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友達欲しくて、死者転生したらヤバい奴出てきた。  作者: 釈迦堂欅
第1節 第1楽章 序曲〜オーバーチュア〜
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第6話 旅支度



「ご馳走様でした」


食べ終わると再び目を瞑り、あの祈る様なポーズでそう言うとお皿を洗い場に運んでいく。


「ご、ちそーさまでした?」


同じく食事の開始の時のようにその儀式を真似る。



「ここでいいのか?」


「うん。ありがとう、置いといてくれればやるから休んでて」


「いやー、美味かった。ホントに料理上手なんだな」



あんな簡単なもので満足してくれたみたいで何だかわたしも嬉しくなっていた。


洗い場で鍋やフライパンそれに食べ終わった食器を洗いながら、先程の儀式について聞いてみる。



「あの御飯を食べる前にやってたポーズと呪文みたいなのってなに?」


「儀式かな?」


「何の儀式なの?」


「作ってくれた人と命を捧げてくれた生き物に対する感謝のだよ。ご飯を作ってくれてありがとう、美味しく頂きました、とかそんなこと思いながらやってるよ。」



種族や人種の独特ものなのかな?


本にも書いてなかったし、お母さんから教わったこともなかった。


でも、そういう意味が有るって、せっかく知ることが出来たから今度からやってみようかな。



「そうだった。これも渡しておくよ」


何かをポケットから取り出し手渡してきた。


「これって…」


先程、蛇を入れた物と同じ小さな布袋だった。


魔石は小さいものでも6cm程の大きさがあり、その布袋は15cm程しかなかった。


「アイテム袋って呼んでる。空間系の魔術効果が付いてて、今は空っぽだから、この家の中の物なら全部入るぞ。」


コーラルが試しに竈の中の魔石を入れてみる。


1個、2個と次々に入れていくけど、膨れる様子もなく魔石同士がぶつかる様な音もしない。


結局、竈にあった魔石が全て入ってしまった。


なんでこんな小さな袋にあの魔石が10個以上も入るのか不思議だった。


「取り出す時はどうすればいいの?」


「袋に手を入れて頭の中で取りたいものを思い浮かべれば取れるよ」



そう言って布袋の口を開き、手を入れるように促してきた。


袋の口に手を入れると、何も無い空間をわたしの手がさまよっている。


頭の中で魔石の形を思い浮かべると指先に何か固いものが当たったのがわかった。


それを掴み袋の外に、手を出すと先程の魔石が握られていた。



「ちゃんと取れただろ?コツがいるけど慣れると便利だぞ。全部出したい時はこうやって袋を逆さまにすれば…」


そう言って、アイテム袋を逆さまに指で摘み、振ると先ほど入れた魔石が全部出てきた。


「わわっ!こんな便利なものがあるなんて知らなかった」


「まあ、普通は手に入らない物だし、知らない人の方が多いと思うよ」


「じゃあ、これで明日の準備は終わったの?」


「そうだな。残りは道中で探してもいいだろうし。それじゃ、今日はありがとう。今度こそ、おやすみ」



「こっちこそ、ありがとう。おやすみ」


そう言って、部屋を出ていくコーラルを見送ると1つ疑問が浮かんできた。


そういえば、どこで寝るつもりなんだろう?


