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13話:私はこうして地下へ閉じ込められた。

【毎日昼の12時と夕方の18時の2回更新します】






 万代は格納庫に来ていた。前領主曰く「ニコバレン空軍」の基地である。

 

 

 

 思いスライドドアを開けると外の熱気は嘘のように感じられる。

 万代は中へ向かって歩き出す。ここには誰の姿もなく万代の靴音だけが響いていた。

 並べられた戦闘機たちを見上げる。物言わぬ鉄の固まりである。

 

 

 

「……ない」




 万代は歩きながら一機一機の翼の下をざっと見回した。

 

 

 

「オスカーって、ひょっとして……グラマンが演じたパイロットの名前だったかも」




 万代は中央に置かれているグラマン戦闘機に向かった。 

 そして翼の下を調べる。そこには当時の映画ポスターを入れたパネルが置かれてある。

 だが美女の肩を抱きながらご満悦そうな若き日のグラマン氏の役名は残念ながら違っていた。

 

 

 

「オスカーじゃなくてピーター中尉……紛らわしい」




 万代は試しにコックピットまでよじ登ったが、やはり麻奈美につながる手がかりらしきものはなかった。

 

 

 

「虱潰ししかない……か」




 万代はため息を吐いた。そして首を振り自ら気合いを入れる。

 

 

 

「……オスカーってなんなんだろう?」




 米軍機を片っ端に調べ終えると今度は日本機のところで立ち止まる。

 そしてプレートを確認する。ジーク、ジャック、ジョージ……。

 

 

 

「出直すか……」




 失意を感じつつ格納庫を後にした。

 相当時間をかけたがまったくの徒労であった。

 

 

 

 万代が外に出ると陽光を浴びて白く輝くグラマン館が見えた。

 崖を登った強い風が万代の肩まで伸びた髪を靡かせる。

 

 

 

「挑戦的ね。そういうの嫌いじゃないけど」




 ……嫌いじゃないけど、今は余裕がないのよね。

 万代は歩きながらスマホを取り出した。

 不在がちな相手なのでどうかと心配したが思いの外すぐに繋がった。

 

 

 

「……私」




 相手は相棒の青咲(あおざき)比呂(ひろ)であった。

 

 

 

