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08 生き残り同士、仲良くしようぜ


 昼食を終え、大通りに行くとそこにはオーク族と獣人族が交流している様子が。


「あんたらも、キリエ様に直してもらっただな?」

「キリエ様じゃなくて、キリエちゃんだよ!」

「ああ、き、キリエちゃん……?」


 頼んでもいないのに、村人はオーク族にあたしの呼び方を訂正させる。じーっとその様子を見ていると、こちらに気づいたオーク族が駆け寄ってきた。


「キリエちゃん! 獣人族って意外と良いヤツですな! 何故ご先祖様はこの者たちと争いをしていたのでしょうか……?」

「それは分からないけど、別に知らないなら初めましてってことにして、仲良くすればいいのよ」


「たしかに……そうですな!」


 がははと空に向かって笑うオーク族の男。……やばい、皆同じ服に同じ顔だから、見分けがつかん……。


「あなたの名前は? 特技とかあるの?」

「わたくしはザエルと申します。特技は、怪力で岩を割ることですかね……」


 お、さっそく石工いしく担当候補見っけ! この人が居れば、石畳や石家具を作れる!


「あなた、この村で石工をやってみたいとか、思わない?」

「えっ、わたくしがですか!? いいんでしょうか!?」


「ええ、この村に住み込みで働いてほしいの。その、お仲間が居るなら、誘ってもらっても構わないわ」

「ありがとうございます! 早速友人を誘ってみます!」


 オーク族は仕事大好きなのかな。……この調子でオーク族をどんどん派遣していこう!


 ◇◇◇


 というわけで、オーク族30人。すべて仕事を見繕みつくろいました。


 まず石工5人! この人たちには石の建材や道路工事を担ってもらうよ!


 次に土木5人! 森の木を伐採したり、加工して建材にしたりするよ! 


 そして漁師5人! あたしが作る桟橋と船を使ってお魚を採るよ!


 大事な建築士10人! 新しい家をジャンジャン作るよ!


 畑仕事のお手伝いに5人! 獣人族の畑を手伝うよ!


