二枚の切符
「せーの」の合図で、券売機のタッチパネルを押した。
港から地上の電車に乗って、日比谷駅から千代田線に乗る。駅名が違うのに「同駅内徒歩」の概念は難しかった。
私たちの住む離島には電車がないから、切符を買うのも初めてだった。でも、初日にマスターするなんて、私たちって最強じゃない?
地下鉄は本当に外の景色が全く見えなくて、宿まであとどれくらいでつくのか、今どこにいるのかが全く分からない。座席から窓の外を振り返っても真っ暗だ。
「今、シブヤとかスカイツリーの下にいるのかな?だとしたら、私たちすごくない?」
受験前日だというのに、アヤカと二人旅に胸が躍っている。アヤカと一緒なら、「見えないから怖い」じゃなくて「見えないからワクワクする」になるんだ。
「そんなところ通ってないよ。基本的に地下鉄が通ってるのは車道の下だし、全然方面が違うもん」
でも、アヤカは正しい答えを知っている。東京のことにも今の流行りにも詳しい。きっと明日の入試に受かって大学生になったら、東京で可愛い服をたくさん買って素敵に着こなすんだと思う。
プリーツスカートに目を移す。おそろいの制服を着ていられるのもあとちょっとだけなのが寂しい。もしも願いが叶うなら、この先もアヤカとずっと一緒がいい。
「でもさ、この電車を反対方面にずっとたどると表参道とか原宿に行けるんだよ。だから、半分正解」
少しテンションが下がった私を、アヤカが優しくフォローしてくれた。
「四月になったら、東京中どこにだって電車で一緒に遊びに行けるんだよ」
「切符の買い方はもう完璧だから、安心だね」
「東京の人はみんなICカードの定期を使うんだよ」
また的外れな発言をしてしまったことに気づく。私は本当に東京のことを何も知らない。
「だからさ、明日試験が終わったら買おうよ。おそろいのパスケース」
ああ、やっぱりアヤカは私の唯一無二の親友だ。アヤカがどんなに東京で垢抜けて綺麗になったって、彼女は私を置いて行ったりしない。ずっと隣で「最強の私たち」でいさせてくれるんだ。
「どこに買いに行きたい?」
アヤカと一緒ならどこでもいい。東京の駅は巨大迷路だと言うけれど、新宿ダンジョンだって渋谷ダンジョンだって、二人なら攻略できる。
「次は、根津」
車内放送が流れてくる。もうすぐ宿の最寄り駅だ。それと同時にアヤカが思い出したように言った。
「あっ、今もしかして上野公園の地下通ってるかも」
「上野公園なら知ってる!」
「毎年お花見シーズンの中継凄いよね」
「あのさ、アヤカ。受かったら一緒にお花見行こうよ。上野公園に」
「受かるよ。だって、あたしたちは最強だもん」
アヤカが桜模様のシャープペンシルを私に見せる。私もアヤカとおそろいのシャープペンシルを小さく掲げてエールを送りあった。
未来への切符は、私たちの手の中。