『おう、どうした? もうそこの仕事は終わっ――』




「――頼みたいことが二つある。頼める?」




 万代は言葉を遮った。青咲は少しの間、沈黙する。




『わかった……なにを頼みたい』




 万代が仕事のことで自分を頼るのはよっぽどのことである。

 しかもそういうときは必ず至急の件だ。……青咲はそれを理解した。




「前名麻奈美という女性を調べて欲しい。年齢は二十歳過ぎ、身長は一六○くらい。そして当然日本人」




『マエナマナミ? どういう字だ?』




「……教えても意味ないわ。偽名だもの」




『……おいおい』




 万代はスマホ電話を操作する。写真を送ったのである。




『美人薄命だな。なんともやりきれないな。……もう警察は介入しているのにそれを調査しろ……か』




 送ったのは遺体袋に入った麻奈美の写真である。

 青咲は当然それを見てすでに警察が着手しているのを見抜いていた。




「彼女、海から遥か高い崖の上で溺死してたのよ。いいや、たぶん溺死させられたのだと思う……」




『どんなトリックを使ったんだ? 高波にでもさらわせたのか?』




「まだ正直わからない……」




『……まあ、いい。他に女のヒントは?』




「職業かどうかわからないけどスキューバ・ダイビングをやっている。あと手がかりは……」




『逮捕歴とかあると楽なんだがな……』




 青咲は警察関係に顔が利く。




「……そうね。逮捕じゃないけど昨日の朝リトルヨコハマの署に私と呼ばれているわ。死体発見者として……ね」




 皮肉なものね……。




 溺死体発見の二日後に今度は自分も溺死体になるとはさすがに麻奈美も思ってなかったに違いない。

 万代はその後この屋敷の人々や状況を簡単に説明する。




『……それだけわかれば十分だ。で、あともうひとつの頼み、ってなんだ?』




「もうひとつは……いいわ。今わかったから」




 万代は一方的に電話を切った。




 そしてその視線は駐車場へと注がれている。

 昨日漁村へ向かったときに運転した四輪駆動車がなかったのである。




 □




「ひょっとしてって思ったのだけど、麻奈美さんと私の会話を聞いていたのね?」




 ドイツ製クーペを無断借用した万代がドアを開けて降り立った。

 背の高い草むらの向こうの原っぱである。

 そこには四駆が停車してあり、その先に中西が立っていた。




「ええ、そうです。……やはり万代さんなら来ると思っていました」




 昨夜、談話室を去るとき廊下に隠れていた人物は思った通り中西だった。




「これが……オスカーだったのね?」




 万代は中西の脇にある赤茶色の錆びた残骸を見る。

 昨日麻奈美と再会した場所であった。




「はい。米軍がオスカーと呼んでいた機体です。

 陸軍一式戦闘機『(はやぶさ)』というのが正式な名称です。

 海軍のゼロ戦にとてもよく似ていますが、ゼロ戦が機首に七・七ミリ機関銃、両翼に二十ミリ機関銃を搭載しているのと違って隼は機首にしか武器を積んでいません」




 中西は片方だけ残っている翼を指さす。




「で、このオスカーからなにか見つかったの?」




 中西は頷いた。

 そして手にしていた物を万代に差し出した。

 角がすっかり風化し表面がひび割れたそれは長い年月が経過した皮製の写真入れだった。

 まだ若い軍服姿の青年を中心に親や幼い弟妹などの家族と思われる人々が写っている。




「当時のパイロットのものね」




 ケースから抜いた茶色に劣化した写真の裏には「京極院(きょうごくいん)(まさる)」と書かれていた。




 ……キョウゴクイン……マサル。




 見覚えのある名前だった。

 万代はこの隼のパイロットと思われる写真の真ん中に立つ青年と、その周りにいる幼い弟妹たちの顔立ちを無言で見つめる。




 写真の青年と弟妹たちは、万代と険悪な仲の養母である澁瀧澤(しぶたきざわ)(ぬい)にとてもよく似ていた。

 キツイ眼差し。キッと結んだ唇。甘えることのない表情……。

 そしてその顔はあまりにも()()()()似ていた。




 ああ、そういうこと……。

 考えてみればわかりそうなものだった。

 いつも不機嫌な態度。キツイ表情。譲ることを知らない口調……。




 そういう共通点は挙げてみればいくつも思い浮かぶ。

 ……万代はあんなにも嫌っていた養母の縫が、本当は実母だった事実に気がついたのである。




 縫は高齢出産で万代を産んだ。

 だが女児だったことから養子に出され、夫が愛人に産ませた男児の宗一郎を実の息子として育てたのだろう。



 跡を継がせるなら男の子。

