隣国の王太子殿下はなぜかいつも私を守ってくださいます。
過去作のリベンジ
…どうして私ばかりがこんな目に遭うのかしら。
はじめまして、ご機嫌よう。私、クランティヴ・ミトロジーと申します。公爵令嬢ですの。私、目つきの鋭さから昔からよく誤解を受けて、虐められてきましたの。今日も今日とて、誤解を受けているようですわ。
私には侯爵令息のイディオ・アンフェール様という婚約者がいますの。あまり仲が良いわけではなくあくまでも政略的婚約でしたけれども。
そんなディオ様には愛する方が他にいらっしゃいました。お相手は男爵令嬢のピュール・トラディシオンさんですわ。学園内で堂々と浮気されていた為、お二人の仲は学園の噂の的でしたの。
それだけでも気が滅入るのに、私は公爵令嬢だというのに学園でも虐められましたわ。まあ、公爵家といっても借金ばかりの名ばかり貴族ですもの。仕方がありません。そんな私の唯一の心の救いは隣国の王太子で、我が国に留学しにきていたノービレ・インテルナツィオナーレ殿下ですわ。事あるごとに私に突っかかってくるご令嬢方を窘め、喧嘩を売ってきたり辛く当たってきたりするご令息を窘め、いつも私の味方をしてくださるのです。私は婚約者がいる身でありながら、ノービレ王太子殿下に仄かな恋心を抱いていますの。
さて、そんな中でなんとか迎えた学園の卒業パーティー。これでようやく婚約者様達のいちゃいちゃを見せられずに済むし、誰にも虐められずに済むとほっとしていたのも束の間。事件は起こりましたわ。
「クランティヴ・ミトロジー!この場で貴様との婚約は破棄させてもらう!そして今ここで、貴様の悪業の数々を断罪する!」
婚約者様達の断罪ごっこが始まってしまったのです。
「…私がなにをしたというのでしょう」
「ふん!しらを切るつもりか!そうはいかないぞ!貴様がルルを虐めていたことは既に学園でも噂になっている!」
「変な噂を流されたり、持ち物を隠されたり、暴力まで振るわれて、挙げ句の果てには階段から突き落とされました!謝ってください!それ以上は、何も望みませんから…」
「なんて優しいんだ…ルル、君はもっと怒ってもいいんだよ」
なんだかいつの間にか、お二人の世界に入ってしまいました。一応言っておきますが冤罪です。本当に、私がなにをしたというのでしょう。その間に、私の隣にノービレ王太子殿下がそっと寄り添ってくださいましたわ。…また、助けてくださるの?
「イディオ殿、いい加減にしないか。どれだけピュール嬢に本気なのかは知らないが、クランティヴ嬢がそんなことをするはずがないとわからないほどに目が曇っているのか?」
「ノービレ殿下!騙されています!その女は悪女です!」
「…その証拠は?」
「ルルの証言と学園内の噂です!」
なんだか目つきが怪しくなるノービレ王太子殿下。一瞬だけにこりとこちらに微笑むと、私を背中に隠してディオ様達に問いただしました。
「具体的に、いつどのようなことをされたか言えるか?」
「はい、五日前に持ち物を隠されて…四日前の放課後には休み時間に校舎裏で暴力まで振るわれました。二日前には階段から突き落とされて…打ち所が良かったからこうして卒業パーティーにも出れていますが、打ち所が悪かったらどうなっていたか…」
「嘘だね」
ピシャリと言い放つノービレ王太子殿下。
「え?」
「ノービレ殿下?」
「ピュール嬢が虐められたと証言した時間、私がクランティヴ嬢と一緒にいた。というか入学してからずっと、虐めの標的にされやすいクランティヴ嬢の側から離れたことはほとんどない。ずっとずっと、女子寮に戻るまで一緒にいた。虐めなんてしてる暇無かったよ。私の名にかけてもいい」
「えっ…」
王族が自分の名前を賭けるという行為は重い。ここでやっと自分達が不利だと気がついたディオ様達が焦り出します。
「ま、待ってください!それじゃあピュールが嘘をついたというのですか!?」
「そうだよ。でも、クランティヴ嬢との婚約破棄は応援してあげようか。…そこの神官見習い君、婚約破棄の書類を」
「えっ…」
