05 研究所を作ろう・魔法講師!
と言っても、屋敷から持ってくるだけだけどねン……。
あたしは、昼間は村人とのモフモフ交流タイムを楽しみ、夜のみんなが寝ている時間に自分の家をコツコツ作っていた。
やっぱり、海が見えるほうがいいよね……でも、村と遠すぎるのもな……。
最初は、立派な研究所を作ろうと思ったのだが、建材を作る施設がないため、石畳なら一枚一枚石を削っていかないといけないし、レンガは焼くための窯をまず作らなくてはならない。
色々と妥協した結果、結局木造の豆腐建築になってしまった。
……いいもん! だって豆腐建築が一番勝手がよくて後から改造しやすいもん!
そんな誰に言うのかもわからぬ言い訳をしつつも、家の外側だけ完成した。
「なんか、村人の民家よりショボくね?」
……気にするな。たった一人で設計図もなしに作るんだから、最初はこんなもんだろ。
そうだよ、これから強くしていけばいいんだ!
◇◇◇
「んしょっと、ふう……」
屋敷にあった家具類を運び終え、それぞれ適切な場所に置いていく。……はあ、家具が一時的に葉っぱになって持ち運びやすくなったりしねーかなぁ……。
この世界は魔法から何から何まで無茶苦茶な世界だ。きっとそういう魔法や技術も存在しているだろう。
だが、書物を読み漁っていても、長く続いて5000年ほどのこの世界では、やはり似たような歴史しか歩んでいない。その先に踏み出せていないのだ。
しかも、その長く続いた歴史には、獣人族、オーク族のほかに、竜族やエルフなどが居たという。今は絶滅したのか、どこかに隠れているのか知らないが、まだ一度も見たことはない。
そんなことを考えながら、家具を運び終えると、手をパッパッと叩き、ホコリを落とす。
「完成! やっぱ家具がしっかりしてると、見栄えが良くなるなあ……!」
結局ピンク一色になった自分の部屋を見る。……やばい、違和感がなくなってきた。このままあたし……俺は、キリエになってしまうのか?
自分の性格や嗜好が変わっていく恐怖をじわじわと感じながら、ふかふかのベッドに横になる。
「っはぁ~! ベッドって最高だなぁ! ……寝れないのがキツイな……」
もう一度でいいから、あの眠る前のウトウトを感じたい。
そう思うキリエであった。……さて、と。
◇◇◇
あたしは真夜中の街に出て、砂浜でガラスを集める。……この村、文明レベルは江戸時代くらいだと思うんだけど、如何せん人口が圧倒的に少ないので、皆は生命や子孫を維持するために、安全な村で作物を育て、命を繋ぐことしかしなかった。
つまり、このまま放置していれば、密集する村人は、感染症でもれなく絶滅していたということだ。使いすぎて質の落ちた水田には、病気だらけの稲。畑には、虫に食われていない不健康な野菜ばかり……。
次に取り掛かるのは、食糧問題だ。
ということで、屋敷から持ってきた肥料の作り方や植物学の本、畑から採取したパサパサの土を用意し、研究を始める。
「えーっと……これを……こうして……」
パサパサの土が入った箱に、あらかじめ作っておいた様々な肥料を混ぜ合わせた小さな粘土のような物をねじこみ、魔法の書、生命活性と書かれたページをめくり、書いてある通りに詠唱する。
「グロウ」
すると、肥料を混ぜ合わせた土は、見る見るうちにふかふかの土になっていった。よし、大成功だ!
この魔法によって、練りこんだ肥料に含まれていた微生物が超活性化し、土の質を一気に上げてくれた。……と思う。詳しいことは知らん。
しかもこれ、植物自体の活性にも使えるし、マジ魔法ってスゲ~!!