 名家ではよくある話ね……。思わず自嘲のため息が漏れた。




 ……真実って知ってしまうとなんてあっけないんだろう。

 万代は膝を折りこの地で散った先祖の搭乗機に手を合わせた。




「……私はどうも違うものを見つけたようですね。これは麻奈美さんとは関係ないようです」




 中西がぽつりと呟いた。

 万代はその言葉に頷く。そして写真を中西に返した。




「この写真、どこにあったの?」




「椅子の裏側です。隠しポケットがあり、そこに大事に隠してあったようです。だから雨にあたらなかったんですね。

 ……それにこれだけの弾痕があるのに機体が炎上した形跡もありません。

 おそらく燃料が少なかったのでしょう。だから写真は無事だったということですね」




「……麻奈美さんは、オスカーの翼の下と言い残したわ」




「翼……だったのですか? そこまでは聞き取れませんでした」




 万代は両膝をつき地面に突き刺さっている翼の下に手を伸ばした。




「私の気のせいかもしれませんが、この写真に写っている幼い女の子はとても万代さんに似ていますね」




「……気のせいよ」




 ぶっきらぼうに万代は答える。

 そして肩まで翼の下に入れた指先に手応えがあった。万代はそれを引きずり出す。




「ありましたか?」




「ええ」




 それは防水バッグだった。

 万代はバッグを開けた。中には海外で暮らす万代には見慣れた一冊の手帳が入っていた。




「……パスポート。

 確かに偽名を名乗る人物がこれを持ち歩ける訳ないわね」




 万代は手にしたそれのいちばん最初のページを開いた。




 そこには麻奈美の顔写真と……あり得ない名前があった。

 万代はその文字に釘付けになる。我が目を疑い、吸う息を忘れて下唇を噛み締める。




 ……ググッ。




 くぐもった声が漏れ、自分の迂闊さを呪う舌打ちと後悔と怒りが一遍にやってきた。




「……万代さん、これはどういうことなのでしょうか?」




 パスポートを覗き込んだ中西が掠れた声で尋ねた。




「……そういうことなのでしょうね」




 パスポートに書かれていたのは麻奈美の本名――『迫水(さこみず)(けい)』であった。




 それは送られた腕時計に込めたメッセージ以上の破壊力があった。

 麻奈美の正体が『迫水彗』であるということは、万代に仕事を依頼した迫水慧は当然誰かが成りすましていることを意味している。




 万代は奥歯を噛み締める。ギギギと破滅の音がした。




 ……青咲が言った折り紙の「だまし舟」の例え『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』を今更ながら理解したのである。




「と、とにかく屋敷に戻りましょう。そして警察にこのことを伝えましょう」




 中西は四輪駆動車の運転席に乗り込んだ。




「中西先生、待って! まだすべてが明らかになった訳じゃないわ。

 それにここの警察は迫水家には服従みたいだから、よっぽどの証拠がない限り動かないのよ……。

 だから私にまかせて」




「……しかし万代さんだけに危ない橋を渡らせる訳にはいきません」




「中西先生は迫水家のプライベートには干渉しない方針だったわよね?」




「それは疑惑が疑惑に過ぎないときの話です。疑惑が立証された今は話が別です」




 万代はしばし考え顔になる。




「……先生は当然検問所は顔パスよね?」




 中西は万代の言葉に頷いた。




「だったらこのまま検問を抜けて首都に向かって誰かにこのことを伝えてもらえない? 

 有力者に友人がいればなお良しなんだけど……」




「この国の有力者ではありませんが、日本大使館の高官は私の大学の後輩です。信用できる男です」




 万代は大きく頷いた。そしてバッグを中西に押しつける。

 麻奈美……いや本物の迫水慧のパスポートはなによりの動かぬ証拠である。




「わかったわ。先生はそのやり方でお願い」




「万代さんはどうするんですか?」




「助けなきゃならないやつがいるのよ!」




 万代はクーペに飛び乗った。

 そして地面を抉るかのような勢いでスタートさせる。

 ミラーを見ると中西はその年齢からは想像できないほどの運転テクニックで四駆を操り土埃を盛大に巻き上げて走り去るのが見えた。




 ……間に合って! 




 万代はアクセルを更に踏み込んでいた。恵を狙う真犯人はおそらく偽者の慧。




 まんまとその偽者の慧に利用されたことも、それに気づかなかった自分の未熟さも、未然に防げたかもしれない麻奈美の死も、そして守るべき者も守れなくなるかもしれない可能性も……。




