る時間だったから、高潮を見せないように飛行機側にレバーを選択していたのは間違いない」




「……危うい綱渡りだな。

 ビジネスマンたちのひとりでも屋敷を振り返っていれば騒ぎになっただろうにな」




「騒ぎにならなかったみたいだから目撃者はいなかったんでしょ? 

 連中、商談の成果で相当熱くなっていたみたいだし……」




 万代は冷えかかったピザに手を伸ばす。




「でも……まだわかんないことがあるのよ。

 ……そもそも犯人グループたちは家族そっくり入れ替わって企業相手の詐欺だけやってれば、きっとバレなかったんじゃないかと思うの。


 なのになんで偽物の彗は私を呼んで偽物の恵のボディガードなんかやらせたんだろう。

 ……それにわざわざ回りくどくテストなんかして。

 ……それに偽の恵を狙った事件だってそもそも自作自演よね……?」




「だろうな。

 間違いなくお前の注意をそっちに仕向けて、お前自身を狙った犯罪だと悟らせないために仕組んだ巧妙な罠だろう」




「私を狙う? 罠? どういうこと?」




 万代は身を乗り出した。




「……お前に見せるものがいくつかあるんだ」




 青咲は一通の手紙を取り出した。




「……見覚えあるだろ?」




 万代はそっぽを向く。

 それは万代の兄である宗一郎が万代に宛てた手紙であった。

 青咲はそこから写真だけを抜いて万代に差し出した。




「……! 彗? ……いや、小太陽ね?」




 写真に写るのは確かに偽物の彗だった。

 髪型や化粧は少し違うが間違えようがない。




「これはお前の兄が付き合っている女だ。

 ……いや正確には付き合っていた女だな。会田葉子という偽名でだ」




「……兄貴と会ったの?」




「以前から親友だ」




「……どおりで。兄貴が私の住所を知っている訳だわ」




 万代は青咲を睨む。




「怒ったのか?」




「……別にいいわ。……それよりも兄貴とこの女が関係しているってことは?」




 万代は思いを巡らす。




「……つまり、この女は結婚詐欺? そういうこと?」




「当たりだ。お前が死ねば宗一郎が受け継ぐ財産が増える仕組みだ」




「……そういう意味ね。

 だから……そうか、だから偽の恵を狙っていたように見せかけて、実は私を狙っていたんだ」




「たぶん、そういうことだろうな。

 弁護士のじいさんが言ってたぞ。

 無人の車の犯人は偽物のニセモノの彗の仕業にしか思えない、ってな」




 万代は頷く。




「言われてみればそうね。私を狙った事件は二つ。

 最初のシャンデリアは今となってはわからないけどそのとき四階にいた人物のひとり。

 でもこれは特定できない。

 ……でも車の件は別だわ。考えてみればあのとき逃げ場がない中で犯行可能な人物は偽物の彗しかいないもの」




「なるほどな。……だとすると思うんだが、そういう風な事故に見せかけてお前を殺そうと考えていたのなら、テストをしたのも頷けるな。

 そんなテストまでして選び出した人物だから秘密を打ち明けた、という展開ならお前じゃなくても信用してしまうだろうよ」




「……そうね。

 私も失踪者で日本人の男だけを捜せ、という妙な依頼をされたからこそ末娘のボディガードという仕事が提案されたときにすんなり騙されたもの。

 ……あ、そうか。あと犯人たちは心配でもあったんでしょうね」




「なにがだ?」




「死体よ。迫水家の男たちのこと。

 手っ取り早く処分するために空へ打ち上げたけど、見つけられた際に身元がわかってしまったら、その時点で企業詐欺の件は終わりだもの。

 私に調査させて身元不明のままであることを確認したかったんじゃない?」




 万代は目の前にある寿司を取った。今度は赤身のものだった。




「こっちはけっこう新鮮ね。これ」




「ああ、そういうのを、()()()()と言うらしいぞ。

 富山あたりの方言で刺身を食ったら教わった」




「きときと……」




 万代は黙り込んだ。

 新鮮……そういう意味。思い返せばヒントっていっぱいあったんだ。




「そうそう、まだ見せるものがある。弁

 護士のじいさんがぜひ万代に渡してくれ、って置いてったぞ」




 青咲は更に写真を取り出した。それは(オスカー)戦闘機から中西が見つけたパイロットと、その幼い弟妹たちの写真であった。




「女の子たちの顔、お前そっくりだな。

 ……さっき宗一郎と電話で話したらそれはやつの伯父らしいな。

 お前さんの義母の兄だ。写真の裏の名前と乗っていた戦闘機が一致した」




「……なにが言いたいの?」




 万代はグラスを持って立ち上がる。

 その顔はいつにもまして不機嫌だった。




「万代。

 ……お前の兄の宗一郎がなぜ今の今まで結婚してないか、知ってるか?」




「知らないわよ」




「やつはすでに知ってたぞ。お前が実は妾の子じゃなくて本妻の娘、ってな。

 俺もその写真を見て納得した。

 否定したいだろうが、お前の顔はこの写真の人物たちにそっくりだ」




「……」




「宗一郎はお前が幸せになるまで自分は結婚しないつもりでいたんだ。

 ……ま、だから今回の偽物相手の恋愛話はイレギュラーだろう。恋は思案の外、って言うからな」




 万代は天井を睨んでいた。

 嘘の家族から逃げ出して来た自分が、この事件でまた嘘の家族を見てしまった。

 なのに……変わらぬ情で自分のことを思ってくれる腹違いの兄……。




「……寝る」




 そしてそのまま廊下を出た。




「おい、万代。

 ……お前、今、下を向けないだろ。……ときにはマヨネーズだって泣いてもいいんだぜ」




 万代はバシンとドアを勢いよく閉めた。正確に言えば蹴飛ばしたのである。




「オヤジ! 変態! 死ね! ばかやろう!」




固茹卵(ハードボイルド)な少女を目指すには、まだまだ足りないものが多そうだ。

廊下からは万代のののしり声が盛大に聞こえてきたのであった。      


 

―― 了 ――




 

今話でこの物語は最終話となります。

お読みくださった方々、どうもありがとうございました。


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「生忌物倶楽部」連載中 ← NEW


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み

「墓場でdabada」完結済み 

「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み

「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み

「空から来たりて杖を振る」完結済み

「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み

「こころのこりエンドレス」完結済み

「沈黙のシスターとその戒律」完結済み


 も、よろしくお願いいたします。


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