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00 俺と吸血鬼

暇つぶしにどうぞ。


「太一くん、これじゃあ全くダメだ。作り直し」


 紙束をバシバシと俺に叩きつけ、怒声を散らす社長。


「はい、すみません……」


 今日もダメだった。社長に渡した新しいバイクのエンジン設計図、返されるかと思いきや、ゴミ箱に投げ捨てられた。おいそれ、丸2日かけて作ったんだぞ! コピーもしてねーのにいいい!


 俺は小峰太一。近所に新しくできたバイクメーカーに新卒で就職したんだけど、全く上手くいかなくて、泣きそうだ。


 それに加えて畳みかけるように、今朝、小さいころから趣味で毎朝、それに仕事から帰ってきた後にこつこつやっていたゲーム、<どうぶつの林>がバグって10年間の大事なデータが吹き飛んだ。もう、泣いていいよね?


 ショックで電車に一本乗り遅れ、仕事に遅刻。ホームに行く途中、黒猫が横切るし、ホームで待ってる途中に鳥にフンをかけられるし、電車の中でとなりの席に来たエロ動画見てるおっさんは臭いし……。


 そんで、会社に来てみれば、きつい叱責のあと、2日かけて作り上げた設計図はシュレッダー行き。朝起きてからたったの2時間でこの有様だ。誰か、助けてくれよ。


「太一くん、増田さんの所行ってって言ったの、忘れてない?」

「……あっ!!! すみません、すみません!!」

「しっかりしてよね、本当」


 ペコペコと頭を下げる俺に、軽蔑のまなざしを向ける。


 この人は俺の1つ上の上司。牧田さんだ。黒いスーツが似合う、かなりきょぬーで、美人で、とても仕事ができる女性で、でも、俺のことが嫌いらしい。


 テンでダメな俺の気持ちなんか理解してくれない。男はシングルタスクと言っておろうに!!


 ◇◇◇


「はぁ……」


 俺は深いため息をついて、休憩室の自販機でコーヒーを買い、栓を開ける。


「あっ」


 白い新品のシャツに、コーヒーがびちゃっとかかってしまった。……そこで俺は吹っ切れた。


「もう、ダメだ」


 まだ一口も付けていないコーヒーを、コンロの隣にあるシンクに流し、休憩所を後にする。


 立ち入り禁止と書かれた看板が立てかけられた屋上に続く階段を上り、扉を開ける。


 

 ……俺は、すでに疲れ切っていた。この先、俺に輝かしい未来はない。ここらで、楽になるか……。


 フェンスを乗り越え、東京の街並みを見下ろす。


「もう、俺の体力はゼロよ! ここらで許してくれよ、神様。……次こそは、どうぶつの林みたいな、ケモミミと幸せなスローライフを送れるような人生に生まれたいぜ……」


 そう言って、フェンスから手を放す。すると、天から声が聞こえてきた。


「ねえ太一くん、その願い、叶えたくはないかい?」

「えっ? 誰だ……?」


 なんだか幼いような、小学生くらいの、少年か少女の声。


「ボクはキリエ……吸血鬼さ。ずっと退屈しててさ、水晶玉から君のことを見ていたんだ。羨ましいな、って」


 僕ってことは、男の子か? 吸血鬼って、本当に居るんだな……。


「羨ましい? どこがだよ、俺は今、死のうとしているんだぞ」


 彼は微笑まじりに答える。


「クフ、ボクくらいに暇を極めるとね、君のような忙しすぎて死んじゃうくらいの方が魅力的に見えるモノなんだよっ」

「そういうもんなのか……?」


「そこで提案なんだけど、ボクの人生と、君の人生、交換しない?」


「でも、暇なんだろ? なにもやることがない世界にも行きたいとは思えない」

「うーん、たしか……ボクの屋敷がある山のふもとには、小さな獣人族が住む村があったような……君の努力次第では、夢のケモミミスローライフを送れるかもねっ?」


「そんな……そんな夢のような話、もっと早く言ってくださいよ!!!」


 ズルッ。


「あっ」


 足を滑らせ、ビルを落下していく。……せっかくいい話を聞いたのに、なんて勿体ない死に方なんだ……。


 フワフワと浮く感覚。そこに恐怖は無かった。


 俺が最後に見たのは、ビルの窓ガラスに映る、自分の姿だった。


 ◇◇◇


 次に目を覚ましたのは、広くて可愛らしい、ピンク多めの女の子らしい部屋。


 俺はその部屋の隅にあるベッドに横たわっていた。なんだか身体が軽い気がする……んしょっと。


 隣にある豪華なドレッサーの、鏡の前に立つ……鏡に顔が映らないな……。


 ドレッサーの下にあったマシュマロみたいな椅子を出して座ると、鏡の前にちょこんと座るのは、白い肌、艶やかな銀髪のミディアムヘアから長い耳がぴょこっと飛び出す、赤目の少女だった。

 

 長いまつげの大きな瞳をパチパチさせて、俺のことを見つめる少女。俺が口を開けると、彼女も口を開ける……なんか、牙生えてるんだけど……。


 股間がスースーしているような気がして、股に手を当てると、そこには俺のチンは無かった。


 そこで、鏡に映る少女が、自分であることを理解する。


「俺、吸血鬼の女の子になってるううううううう!?」


この作品を見つけて、しかも1話を読んでくださったみなさん。ありがとうございます!!


良いと思ってくださった方、わたくしは1か月前まで小説なんて微塵も興味なかったような、初心者投稿者ではありますが、これからも頑張りますのでよろしくお願いいたします!!

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