 そういうあらゆる不満と悔しさが万代の感情に火を入れた。

 目はつり上がり吐く息は熱を帯び始める。


 ニコバレンの裏街で暴力的だと恐れられている鬼のような万代――マヨネーズが覚醒した。




 ■ ■





 駐車場でクーペを乗り捨てた万代は全力で坂を降り橋を疾駆した。

 玄関の扉を力任せに開けると村田姉妹が驚いた顔で立っていた。




「万代ちゃん、大変なの! 恵ちゃんが! 恵ちゃんが!」




「……恵がどうしたの?」




 ひっ……。




 片手でドアにもたれかかり肩で大きく息をする万代を見て村田姉妹が一歩引いた。

 万代の姿に鬼を見たからである。

 ……リトルヨコハマ裏社会ではちょっとは知られたマヨネーズの姿であった。




「……す、姿が見えないのよ! みんなで探しているんだけど……」




「お前か!」




 万代を見て長男の慶と次男の景、執事の山下の三人が駆け降りてきた。




「慧はどこ? 恵はたぶん慧といる」




 三人の男たちは万代の姿を見た瞬間に恐怖で足が一斉に止まった。

 よろけた兄弟たちを山下が尻餅をついて止める。




「……いない。二人とも四階にはいないんだ」




「旦那様の部屋にも……」




 万代は風のように村田姉妹の脇をすり抜け二階へ向かった。




「恵! 恵!」




 談話室、食堂、厨房……。ひと通り見たが恵の姿はない。

 床を蹴った万代は更に下の階へとダッシュする。

 そして到着した一階。そこはそのすべてが倉庫であった。




 薄暗いのその階には大きな木箱と段ボールが並べられカビ臭い匂いが漂っている。

 背の高さほどに積まれた箱たちがいくつも並ぶことから万代はその裏側まで丹念に調べた。

 だが恵の姿は見当たらなかった。




「……ここもはずれ……か」




 だとすると……。




 万代が思いを巡らそうとしたときだった。

 床の端に半開きになっている分厚い鋼鉄製の扉が見えたのである。




 万代はその扉に手をかけた。

 扉は防水区画用のドアでロックのためのハンドルがついているものだ。




「まさか、この下……地下室?」




 のぞき込むと暗闇の中、真下に伸びる梯子があり、その下に横倒しになって車輪が空回りしている車椅子が見えたのである。




「恵……!」




 万代は躊躇いもせずに飛び降りた。

 万代は車椅子の周囲を窺うが辺りは薄暗く視界が効かなかった。




「磯の臭い……」




 辺りから海独特の臭いが漂っていた。

 万代は歩き出す。最初は手探りだったが次第に目が慣れてきた。




 するとこの地下室がかなり広いことに気がついた。

 円柱形のグラマン館はその直径が三十メートル以上あるが、この部屋はそれよりももっと広かった。




「サッカーができそう……ね」




 ようやく端までたどり着いて壁に手をついた。

 すると壁は床と同じ鋼鉄製であることがわかった。試しに叩いてみるとまったく反響がない。




「戦艦の装甲みたい……」




 今やすっかり視界が効いた。

 するとこの部屋構造がすっかりわかった。

 この地下室は仕切りもなにもないだだっ広いドーム状をしているのである。




 明かりはふたつだけ。

 それらはすべて外からの光で万代が飛び降りた扉とドーム中央の天井から真下の床に落ちる外光だけである。




「……と言うことは長居は無用ね」




 ここに恵がいないことが明らかになったからである。




 万代は降りてきた扉に向かおうとした。防水扉から差し込む光に車椅子が反射しているのが見えた。




 だが……その反射が徐々に弱くなり次第に見えなくなったのである。

 最後に聞こえたのはバタンという扉が閉じられる音だった。




 ……不覚! 




