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ホラー女優が天才子役に転生しました ~今度こそハリウッドを目指します!~  作者: 鉄箱
Interval2 妖精=クライマックス≠バラエティ
148/182

ending

――ending――




 会場に満ちる大きな拍手。たくさんの声援と優しいかけ声で、わたしたちは今回の“ドッキリ”の仕掛け人たちが集うスタジオに招かれた。

 どんなドッキリ番組なのかと思っていたら、なるほど、番宣だったんだね。『紗椰』ではなく『妖精の匣』だ。桜架さんは『紗椰』の番宣ではなく、特別ゲストとして来てくれていたみたい。


(放映で“くいんくいんレディ”を流すのかな? 不安だ……)


 スタジオの中央にわたしと凛ちゃん、桜架さん、姫芽さんで並んで立つ。柿沼さんはしれっと自分の席に戻って微笑んでいるけれど、肩を震わせて笑いを堪える海さんを見る目が、ちっとも笑っていなかった。

 この番組のMCは、ベテラン芸人の外村さんだ。以前、『ヨルナンデショ!?』でご一緒させていただいた西原さんの相方で、わたしとも鶫ともさほど関わりは無かった方だったり。


「――ということで、試練はどうだった? つぐみちゃん」

「えっと、むずかしかったけど、みんなを助けられてよかったです!」

「そっかー、可愛いねぇ」

「えへへ、ありがとうございます」


 褒められると嬉しい。けれど、やっぱり照れてはにかんでしまう。


「それでは、つぐみちゃんたちは今日はここまでですが、その前に、“ご褒美”について発表しましょう!」


 ここまで、ということは、あれかな、就業規則かな。そういえばけっこう長時間の撮影になってたもんね。鶫の時代と違って、SNSなんかで直ぐに拡散されちゃうみたいだ。

 だからこそ、『妖精の匣』や『トッキー』の評判なんかも直ぐに集められるんだろうけれど、悪いことはできなくなっている。変なことをコンピューターで流さないように気をつけないとなぁ。


「それでは、ご褒美は――霧谷桜架プレゼンツ」


 ん?


「超巨大! オリジナルデザイン“クマザウルス~肉まん太郎ノ助”を添えて、です!」


 効果音。

 きらきらと舞い散る紙吹雪。

 会場の奥から台車に乗って現れたのは、桜架さんの身長ほどもある巨大なクマザウルスだった。


「え? え? え?」

「お、おおお、おおおおお! すごい、つぐみ、すごい!」

「わ、わーいやったー?」

「カンドーしてこえも出ないのか。わかる!」


 肉まん太郎ノ助とはいったいなんだろう。そう思って座りポーズのクマザウルスをよく見たら、恐竜の尻尾のところに黒いごまアザラシが乗っていた。この名前、本当に企画を通ったんでしょうか桜架さん……。

 オリジナルデザインというだけあって、普段はくりくりお目々のクマザウルスも、このバージョンでは横一本線の寝ぼけ眼。通常デザインとは違って、首からは「お休み中」のプラカード風(ぬいぐるみ素材)の飾りが提げられていた。


「これ……置く場所、ある?」


 外村さんもここまでのサイズだということは知らなかったのか、顔を引きつらせて呟いた。


「えっと、へやに置きますね?」

「つぐみちゃんのお部屋に置けるの!?」


 むしろ、クリアさせることが目的の試練だったと思うから、事前にダディとマミィに聞いていたのかも。大きい、けど、もふもふそうだ。クマザウルスの膝で眠れたら気持ちいいかも。

