scene1
――1――
東京のシンボルと聞くと、何を思い浮かべるだろうか。都庁、浅草、青山墓地、千駄ヶ谷トンネル……色々あると思うけれど、やはり思い出に根深いのは東京タワーだ。体力をつけるために外階段を登ったこともあるので感慨深い。
なにより、東京で一番高いところ、というのもなんとも趣深い話ではなかろうか。ホラーと高所、どちらが怖いのか、じっくり検証してみたくすらある。なんでそんな東京のシンボルを思い浮かべているのかというと、当然、理由がある。
「ロケ、ですか?」
「はい」
CM以来の、桐王鶫時代に経験のなかった仕事、ロケーションでの名物散歩系番組が回ってきたのだという。
実家のリビング(夫婦二人くらいなら住めそうなサイズ)のソファーに腰掛けて、小春さんのお話を聞く。まさかこの私が、街を練り歩くようなお仕事ができるとはなぁ。
「先日の、霧谷桜架さんのドキュメンタリー特番が反響を呼んでいるのは、もうご存知でしょうか?」
「いえ、しらないです」
雑誌なんかで評判を見たいけれど、こんな近々にはまだ出ないだろうからね。
「そうでしたか。では、こちらをご覧ください」
「えーと……」
小春さんは、机の上に置かれたノートパソコンを指し示す。……のだけれどちょっと見づらい。
「あの、ひざのうえでもいいですか」
首をかしげて尋ねると、小春さんは私を丁寧に持ち上げて、膝の上に乗せてくれた。
「おもくないですか?」
「はい。今なら無想の境地に至れます」
「そうなんですか?」
「そうなのです」
小春さんってときどき、不思議な言い回しをするよね。禅とかやっていたのかな?
パソコンのモニターに映し出されているのは、インターネットニュースというものだった。コメントがつけられるようになっていて、何件も投稿されているようだ。
そっか、パソコンでニュースが見られるのなら、昔みたいに雑誌やインタビューがすべてではないんだよね。反応が新鮮なまま見られるのって面白い。世論調査とか楽なのかも。
「スクロールしていきますね」
「はい」
多少早くても、読み逃したりはしないのがこのハイスペックボディ。やろうと思えば通過する電車に乗っている人の顔でも識別できるのではないだろうか。今世ではまだ電車に乗っていないからわからないけれど。
ニュースの見出しは“オーディションのキュートな友情”だ。内容は、放映されたオーディション映像についてで、私と凛ちゃんが手をつないで頭を下げるシーンが見出しになっている。
――――――――――
【オーディションのキュートな友情】
先日放映された、秋頃放映予定の『霧谷桜架の波瀾の半生』番宣映像で、二人の少女が話題になった。最終審査まで勝ち上がってきたのは、ドラマ『妖精の匣』で話題の夜旗凛(6)と、空星つぐみ(5)の二人だ。彼女たちは大人顔負けの演技勝負をすると、最後には二人で手を取り合ってフィナーレを迎えた。その美しい友情に、会場は騒然。温かな拍手に包まれて、最終審査は終わりを告げる。
今回、凛ちゃんが霧谷桜架(30)の生徒であるということから一時は贔屓による勝敗ではないか? と噂も立ったが、審査基準公開により噂も否定された。プライベートでも凛ちゃんとつぐみちゃんはとても仲が良く、険悪な様子も見られない。
かわいらしくも優秀な二人の子役が、今後どのような活躍をしていくのか温かく見守っていきたい。
【関連記事】
【霧谷桜架の贔屓審査?】疑惑から即日否定。天才女優の才能発掘
【妖精の匣の妖精】主要子役4人組の素顔に迫る
【トッキー初恋レモン味】ジュニアモデル、エミリちゃん絶賛のワケ
【話題の子供たち】yo!tuberツナギチャンネルの人気の秘密は?
aru***** 1日前
かわいすぎる!
こんな子たちが一生懸命演技しているのに贔屓とかいう人なんなの?
『返信』17 ↑3565↓13 Tritter
kum***** 1日前
手に汗握る演技だった。妖精の匣は大人から子供まで質が良い。
もしかして私たちって黄金期の目撃者?
『返信』20 ↑2809↓3 Tritter
liu***** 1日前
泣いちゃった。
日頃から仲良くないとこんな演技できないよね。
凛ちゃんはさすが万真の娘! って感じだけど、
このつぐみちゃんってなにもの?
『返信』34 ↑1876↓8 Tritter
set***** 2日前
二次審査の他の子役たちと差がありすぎる。
とっさに会場を別にした平丸講師ってなにもの?
