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6話

「順調だな」

「あぁ、狙撃銃を扱える程度になった」

「そこかよ」

「重要だろう」

 数が多い内は遠方からの狙撃でもしようかと考えている。

 対峙してということでもかまわないが、生き残りが市中の監視カメラの映像を使って民衆扇動でもしてきたら、良心が痛む。もちろん巻き込まれる市民に対して。

「にしても歩けるようになってから、回復がそれまでと比べると尋常じゃないぞ」

「運動の成果かな」

 笑って誤魔化す。なにせ、週に一・二度、少尉を利用して組み手をしているからな。彼を負かすには、もう少し身体を戻さないと厳しいが。

「まあ無理してないならいいんだが」

 嗜めるように言われる当たり、私が焦っていることをわかっているようだ。さすが優秀な軍医、正式な配属が決まったら盛大に祝いを贈ろう。


「……で? 俺にこれ見せて何と言えと?」

「おや、笑いの種になると思ったんだが」

 テーブルの上には一昨日届いた多くの男性の写真と釣書。

「奴らも面白い方向で来たな」

「笑えるだろう?」

 送り主は復讐の対象にして、ビューロー派のお偉いさん方だ。

 奴ら、縁談の話を持ってきた。自身の派閥の者と結婚させて、監視下に置くのか、果ては止めを刺すためか。

「……動き出したか」

「あぁ」

 これはまだ可愛いもの。

 これからどう動いて来るか。その前に一人か二人撃っておいた方が良さそうだな。狙撃場所は押さえてあるから監査カメラの操作を依頼した上で情報操作もしておこう。


「俺は変わらず薬を持ってくるし、巡回も変わらず行うが」

「あぁ、頼む」

 それ以上は必要ないと伝える。

 恐らく私の巡回をしてる時点で奴らから何がしかの接触はあるのだろう。

 ただそれを言わないということは私からノアに問うことではない。巡回を続けてくれるということだけで充分だろう。

 それにある程度のリスクはミランが対処してくれている。そのぐらいの仕事はするだろう。


「ん?」

 呼び鈴がなるので監視カメラを見れば、おやおやターゲットの一人が丸腰でいらっしゃった。

 私に笑い倒せということか。

 しかし妙だ、他の機器のデータでは武器等の所持はないし、何より奴の背後に立つ人物に覚えがない。

「少佐、こいつだ」

 私の考えを意図したノアが一つの写真を指す。あぁ、なるほど。見合い相手を直接連れて来たのか。

 まぁ余計な人間がいようがいまいが関係ない。これは好機だ。

 丸腰でやって来た。ずっとどうにかしてやろうと思っていた。これはチャンスだ。

「俺が出る」

「何を」

「今の少佐を出すわけにはいかんさ」

 鏡見ろと言われる。見ても見なくても私の感想は同じな気もするが。

 押し切られる形でノアは階下に下りていった。

 監視カメラから様子を伺う。

 扉を開け出てきた人物に奴は驚いて、何故研修医の君が等と宣う。

「悪いが少佐は俺の患者だ。まだ人に合わせるに至ってない」

「いや、そうもいかない。折角お呼び立てしてるんだ」

 おいおい、アポイントなしにやってきてるのに立場は奴らのが上なのか。なかなか笑えるな。

 医者の判断で面会拒否、かたや押し通したい奴ら。

 平行線のところ、会話も飽きてきたし、私も参戦しようかと思っていたところにさらに訪問者がやってきた。


「ノア?」

「え? 兄貴?」

 んん、兄貴と言ったか?これは驚きだ。

 あまりに似てない兄弟だが……あぁ、ミランという共通知人がいたのだから、その可能性は充分あったか。

 訪問者は少尉、いつもの時間より少し早い。ノアと奴らの押し問答が長引いていたのもあったようだ。まさか鉢合わせになるとは。

「アンケ少尉?! 何故ここに?!」

 奴はあからさまに動揺した。

 確かに奴らのマークしている人物でもないし、来そうにもない人物だろうな。

「これは……」

「ミュラー元少佐に見合いのために来ている。アンケ少尉は今日の面会について辞退願おう」

「見合い?」

 少尉は笑顔だ。営業用だろうか、少し引き攣っていないか。


「残念ですが、できかねます」

 少尉が断りを入れてきた。

 いくら派閥は違うとはいえ、自身より上官にあたり、私への面会という大した用でもないのに。

 ここは一時撤退してもいいシーンだが。

「な、少尉、君はただ見舞いに来ただけだろう?!」

 はっきりと断る彼に対して奴は動揺した。

 その後、彼は営業の笑顔のまま驚きの言葉を発した。


「えぇ、そうです。婚約者の元へ見舞いに伺いました」

「ええ⁉」

 この驚きの声。私と奴らとノア、綺麗にかぶったといっていい。

 いやそれよりも少尉、今なんて言ったのか。婚約者、その発想はなかった。

 自分との約束の方が優位性が高く、かつ相手を怯ませる言葉としては最適だ。

「あぁ何でしたかな、ヴィート中佐。私の婚約者に何用と仰ってましたか」

「え、いや、あ、私達は結構、急ぎ戻らねばならん。失礼する」

 そう言って去っていった。おお少尉、実に素晴らしい。

 内容はともかく有無を言わせず追い返す気迫は今後戦場で活かせるぞ。

 驚きでたじろがせ、一瞬の隙をついて論戦に持ち込ませず気迫で去らせる。なかなかだ。

 後は、引き攣った笑顔がもう少し自然だと尚いいか。思いがけない才能を垣間見た。

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