 ……これを口実に、凛ちゃんたちがわたしの部屋にお泊まり、とか、来てくれたら嬉しいな。そう思うと、なんだかこの巨大クマザウルスが宝石のように輝いて見えた。


「あの、そとむらさん」

「なにかな? つぐみちゃん」

「あれ、抱きしめてみても、いいですか?」

「はは、もちろん!」


 ふらふらと歩いて近づいて、大きな足にぎゅっと抱きつく。や、やわらかい。こんなにふかふかなんだ。


「りんちゃん、りんちゃん、りんちゃんも」

「い、いいの? じゃあ……ぎゅっ」


 ふわふわ、もふもふ。

 マミィにも抱きしめて欲しいな。


「それでは、気に入ってくれたようなのですぐに、なるはやで! スタッフがご自宅にお届けしますね?」


 外村さんに促されて、一歩離れる。

 それから、まだ夢中で抱きついていた凛ちゃんに声をかけた。


「はい! ありがとうございます! ……さ、りんちゃん、こんど……その……わたしのおうちでまた、ぎゅってしよ?」

「いいの!? わかった! ありがとう、つぐみ!」


 よし、計画どおり。凛ちゃんに気がつかれないように、ぐっと小さく拳を作る。初めてのお泊まり大作戦が決行できそうな手応えに、頬が緩んで仕方がなかった。

 気を取り直して、外村さんたちから笑顔で見送られる。相川さんや柿沼さんは続行だけれど、わたしも凛ちゃんも桜架さん姫芽さんも、みんな、今日は一度ここで解散だ。通りすがるスタッフさんたちに挨拶をしながら、わたしたちはこの場を離れていった。


「お疲れ様でしたー」

「はい。おつかれさまです!」


 頭を下げて、周囲を見守る。凛ちゃんは……稲穂さんのお迎えが来たみたいだ。


「あ、いなほさんだ。……じゃあね、つぐみ! おとまり会、ヤクソクだよ!」

「うん! ばいばい、りんちゃん!」


 元気な後ろ姿を見送ってから、わたしはぐるりと周囲を見回す。すると、目的の人物を見つけることが出来たので、気配を近づけてきた小春さんを手で制した。ちょっとだけ、待っていて。口パクでそう言うと、小春さんが控えてくれる気配がする。

 ……気配を消すくらいだったらわたしでも出来るけれど、姿が見えない原理は未だによくわからない。どうやってやってるのか一度聞いてみて、凛ちゃん、は、かわいそうだから、虹君をびっくりさせてみようかな。


「あの」


 目当ての人物に声をかける。幼さの残る顔立ち。抜けるように明るい茶髪。長いポニーテール。今日、審査員をやっていただいた、『紗椰』の共演者。


「ひめさん……少しだけ、おじかん、いいですか?」

「つぐみちゃん……?」


 常磐ときわ姫芽ひめさんに声をかけると、彼女はきょとんと首を傾げた。





















 スタジオ裏の非常階段は、この時間、あんまり人通りがない。喧噪を遠くに響かせながら、わたしは、階段に座る姫芽さんの隣に腰掛けた。

 姫芽さんの顔立ちは、どちらかというとクールな印象を受ける。けれど気の抜けた話し方と柔らかい雰囲気が、彼女を幼さの残るアイドルとして磨き上げていた。

 共演決定後に姫芽さんがリーダーを務めるグループ、『CC17』のライブ映像を見てみたけれど……正直なところ、姫芽さんはグループの中でずば抜けて上手い。それこそ、歌も踊りも間の取り方も。


「で、どーしたの?」


 首を傾げる姫芽さんに、どういったものかと悩む。後先考えずに声をかけちゃったけれど……子供に言われて、腹を立てないかな?

 うーん、でも、女は度胸! いざとなったら鶫みたいに、ホラー演技で乗り越えよう。


「なにか、ひめさんが、その、悩んでいるようにみえたんです」

「え? 私が? あー、ははは。うーん、子供に気がつかれちゃうようじゃ、私もまだまだだなぁ」

「ぐ、ぐうぜんです、たまたまです」


 姫芽さんは困ったように苦笑してしまう。それから、直ぐに明るく「大丈夫」と言って下さるも、全然、大丈夫そうには見えなかった。


「あなたたちに迷惑を掛けるようなことはしないよ。私だって、あなたたちより十年以上ながーく生きているのだもの。だから――」

「でも」

「――大丈夫」


 ぽん、と、優しく頭を撫でてくれる優しい手。それから、わたしみたいな不躾な子供を払いのけずに構ってくれた、優しい目。そんな目に「大丈夫」なんて言われたら、できることがなくなってしまう。

 でも、姫芽さんは確かに悩んでいた。いい人と悪い人。その二つの演技のどちらを提示するのかということで、思い悩むほどに。


「気にしないで。ね?」

「ひめさん……――あ、あれ?」


 そんなわたしたちの沈黙を、かつかつかつ、という靴音がかき消した。思わず顔を上げると、そこには、ドレスから着替えた桜架さんの姿があって。


「え、桜架、さん?」

「おうかさん! おつかれさまです!」


 私たちを探しに来てくれたんだろうか。そうだとしたら、ちょっと、申し訳ないなぁ。


「お疲れ様……それと、ごめんなさい。少し、お話を聞いてしまったわ」

「え、あ、その、私は――」

「ふふ、いいわ。つぐみちゃんに先を越されてしまった、と、言おうと思ったの」

「――ぁ」


 桜架さんは自然な動作で、わたしの隣に腰掛ける。ちょうど、姫芽さんと桜架さんでわたしを挟むような姿勢だ。逃げるつもりなんかもちろんないけれど、逃がさない布陣だよねこれ。

