進軍
さすがに歴戦の将軍は、顔色ひとつ変えなかった。それどころか、喜色さえ浮かべている。
マルコ・ヴィットは独裁者の薄れかかった髪をむんずと掴むと、部屋の外に出てその生首を高々と掲げた。
「アリアが約束を果たした! 今度は我々が動く番だ!」
うおおおぉぉぉおおおお——!
戦闘服に身を固めた兵士たちの間に、津波のような響めきが拡がった。
信じられない光景だった。どのレジスタンスも夢にまで見た光景だった。
あの、独裁者の首を!
我らのマルコ・ヴィット将軍が持っている!
「全拠点に連絡! 出撃だ! 3日で首都を制圧するぞ!」
独裁者の首を持ったマルコ・ヴィット将軍の映像は、通信士によってレジスタンスの全拠点へと配信された。
キシリアとザイダバードにも配信された。
この星唯一の大陸の北部に、巨大なうねりが起こった。
『草』を通じて、首都アルデラの中にまでこの映像は侵入していった。個々の市民端末を使って、それは徐々に拡がってゆく。
通信管制のしっかりしている状況だったら、到底考えられない現象だった。明らかに政権軍は機能していない。
レジスタンスの基地の出撃口のシャッターが内側から順に開いてゆき、岩肌を偽装した扉が開くと、そこから、戦車、装甲車、トラックなどに続いて巨大な陸上空母がまだ暗い荒野に出てきた。
部屋に戻ったマルコ・ヴィットは首をジラリウム合金のケースに戻すと、部屋の隅にうずくまったままの少年兵に声をかけた。
「ヤーマ、いつまで吐いてるんだ? 行くぞ!」
それから、介抱していたアリアの方にも声をかけた。
「あんたも来てくれるか?」
「もちろん行くけど、3日では遅い。」
「なん・・・だと?」
少女は笑っていない。目が真剣だ。
「今日中に、ヤツらが混乱しているうちに首都を制圧しないと——。敵に体勢の立て直しの時間を与えたら、その抵抗を制圧するだけで連邦軍と『交渉』する時間がなくなる。
ラカンが確実に民主的政権のもとに安定する、と信じさせなければ、連邦評議会を説得できなくなる。」
「それは、そうかもしれないが・・・。しかし、物理的に不可能だ。ここから首都まで、どんなに急いでも行くだけで2日はかかる。一部の拠点は1日あれば到着はできるだろうが、部隊を小出しに進攻させたのでは・・・」
「わたしがテレポートする。全部隊を——。」
少女は当たり前のような顔をして言った。
「なん・・・だって・・・? そんな・・・ことが、できるのか? ・・・あんた、いったい・・・・」
少女は人差し指を、マルコ・ヴィットの顔の前に立てて見せた。
「でも、これはさすがに内緒にして。複数のエスパーとESP増幅装置を使った——ってことに・・・。1人のエスパーがこんなことをやったって知られたら、兵士が動揺してかえって戦闘力が落ちてしまう。」
「し、しかし・・・、ウチにはそんな強力な増幅装置は・・・」
少女が手品師みたいに手のひらを上に向けて部屋の一角を指すと、そこに最新型のESP増幅装置が現れた。
「あとで返してね。軍の備品だから——。情報部から貸与を受けてたってことで、記録の改竄くらいはやっておくから。」
(サラ、よろしく!)
(ちょ・・・長官ったら・・・!)