閉まった扉を急いで開け、コーラルの姿を探した。


しかし、ほんの数秒しか経っていないはずなのに辺りを見渡しても、まったく見当たらない。


仕方なく自室に戻り、着替えや靴、お気に入りの本などをアイテム袋に入れ終え、ベットに横たわる。



カチカチと子気味の良い音を奏でてくれる時計は、もうすぐで日付変わるのを教えてくれる。


「……?」


先程コーラルを喚んだ後に胸ポケットに閉まっていた小さな宝石に手が触れる。


「喚んでも、大丈夫かな?」


また喚ぼうかどうか迷っていると、不意に宝石が暖かくなっていた。



「あっ…ご、ごめん!喚ぶつもりじゃなかっ…たの…」


無意識に魔力を込めていたようで、本日中2度目の召喚が行使されてしまった。


だが、現れたのはコーラルの姿ではなく、巨大な芋虫のような深緑色の塊だった。


「ひっ…!」


声を上げるとそれに反応するようにモゾモゾと動き、低い唸りのような声を出してこちらに顔を向けようとしていた。


恐怖で勝手に怖い怪物の顔を作り上げ、それがわたしに襲いかかって来る。


そんな想像をしていると再び、魂の叫びを上げる。



「ひにゃやァァァあ!!!」


「ヅァオ!?なんだ?!敵襲か?!」


わたしが勝手に作り上げた芋虫の怪物がコーラルの声で驚きの声を上げ、勢いよくこちらに振り向く。


「………。」


無言のまま芋虫?を脱ぎ、わたしの前に来ると、顔をじーっと覗き込んでいた。


何でもいいから盾になる物をと思い近くにあった枕を抱きしめ、震えながら質問する。



「なんで……いつも変なことしてるの?」


「なんでいつも変なタイミングで喚ぶんですかね…。今度はなんだ?」



「えっと…その……」


さっきの出来事でなんで喚んだのか忘れてしまい、言葉が出てこなくなってしまった。



「何もなさそうだし、寝惚けて召喚したのか?」


「寝、惚け…あっ!」


その単語でなぜ喚んだのかを思い出し当初の目的を話す。


「ええっと、もし…もしね。良かったら、なんだけど……ここで…寝て欲しいなって思って。」


上手く出てこない言葉を何とか絞り出し伝えようと努力した。


「…………。」


「やっぱり、ダメ?…無理言っちゃったよね、ごめんね。」


「あ、いや……ダメじゃないんだけど、何気に破壊力があったから危うく、萌え尽きるかと思った。」


火属性の魔術どころか何も行使していないのに燃える事があるのだろうか?


そんな疑問が浮かんだけど、この部屋で寝てくれることになった事の方が大事だったので直ぐに頭の中から消え去った。



「じゃあ、いいんだよね!夜に1人で寝るのは、もう嫌だったから嬉しい」


「あと、さっきのはあんまり他の男の子には使わない方がいいな。下手すりゃ襲われるから」


「襲われるって?なんで?」


そんなに悪い事を言ったのかな、わたし。


理由を知りたかったけどコーラルはハッキリ教えてくれず返答を濁してきた。



「あどけないのか、あざといのか…まあ、生きてりゃそのうちわかるようになるさ。」


気になったので再度聞くと、「そのうち自分で学べ。」と言われ、教えてくれなかった。


部屋の中央にぶら下がっている魔石のシャンデリアにコーラルが指で、なぞるように円を描くと明かりが消える。



ちなみに、あの芋虫の様なものは『シュラフ』という物で保温効果が高く何処でも眠れるらしい。


数年ぶりに誰かと同じ部屋で眠れることになり、もっと緊張したりするものだと思ってたけど。


今日の疲れからなのか布団を掛けると、強烈な睡魔によりすぐと眠りに着くことができた。



―――ほん……に、…あ……から……。


誰…?よく、聞こえないよ…。


勢いよく布団を捲りながら、上半身を起こし辺りを見渡した。



「……夢…?」


壁掛け時計を見ると既に9時を過ぎていた。


夢を見るのは何年ぶりだっけ?


