全員、腐ってやがるっ!
「センパイセンパイ、木陰のベンチ空いてますよー!」
「暑いのに走らんでも……」
夏服のグレーのフレアスカートをひらめかせながら笑顔で駆けていく美優。うん、かわいい。
先月から付き合いはじめた高校三年の俺とひとつ学年が下の後輩『矢嶋美優』は、ほぼ毎日、高校の帰り道にある公園でおしゃべりをしてからそれぞれの家に帰宅する。
「はぁー、あついあつい」
「走るからだろうよ」
ブラウスの襟元をつまみあげバサバサと風を送るようにしている。残念、見えそうで見えない。
「センパイのえっち」
「ああ、そのとおり」
「普通、否定しません? でも良かった、ちゃんと女の子に興味あるってことだもんね」
「……ん? どういう意味……」
「いやー、告白して良かったぁー。みんな『センパイはホモだからやめなよ』って止めるからー」
「は? ホモ?」
「あ……秘密の話だった」
「……全部話せ」
「ア、ハイ」
なんでも俺は一年の頃から、いや入学してちょっとした頃から学校中の女子からホモ認定されていたらしい。学年が変わっても委員会や部活動の先輩から代々受け継がれてきたとのこと。
原因はふたりのイケメン。
ひとりは俺の幼馴染み。松田潤。男の俺から見てもほれぼれするような色白王子様顔。
背も高く、地毛なのにきれいな茶髪しかもツヤツヤ。入学してすぐに先輩から同級生の女子のほとんどに狙われていた。
問題はこいつ……超がつくほど人見知り。
クラスの男子と話せるまで数日かかった。女子などもってのほか。話しかけられそうになると、幼馴染みの俺の後ろに隠れる。松田の方が10センチはでかいのだから隠れ切れるわけない。
毎日、登下校を一緒にしていたのが、更に女子達から嫉妬を買うはめになっていた。
イケメンと仲良くなりたいのに『俺』という邪魔者が常に側にいる。女子達、面白くない。
ついには、ホモカップルだと噂をするようになる。あれだ、届かないブドウは酸っぱいブドウってやつ。
もうひとりは井上光一。小動物系イケメン。高校で友達になったのだが、妙に懐かれた。少しどもりがあるのだが、もともと聞き手な俺は言葉が出るまで、いつまでも待ってるのが嬉しかったらしい。
高校二年になりクラスが松田とは別になり、井上と同じクラスになった。
こいつ、かわいい系の顔に似合わず女をとっかえひっかえするやつだった。ひどい時は毎月彼女が変わっていた。
モテるので飽きるとすぐ別れてしまう、結構クズいタイプでいつか捨てた女に刺されるだろうと思っていた。
実は刺されていたのは俺の方だったらしい。
捨てられたり、ふられた女達は『井上の本命は俺で、女は遊び』と言ってまわっていた。女の嫉妬、怖い。
しかし、なぜ俺が嫉妬を一身に受けねばならないのか……。
「……そういわけで、センパイはふたりのイケメンをとっかえひっかえって話も~」
「はぁぁ、まじかよ」
「で、あたしらのクラスでも『センパイと松田先輩』派と『センパイと井上先輩』派に割れてます」
「……腐ってんね。なんか、もう疲れた」
「あたしは三人なかよ……いだだだだ、ギブギブ」
美優をアイアンクローから解放してやる。
「そんな中、よく好きになったなぁ?」
「センパイ、生徒会でのミスをフォローしてくれたり、帰りが遅くなると家まで送ってくれたじゃないですか」
「普通するだろ。最近、物騒だし。かわいい後輩なんだし」
「普通の男子はそこまでしてくれません! あとナチュラルに『かわいい』とかもいいません! あーもー!」
ゆでダコのように真っ赤になってぷりぷりする美優、かわゆい。
「あ。センパイ。文化祭で文芸部が『二人の王子様と男悪魔』って本を販売するって言ってましたよ?」
「うちの女子どもは、全員腐ってやがるっ!」