 ……こんなところかな。まさか人を采配する側になるとは思わなかったな……。


「それじゃあ、みんなよろしくね!」

『はいっ! キリエちゃん!!』


 そしてあたしは、長年人が住んでいなかった民家にオーク族をずっと住まわせる訳にはいかないと思って、プレハブ住宅を作ることにした。


 プレハブ住宅って言えば、豆腐建築でも許されるよね。……なんて、手を抜くわけじゃないけど、最低限の設備を備えた、寒さもしのげる家を早く用意してあげたいのだ。


 江戸時代風の家も、風情があっていいけど、いつ崩れるか分からない。柱は虫に食われまくってるし、瓦は強風が吹けばすぐ吹き飛んでしまいそうだ。


 彼らの先祖が遺した建築技術、それを生かした現代日本のような住宅づくりがいつか出来るといいな。


「キリエちゃん! 木材集めて来たよ!」

「ありがとう、オウフさん! そこに置いておいて!」


 ソフモヒのような髪型のオーク。オウフさんはニコッとして木材を地面にそっと置く。本当に、この人たちは仕事が早くて、そして礼儀正しい。


 どこかの社長にでもなった気分。


「キリエちゃ~ん!」


 聞きなれた声。リク君だ。手を振りながらこちらに駆け寄ってくる。


「はいっ、差し入れ!」

「わあ! ありがとう、リク君!」


 えへへ~と、照れ笑いするリク君。とてもかわいい。どうぶつの林でお気に入りだった子にとても似ている。……気がする。


 ◇◇◇


 あたしは夕飯までひたすらにプレハブ住宅作りに没頭していた。辺りが真っ暗になり、手書きの設計図が見えづらくなってきた頃。


「キリエちゃん、まだやってたの? なかなか帰ってこないから心配したよ!」

「リク君、ごめんね、早くオーク族の人たちを綺麗で暖かいお家に入れてあげたくて」


 そう言うあたしを見て、ニコっとするリク君。そして、あたしの手をとり、そっと引っ張る。


 立ち上がり、背中を向けているリク君の方を見ると、彼は横を向いて話す。


「今日はオーク族のみなさんと一緒にご飯を食べるんだ! だから、早く行こう?」

「そうだったの? じゃあ、行こうかな」


 手を引かれるまま、村の大通りまで二人で歩いた。


 そこには、獣人とオークが仲良く囲んで野菜を煮込んだスープを分け合って食べている姿が。


 その光景を見て固まっている私と、その様子を見ているリク君は、ハナさんに腕を引かれ、輪の中に入れられる。


 そして、一緒に夜ごはんを食べた後、みんなで自己紹介や、街のこと、村のこと、お互いに知らない情報を共有し合った。


「ごめん、あたし、先に帰るね……」


 言いづらい空気の中、皆の楽しい会話を切って、退出することを伝える。そろそろ、向こうの時間は22時ごろだろう。早くしないと太一が寝てしまう。


「うん、キリエちゃん、今日はありがとうね!」

「キリエちゃん! 明日もよろしくお願いします!」


 お辞儀をして、村と海の間に建てた仮研究室兼マイホームに向かう。


 家に入り、着物を脱ぎ捨て、ベッドに投げる。隣に置いたドレッサーの下にあるマシュマロのような椅子に座り、鏡の前に水晶玉を置く。


「おい太一、まだ起きてるか?」


 ……。


 もう、寝てしまったのだろうか……。


 と思ったが、少し遅れて声が聞こえて来た。あたしは水晶玉を覗き込む。


「なにさ」

「あ、いや、特に用事はないけど話を聞いておきたくてさ」


「うふ、もしかして寂しいの?」

「違うわ! 一応、獣人の友達も出来たんだよ……って、そうじゃなくて!」


「近況報告でしょ、分かってるさ」

「……」


 彼女、彼? 太一は、辞職するために届を出したが、すでに入れ替わってから何個か功績を残してしまったせいで、社長のお気に入りになってしまっていた。


 ……いや、中身変わっただけで周りの目も変わりすぎじゃね? 俺ってそんなにポンコツだった?


 なんと、太一が新しく設計したエンジンが新型車両に採用されることになったのだ。これには、キリエになった俺も嬉しく思う。


 社長がかつてはゴミのように扱っていた俺を贔屓ひいきして、役職も上げてくれるという。辞めるに辞められない状況を作って、長く会社に居てもらうためだろう。


「さすがだな、キリエ」

「今はもうキリエじゃないわ。ボクは太一。小峰太一さ」


「そうだったな。太一……これからも話を聞かせてくれ。じゃあ、今日はそろそろ時間だし」

「そうね、おやすみ、キリエ……」


 そう言って、眠りにつく自分たいちを見つめる。水晶玉から視線を外し、目の前の鏡を見る。


「おれは、あたしは、キリエ・ボルドーレッド……」


 あいつは、なりきりではなく、本当に小峰太一として人生を送っている。


 あたしも、吸血鬼キリエとして生きて、彼のことは異世界のお友達として接していこう。


 ドアをノックする音。下着姿のまま出るわけにはいかないので、いそいでベッドに捨ててあった着物を羽織り、適当によくわからないふっといまきまきするやつをまきまきする。


 ……着物なんか、全く興味なかったから着方すら分からないよ……。


 急いで着物を着たあたしは「はーい」と返事をすると、リク君が扉を開ける。


「キリエちゃん、今日はこっちで寝るの?」

「うーん、どうしよう……」


 彼は、村では最後の子どもだ。彼以外に、10歳以下の子どもは居ない。はず。


 多分、寂しいのだろう。知らんけど。


「リク君も、こっちで寝る? 暖かいよ!」

「えっ、いいの?」


 あたしがニコっとすると、彼は嬉しそうにして、家に布団を取りに行った。彼の家からそう遠くないし、お母さんも許可してくれるだろう。


 さっきキリエとして生きようとか言っておいてなんだけど、リク君と一緒に寝ると言っても実質、男同士だし、ちょっとした修学旅行みたいなもんだと思えば、他人が家で寝るくらいどうということはない。


 しかも、この研究室の壁には、木材の間にウールが挟んである。四季があるかも分からない、海と山に挟まれたこの地は、夜になると少し冷える。


 ……山の頂上に居た時は寒さを感じなかったのに、今は少しの気温変化にも気づくほど、敏感になっていた。


 どうやら、温度を感じないというよりは、どんな気温にも適応するということか。その代わり、急激な温度変化に弱い。


「おまたせ、本当に良いの?」

「いいよ……んしょっと」


 あたしは部屋の真ん中に置いてあるテーブルをどけて、リク君が持ってきた布団を広げる。


「ホントに暖かい、この家!」

「でしょっ? 今後作る家はみんなこれくらい暖かくなるよ!」


 布団の上に寝転がり、楽しそうなリク君。やばい、かわいすぎる。


「僕の家も新しくして、暖かいお家で勉強したいなぁ」

「必ず、近いうちにリフォームの順番が来るわ。楽しみにしてて!」

「うん!」


 あたしは満面の笑みを浮かべるリク君の横に座る。リク君は不思議そうにこちらを見る。


「キリエちゃん? どうしたの?」


 ……さて、ただ寝るだけではつまらないし、修学旅行の楽しみ、夜の怪談でもしようか。

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