とても曖昧だけど。だけど、凄く懐かしいような不思議な夢だった。


いつの間にか頬に何かが伝っているのに気が付き、袖で拭いた。


あの不思議な夢のせいだろうか。


それが自分の涙だということに気が付き止めようとしていると、部屋の扉が開き陽気な声が響いた。



「おっはよ〜。紅茶とカフェラテ、どっちが好…どうした?」


その声の主は、わたしよりも先に起きて飲み物を淹れて来てくれた。


だけど、異変にすぐ気付き心配そうに声をかけてくれた。



「おはよう。なんでもないの、久しぶりに見た夢のせいだと思う。でも、何だか暖かい感じで不思議な夢だったの」


「いい夢を見れたんだな、俺はてっきり旅に出るのが嫌になったのかと思ってたよ」


「そ、そんなことない!すっごく楽しみにしてたんだから!」



冗談だと分かっていても少しムキになって返答すると、笑いながら暖かい紅茶の入ったカップを手渡してくれた。



少し甘めの紅茶を飲みながら、今後の予定の再確認とこの家の機能について話してくれた。


「アイリスの呪いを解くために『魔界』を目指そうと思う。」


「マカイ?」


「うん。そこに俺が復活するために必要な物ががあるんだ。そうすりゃ、完全に呪いを解呪出来るって寸法。」


「マカイって…もしかして魔工君主国ファブリカ・レースのこと?」


「多分な、俺がこの世から『おさらば』してからどのくらいの年が経ってるのか分からないけど、協力してくれる奴らもあそこには居るからな」



それだけ永く生きられるのって多分、エルフ族とかかな?


魔工君主国はここから世界の裏側に位置している。


そこに行くまでにどのくらいの期間がかかるんだろう?



「食料の回収ついでに、この家の食べ物の配給契約は解除したから、もう食べ物が召喚されることはないよ。」


「配給契約?食べ物が召喚?」



意味がさっぱり分からずにいると、噛み砕いて説明してくれた。


「何かと引き換えにどっかからか食べ物を送って貰ってたんだよ。つまり、ここの食料庫に食べ物が増えることはもうない」


「そんな仕組みになってたんだ」


「本だけじゃ知ることが出来ない事も世の中には沢山あるからな。これから学んでいけばいいさ」



確かにそれは言えるかもしれない。


本で読むだけと、経験とでは入ってくる知識の量が全然違う。


料理にしても、魔術にしてもそれは同じ事なんだろう。


「そうだね。先生みたいな人もいるし……そういえば、ここを出たらどこに行くの?」


「それを言おうと思ってたんだ。」



コートのポケットから世界地図を取り出し床に広げながら、今後の行動予定を説明してくれた。


「この家はこの辺だからまず、山を降りてこの都市を目指そうと思う。」


「シュティーレに向かうの?この国の主要都市だよね」


「そうなのか?まあ、ホントだったら最短距離で行っても良いんだけど、そうすると野望が叶えられない」



コーラルが提案してくれた新しい目的で、今はわたしの目標になった。


それを優先させてくれるみたいで何だか嬉しかった。


「覚えててくれたんだ!」


「この旅の主役はアイリスだからな。それに、また勘違いされて泣かれたら敵わないからな」



昨日の夜のことを引っ張りだされ、ムッとして言葉を返す。


「もう、泣かないよ!コーラルの前じゃ、絶対、ぜ〜ったいに泣かない!」


「フッ…無理はしなくても良いんだよ。いつでもこの胸を貸してやろう」


両手を広げ、おちょくるような口調と満面の笑みに何だか、無性に神経逆撫でされ、近くにあった枕を投げつけた。



それを片手で受け止め、楽しそう笑うと、こう続けた。



「その様子だったら大丈夫だな。自分の感情を押し殺したままじゃ友達は作れない、そんなヤツに魅力なんかないからな」



人をおちょくってみたり、急に真面目な事言ってみたり、本当に掴みどころのない人。


「……コーラルって知識のある子供みたいだね」


「ああ、よく言われるよ。さてと、家の確認が終わったら出発するか?」



「うん。ちょっとだけ待っててくれる?」


「あいよ。本読んでてもいい?」



その問いにふたつ返事をして、部屋を出る。


部屋を出た瞬間にお風呂の掃除をしていなかった事を思い出し、急ぎ足で向かう。


思い過ごしではなくて、昨日のままの湯船がそこにはあった。



冷たくなってしまったお湯に薬草の石鹸と緑色の魔石を浴槽に入れ詠唱する。


泡が立ったのを確認し水を抜く、その間にタオルと青い魔石を用意する。


水の抜けきった浴槽から石鹸と緑の魔石を回収して手早く浴槽を洗う。


最後に青い魔石を使い綺麗に水で流し、浴槽の掃除を終わらせた。


自己の最速記録を、間違いなく更新したことに満足して浴室を出る。



ふと、お母さんの部屋が気になりその場に立ち尽くした。


居なくなってから入るのをずっと躊躇っていたけど、旅に出る前に思い出に触れておきたかったのかもしれない。



ドアの取ってに手をかけて、息を飲み込んだ。

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