感動しすぎてフルフルと震える身体を抑えて、また死にかけの畑に戻る。
「よし、この要領で……グロウ……」
「グロウ……グロウ……」
なんだかグロウのゲシュタルト崩壊しそう。文字じゃねーけど。
◇◇◇
朝。
ガラガラと村の扉が開き始める。村人は朝早く、畑の様子を見に来たのだ。
「んあ? キリエちゃーん!」
キリエ様呼びを訂正させ、リクと同い年設定を貫く決心をしたあたしは、ちゃん呼びに違和感をかんじつつも、ちゃんとお願いを守ってくれた村人にニコッと笑顔を送る。
「パンジャンさん! おはようございますっ」
「うおぉー!! なんだこれっ、畑が真っ黒だあ!」
肥えたチョコレートのような色をしている畑を見て、ややオーバーリアクションをするパンジャンさん。この人は50歳くらいの犬獣人で、白髪が目立つ短髪の、おっさんというよりは、おじさんって感じの人だ。
「ねぇ、見てて! 今からすごいものを見せてあげるわっ!」
「なにを、見せてくれるんだ!?」
興味津々のパンジャンさん。あたしは手に持っていた、森にて採取したスイカの種を撒き、またあの魔法を唱える。
「グロウ……!」
ペカーっと種が光り、見る見るうちに土の栄養と水分を吸って大きくなっていく。右手でグロウ、左手でウォーターの魔法を同時発動し、畑が死なない様に気を配る。
そして、完成した綺麗で大きなスイカを持ち上げ、つるから切り離す。
「どう? これ、スイカっていうんだけど……!」
パンジャンさんは絶句していた。この世界、魔法アリだっていうのに、この人たち知らなかっただなんて、可哀想に。
「キリエちゃん、アンタ一体何者だい……?」
「えっと、魔法使いです!」
「魔法使い……?」
「その、アニメとか見すぎて、魔法に興味持っちゃったみたいな……!」
伝わるわけないだろ。発言した後にそう思った。
「そ、そうなんだね……」
いや絶対分かってないだろ!
「パンジャンさんにも、この魔法を教えてあげますっ」
「ええっ!? 僕にも出来るのかい!?」
せっかくだ、毎回毎回あたしが畑に赴いて、野菜を作っていてはキリがない。作物の面倒を見る担当が居るのなら、その人に魔法を教えてしまったほうが楽だ。
「パンジャンさん、手をかざして……」
「こ、こうかい?」
あたしが近くに寄って手を触る。……このおじさん、俺の顔を間近で見て鼻息が荒くなっている。
フン! まあ仕方ないさ! だって俺は自他ともに認めざるを得ない美少女なのだから!!!!
「クク、プクク……」
「キリエちゃん……!?」
「はっ!」
まずい、顔に出ていたか。落ち着け、あたし。
「それで、作物が成長する姿をイメージして……」
「うーん……っ……グロウ!!」
今採ったスイカに穴を開け、種を一つ畑に投げる。
パンジャンさんは魔法を詠唱し、投げたタネが、見る見るうちにつるを伸ばし、一瞬だけ花が咲き、皆が良く見るスイカになっていく。
やはり、誰でも魔法は使えるんだ。でも、知らないだけだったのだ。
パンジャンさんは、自分の作ったスイカを手にして、大喜びする。
「やったあ! すごい、すごいぞお!」
その喜びようは、思わず表情が緩んでしまうほどだった。
「パンジャンさん、いいセンスです!」
「いやいや、キリエちゃんの教え方が上手かったからだよ……この魔法、他の畑を持つ人にも教えていいかな?」
「構いません! その、使い過ぎにだけ注意してくださいねっ?」
「えっ? ああっ」
魔力を使い、クラクラと倒れそうになるパンジャンさん。そう、あたしは無限に近い魔力を有するが、ただの村人は、鍛えないと魔法を沢山は使えない。これは、前時代の書物に記されていたものだ。
やはり、この人たちは前時代の獣人族の生き残りだ。
さて、あたしはこの村を、たった20人ほどしかいないこの村を救えるのか……。
「毎日使うとなれると思いますが、ほどほどに!」
「ああ、ありがとうね、キリエちゃん……!」
「よっと、そろそろ大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ」
支えていた身体を離すと、胸をトントンと叩き、ニコッとするパンジャンさん。大丈夫ということだろうか。
「では、あたしはリク君の所に行ってきますね! では!」
パンジャンさんにペコリとお辞儀をして、私はリク君とハナさんの所へ向かった。