『返信』8 ↑398↓2 Tritter
yuu***** 3日前
こんなの一人で歩いてたらハイエース。
拙者の妖精タソハァハァ
『返信』15 ↑21↓954 Tritter
tsu***** 3日前
子供が即興でこんな演技できるはずない。
どうせ霧谷桜架の仕込みだろ?
『返信』39 ↑8↓5437 Tritter
emi***** 4日前
つぐみはあたしの最推し!
かわいい~!!
『返信』12 ↑4538↓10 Tritter
mit***** 4日前
もっとこの二人が見たいなぁ。
二人で仲良くしてる番組とかやって欲しい。
ネットフリッターでやってくれないかな。
JunglePrimeでもいいから。
『返信』58 ↑9624↓1 Tritter
yum***** 6日前
将来有望だわこの子たち。
時代劇とかも似合いそう。
『返信』5 ↑310↓1 Tritter
――――――――――
まさかこんなに、というのが正直な反応だった。勝者である凛ちゃんが注目されるのはわかるけれど、敗者の私にまでこんな風に言ってもらえるんだね。
いやそれにしても、便利だなぁ。こうやって即日反応を期待できるというのも新鮮だ。によによと唇が緩んでしまうのを、両手で押さえて耐える。良きにせよ悪きにせよ、反応がもらえるというのはいいことだ。無反応が一番堪えるからね。
「このように、お二人の友情がとても注目を浴びています」
「ええっと、これ?」
五十八件の返信がある項目を指さすと、小春さんがそれを開いてくれる。もちろん高評価ばかりではないけれど、ほとんどは「この二人の番組が見たい」というものだった。他の返信を開いても、似たような意見が多い。
「はい。こうした意見から、毎回芸能人を招いて各地を回るロケーション番組への出演依頼がありました。いかがなさいますか?」
「もちろんやります!」
「ふふ――つぐみ様なら、きっとそう言っていただけることだろうと思っていました」
ロケ番組なんて初めてで、わくわくしてしまう。しかも、気心の知れた凛ちゃんと一緒なら心強い。そのうち、珠里阿ちゃんや美海ちゃんともこういったお仕事をしてみたいものだ。
「ロケ地は現段階では未確定ですが、東京のシンボルを予定しているそうです」
「おおー」
「ただ、おそらくは、東京で一番高いところ、に決まりそうだとか」
東京のシンボルで東京で一番高いところと言えば、やはり東京タワーだろう。芝公園から眺める東京タワーの威容は中々のモノだ。都心からの交通網も充実しているし、電車スタートのロケだったとしてもさほど困らないことだろう。
もっとも、子役二人で移動と思うと、現地までロケバスだろうけれど。あれでも、子供二人で歩かせるのかな?
「おとなの方もいるのですか?」
「ええ。つぐみ様方の先導役としてもう一人。つぐみ様も良く知る方ですよ」
「え? えーっと、かきぬまさん、とかですか?」
ぱっと脳裏に浮かんだのは、優しい笑みを浮かべたダンディな男性、柿沼さんだ。けれど小春さんは、小さく笑い声を上げ、私を膝に乗せたまま、パソコンの画面を操作する。
そこに打ち込まれた文字に、私はつい、「あ」と小さく声を零した。なるほど、私の――あるいは、桐王鶫の、“よく知る人”の名前。
「きりたに、おうか」
霧谷桜架。
他ならぬ、前世からの知己であり、今生ではほんの少しだけ複雑な感情を抱く相手。
さくらちゃんの、今の名前であった。
――/――
真っ白な部屋。謹製の防音室。モニターの前で、ツナギはただメッセージを待つ。恋い焦がれるように? 憎悪し恨むように? 否、ただ、与えられる指令を読み込む機械のように、感情を映し出さない瞳で。
時が止まってしまったのではないかと思わせる静寂の中、不意に、軽快な音とともにメッセージがポップする。ツナギは待ちわびた返信に、けれど感情を動かすことなく受け取り開くと、じっくりとメッセージを読み始めた。
(子役の番組に、偶然を装った乱入?)
なるほど、と、ツナギは小さく呟く。向こうの足場作りが安定してきた、ということだろう、と。
(場所は……なるほど)
東京のシンボル。当然、その場にいる人間は多い。問題は撮影現場まで発覚されずに、かつタイミング良く乱入する方法であったが、その辺りはツナギは心配していなかった。
なにせ、夜旗凛は、公式に「ツナギチャンネルを見ている」と公言しているのだから。
(あなたに苦汁を飲まされるのはもう終わり。これからは、私の時代だよ――霧谷桜架)
ツナギは立ち上がると、雑多に置かれた棚から帽子を持ち上げ、目深に被る。閉じられた瞳。深呼吸。目を開けばもう、自分の世界だ。
「さぁ、今日も、■■■をはじめよう」
変革の時は近い。そう、自分自身に言い聞かせるように。