「は、はい!」
「さあ、クランティヴ嬢。これにサインして捺印して?」
「は、はい…」
なぜノービレ王太子殿下が味方してくれたのに結局婚約破棄しているんだろうと不思議に思いつつ、素直に署名捺印します。
「イディオ殿も。はい」
「は、はい…」
ディオ様も素直に署名捺印します。
「浮気した挙句男爵令嬢なんかの証言を鵜呑みにしてクランティヴ嬢の顔に泥塗った男とはこれでお別れだね。神官見習い君、受理して」
「あ、は、はい!受理しました!」
「よし、これで婚約終了!クランティヴ嬢はフリーだね!ということで、クララ。私の婚約者になりなさい」
「えっ…な、なんでですか?」
いや、嬉しいですけど…。
「ノービレ殿下!?なにを!?」
「イディオ殿、君にはもう関係ないことだよ」
「ノービレ殿下!騙されてます!クランティヴ様は本当に…!」
「うるさいなぁ」
ノービレ王太子殿下の地を這うような低い声でディオ様達は黙ります。
「クララはね、見た目はとても怖いけれど、本当はとても優しい子なんだよ。表面しか見てない君達にはわからないだろうけどね。…五日前に持ち物を隠されて、四日前の放課後には休み時間に校舎裏で暴力まで振るわれ、二日前には階段から突き落とされた?五日前は飼育小屋のウサギ達に餌を与えてじゃれあって、四日前には道に迷った子供と手を繋いで親御さんの元へ返してあげて、二日前には飼育小屋のニワトリの死を悼んで泣いていたクララが?本気で言ってるのかな?ねぇ」
会場は一気にシーンとしました。…ディオ様達も、悔しそうにしながらも黙りました。
「…ねぇ、クララ。私は本気でクララが好きだよ。他の誰にも負けないくらい。クララの良いところ、きっと私が一番に知っている。だから、私を選んで」
「えっ…えっ…と、はい、わかりましたわ」
未だに混乱していた私は、それでもなんとか状況を飲み込んで、ノービレ王太子殿下の求婚を受け入れました。そしてそのままノービレ王太子殿下にエスコートされつつ家路につきましたわ。
ー…
そして今日。ノービレ王太子殿下との結婚式です。…風の噂によると、ディオ様とピュールさんは結局破局したそうです。お二人とも、婚約者探しに必死だとか。ですが、あれだけの騒動を起こしたためなかなか良いお相手が見つからないそうです。…決して不幸になってほしいわけではないのですが、なんとなく胸がすく思いです。
「…うん、ウェディングドレス姿、似合ってるよ。私のクララ」
ちゅっ、と私の頬にキスを落とすノービレ王太子殿下。
「ノービレ王太子殿下…」
「ノルでいいってば」
「の、ノル様…」
「うん?」
「私、その、助けていただいて本当に感謝しておりますの。お慕いしておりますわ。でも、どうしていつも私を助けてくださるのですか?」
きょとん、とするノル様。
「…あれ、まだ言ってなかった?一目惚れだよ?」
「え?」
「飼育小屋で動物達の世話をする時の、無邪気な笑顔にやられたんだ」
顔が熱くなる。私から聞いたとはいえ、これは恥ずかしいです。
「む、無邪気な笑顔…ですか…」
「…ふふ、照れてるの?可愛い」
耳に口を近づけて、小声でそっと囁きかけるように。
「愛してるよ、私のクララ」
…どうしましょう。これ以上好きになったら、心臓が破裂してしまいますわ。
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定価780円+税
ISBN 978-4-7580-3534-7
〇内容紹介
大人気アンソロジーついに第3弾!
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「小説家になろう」発の人気読み切りコミカライズアンソロジー、大好評につき第3弾!!
私の書いた短編、『嫌われている相手に嫁いだはずがいつのまにか溺愛されていました』が収録されています。
コミカライズしていただき書籍化していただけたのも全て皆様のおかげです。ありがとうございます。もしよければ是非手にとっていただけたらと思います。