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06 オーク族の街へ


 ドアをノックして、出てきたのはハナさん……ではなく、リク君だった。


「あっ! キリエちゃん! 来てくれたんだね!」


 もうすっかり元気のようだ。安心安心。


 部屋に入り、リク君が寝ていた布団を畳み、小さなちゃぶ台を置いて朝ごはんを食べていたハナさん。


 そう言えば、お父さんはどこだろう。一度も見ていないけど。


 まあ、野暮なことを聞くのはよそう。あたしはリク君の隣に座り、同じ飯を食う。


 ……やっぱり、現代の飯は美味かったな……。


 当然、この世界にある食物は、すべてオリジナルのものだ。品種改良されたものなど、一つもない。


 この世界に来てまだ2日。もう現代のしょっぱいメシが食べたくなってきた。


 例えば、焼き魚とかみそ汁とか……。


「ハナさん、この村では漁業はやっていないんですか?」

「ええ、数年前までやっていたのだけれど、漁に出るたびに嵐が起きたりして人が減っていくの」


 魚を意地でもらせない呪いですか?


「……焼き魚、食べたかったなぁ」

「僕も……大好物だったんだけど……」


 リク君の大好物だったのか……船と桟橋さんばしも制作予定に入れておこう。


「それと、この村以外に、獣人族が住む村とかはありますか?」

「知らないわね~。私たちも、ここに逃げて来た先祖の末裔まつえいだから……」


 そうだよな~。やっぱり自分で探しに行くほうが良いか……。


「で、でも、オーク族なら近くにいるわよ」

「オーク族?」


 オーク族は、この村から南に進むとある森のさらに向こうにある石造りの大きな街に住んでいるという。


「ちょっと調べたんですけど、オーク族と獣人族って仲が悪かったんじゃなかったでしたっけ?」


 ハナさんはちょっと考えるような仕草をしてから、こちらを向く。


「それも、先祖様たちの時代の話よ。今では、お互い生き残るのに必死で、今は停戦状態というか、互いに干渉かんしょうしないようにしているの」


「そうだったんですか……それって、協力すれば今よりいい暮らしが出来るってことでは?」


「でも、この獣人村とオーク族の街を隔てる森には、危険なケモノがいっぱいいるわ。簡単にはいけないわよ……普通の人間ならね?」


 そう言って、ニコッとするハナさん。


「入った者は、二度と帰らないという森。何度かオーク族に会いに行った者が居たけど、その伝説通り、誰一人として帰ってこなかった……だから、人が減るくらいなら、オーク族との交流もあきらめて、獣人だけで生きていこうという話になったわ」


「なるほど、分かりました!」


「あなた、もしかして行くって言うんじゃないでしょうね?」

「あれ? そう言いませんでしたっけ?」


 はぁ、とため息をつくハナさん。村の救世主をみすみす見殺しに出来ないと言って、あたしの手に触れて、止めようとする。


「大丈夫です……いい報告を待っていてくださいっ」


 玄関まで歩き、背中を向けたままそう言って、家を出る。


 良かった。希望が見えた。今なら、オーク族を仲間に入れて力仕事要員を確保することが出来るぞ……!


 ササっと飛んで、一瞬で森に着いた。この先に、オーク族が……。


「入れば、二度と戻れない、か」


 それなら、木をなぎ倒していけばいいんじゃね?


 脳筋思考で、バサバサと木を拳で倒しながら、直線状まっすぐにオーク族の街に向かって進んでいく。


 ◇◇◇


「おっ、着いた!」


 木をなぎ倒して300年……いや、30分。ようやく森の向こうの草原が見えた。草原のさらに向こうには、石造りの立派な街があった。


「こりゃ、高度な文明の予感……!」


 街の入り口らしき、石造りのアーチをくぐると、青っぽい石で出来た立派な街並みが広がる。目の前には数人のオーク族が。


 こちらを見て、目をギョッと見開くオーク族。どうしたのだろう。


「き、貴様はキリエ・ボルドーレッド!!」

「破壊の吸血鬼だあああ! 逃げろおおお!」


 あたしを見るや否や急に逃げ出すオーク族。


 キリエ・ボルドーレッド……キリエの本名か。それに、破壊の吸血鬼って何!?


 一旦、街を出てアイツからこのことについて聞き出そう。


 飛んで村に帰り、臨時お薬屋さんに置いてあった水晶玉を覗き込む。


 すると、映し出されたのは、朝食を摂っていた太一。


「おい、太一」


「んぐっ」


 口に入っていたご飯を詰まらせたのか、胸をトントンと叩いて、コップに入っていたベジタボー生活を一気に飲み干す。


「はぁ、キリエちゃん、どうしたのさ」

「お前、オーク族になにしたんだよ」


「なんだ、あの種族、まだ根に持っているのか……」

「書物を漁っても破壊の吸血鬼というワードは見当たらないんだ」


「だって、ボクの書庫だもん、見せたくない、見たくない書物は置かないでしょ」

「くそっ……もういい」


 こいつ、あくまでも教えない気だな……。どうせロクなことはしていないだろうけど。


 水晶玉から離れて、伸びをする。


「んんん~っ、ふうぁ……」


 こりゃ、信頼を勝ち取る所からだな……。


 まずは、オーク族の悩み事を聞いて、いくつか解決して、危ない人じゃないことをアピールしよう。


 そう決めて、またオーク族の街へ向かう。今度は入り口からじゃなくて、人気ひとけのない場所から、こっそり……。


 そこには、オーク族の男が一人。


「ひぃ! キリエ・ボルドーレッドだああ!」


 またかよ……でも。


「人違いですっ!」

「いやいや、銀髪に赤い目……その耳は間違いなく、破壊の吸血鬼、キリエじゃないか! 何が目的だ!? なんでもするから、俺たちの街を破壊するのはやめてくれえ!!!」


 そう言ってオーク族の男は尻もちをつく。


 必死に命乞いをするオーク族の男。あたしはため息をつき、話し始める。


「あたし、獣人村から来たただの魔法使いですっ!」

「まほう、使い……? 信じられねえ! だってその容姿は、破壊の吸血鬼そのものだ!」

「だから違うってば!」


「じゃあ、それを証明してみろ!」


 フン、その言葉を待っていた!!


 あたしはニヤけ顔で腰に手を当て、尻もちをついているオーク族の男の顔を見る。


「分かったわ。オーク族のお悩みを、解決してあげるっ!」


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