 万代は全力で疾駆した。

 そして車椅子の元にたどり着いて頭上を見上げると、梯子が引き上げられて、すっかり閉ざされた扉が見えたのであった。




 それは何者かが確かな意図を持って万代を閉じこめた証であった。

 万代はこの鋼鉄の上にいて絶対にほくそ笑んでいるはずの見えない誰かを……睨みつけた。




 □



 

 私……バカかも。

 万代は先ほどまでの怒りが消えていた。

 そして気分が落ち着いてくると逆に自分の馬鹿さ加減が嫌になっていたのである。




 もっと早く気がついていれば救える命があったはずである。

 麻奈美、そしてこれからそうなるかもしれない……恵。




「そっか……ここの形は逆さまにした漏斗(じょうご)そっくりなんだ」




 万代は今、真っ暗な地下室の中央で車椅子に座り頬杖を付いていた。

 頭上遥か上に丸い光が見える。




 万代はそこから降り注ぐ光に包まれている。

 そこは巨大なマンホールの底にいると思えばわかりやすい。

 だがこのマンホールは底の部分が巨大なドーム状になっているので、漏斗という表現の方がぴったりであった。




「と言うことは……このマンホールの頂上が五階、いや屋上……か」




 おそらくこのマンホールはグラマン館の中央にそびえ立ち各階の真ん中を貫く円柱形の太い柱に違いないと万代は考えていた。

 直径三メートル以上もある太い柱は中が空洞になっていたのだ。その柱の素材もこの床と同じ鋼鉄製だったのでその思いは強い。




「でも……なんでこんな形なんだろ?」




 万代がそう呟いたときであった。

 ふと気がつくと万代を中心とした半径二十メートルほど外の床が円形状に一斉に明滅し始めたのである。




「……この光!」




 万代はしばらくそれをながめていたが、それが屋敷で見た床材の繋ぎ目に隠されたセンサーのランプと同じであることに気がついたのである。




 ランプが明滅するということは……十分後に揺れが来ることを意味している。




 それに対してなにか嫌な予感がした万代は座っていた車椅子から立ち上がろうとする。

……そしてその動作であることに気がついた。




「……そっか、あの子、立ち上がろうとしてたんだ……だとすると……そうか、そういう意味なのね」




 昨日の深夜。三階の廊下の窓際で立てないはずの恵がどうして万代の腰にしがみついたのか? 

 万代はそのとき見た窓の外の満天の星空と強い風と逆巻く波音を改めて思い出す。




 ……え?




 ふと気がつくと床が動き出したことに気がついた。




「……なにこれ? 開いていく?」




 万代は後ずさった。

 万代がいる地下室の中心の床に光が見えた。……が、次の瞬間奔流が吹き出したのである。




「海水!」




 万代は地下室の中心から避難した。

 だが床は徐々に穴の直径を広げて海の水が間断なくあふれ出す。

 床の穴はカメラレンズの絞りのように多数の羽が合わさった構造だった。



 

 水位はどんどん上がり今は万代の腰近くまで到達している。

 車椅子が斜めに傾くとその姿を消した。海底へと通じる広がり続ける穴の中に落ちたのである。




 万代は頭上を見上げた。

 だが……逃げ場はどこにもない。唯一開いていると思われる外界はグラマン館頂上へ続く直上の直径三メートルの丸い穴だけである。




 そんな中突然、万代は頭蓋に電撃を受けたような衝撃を感じた。

 そして……叫んだ。




「そうか! ……逆さまの漏斗……十分後の揺れ……空からのサカナ……空からの死体……腕時計……潜水艦……飛行機……崖の上の溺死……だとすると犯人は単独犯ではなく組織的なもの……そういう意味……ね」




 胸元まで迫った海水の中で万代は笑っていた。

 今すべての屋敷の謎が解明されたことに対する笑みだった。




 だが同時に脳天を突き破らんばかりの怒りも感じている。

 その形相は笑いながら憤怒する般若であった。




「マヨネーズは簡単には死なない……からね」




 万代はすでに十メートル以上広がった海底への入り口を見下ろしていた。

 そして自ら頭から海水に飛び込み、海の底へと姿を消したのだった。




 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「生忌物倶楽部」連載予定


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み

「墓場でdabada」完結済み 

「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み

「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み

「空から来たりて杖を振る」完結済み

「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み

「こころのこりエンドレス」完結済み

「沈黙のシスターとその戒律」完結済み


 も、よろしくお願いいたします。


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