 姫芽さんは桜架さんの登場に混乱した様子だった。けれど、笑顔かつ無言で続きを促す大女優(桜架さん)の視線に根負けしたのか、たじろぎながらも視線を伏せ、細々と語り出す。


「うぅ……――私が、主題歌を任されているのはご存知でしょうか」

「ええ、もちろん」


 件の、『紗椰』のテーマソングのことだろう。確か姫芽さんが作詞を求められている、ということだったと思う。


「ホラー映画のテーマソングということなので、雰囲気や内容を重視して書いたのですが……」

「だめだったのね」

「はい」


 それから、姫芽さんは詳しい状況を、思い出すように話し始めた。


「エマさんは上機嫌に歌詞を読んで下さいました。でも、『これではないな』、と」


 詳しく聞くと、どうも、わたしが閏宇さんに話を聞きに行ったあとのことだったそうだ。他に人の居ない会議室の中、『紗椰』の監督である男装の麗人、エマさんは、笑顔で歌詞を突き返したのだとか。


 そして、こう、告げたそうだ。





『私は出演する全員(・・)に、本気の姿を見せて欲しいと思っていてね。演技なんか二の次で良い。そんなものは元々実力の高い桜架やつぐみに実力以上の力を絞り出して貰えば済む話だ。きっと、素人未満の彼らを牽引してくれることだろう。彼らには、技術以外のところで本気を演じて貰う。本質を曝け出し、獣性を暴き出し、欲望を飲み干し、葛藤を吐き出し、命を賭けて貰う。ああ、だから、そう――君の歌詞には命がかかっていないのさ』





 ……と。


「いつだって、全力でやってきたつもりでした。でも、自分の枠ではもう、何が正しいのかわからなくて」


 ああ、だから、“良くなろうとしてきた自分”の対比に、“悪い人”の演技を欲したのか。

 でも、でもそれは、きっと、本質的にはなにも変わらない。それがわかっているから姫芽さんは、悩んでいるんだ。


「どうしたら、良いのでしょうか、私は……」

「なら、本気でやってみると良いわ」

「っですから、私は本気で――」

「全部のレッテルを外して、本気で?」

「――え?」


 桜架さんの言葉に、姫芽さんは息を呑む。

 そうか、レッテル、レッテルか。世間体や、作風。そういった見え方。

 それに囚われないのって、難しいよね。


「でも、そんな失望されちゃう」

「しつぼうなんか! ぁ」


 思わず、声を張り上げた。


「しつぼうなんか、しません。本気でやったことに、しつぼうなんか、しません」

「つぐみちゃん……」


 桜架さんが、クスリと笑う。

 うぅ、つい声を上げてしまった。


「そう、でしょうか」

「ええ。きっと。つぐみちゃんの言うとおり、ね?」

「……はい」


 姫芽さんはまだ、悩みが晴れきってはいない、ようにも、見える。

 けれど――悩みに沈んでいた瞳には、意思の炎が宿っているようにも見えた。


「なんとか、やってみます――お話、聞いてくれてありがとうございました! 桜架さんも、つぐみちゃんも!」

「いいえ。あなたの歌詞、楽しみにしているわ。ね、つぐみちゃん」

「はい!」


 姫芽さんは、わたしたちの言葉に小さく微笑む。

 わたしなんかで、彼女の力になれたかはわからない。



(でも)



 よし、と、気合いを入れて握りこぶしを作る姫芽さん。

 そんな彼女の本気の歌詞が楽しみ――なんて、そんな風にも、思った。



















――Let's Move on to the Next Theater――

書籍発売に伴いPVが公開されました。よろしければ是非、ご覧下さい。

https://www.youtube.com/watch?v=b7YceZcLRBc

また、その他のお知らせやイラスト公開の告知は、活動報告に記載致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一気読みで追いつきました! この小説ドラマ化したらほんと凄くなりそうだと思いました 書籍も買ってきます
[一言] PV見ました!! イラストすごくよかったです。 書籍も絶対買います。これからも連載頑張ってください
[一言] 姫芽ちゃんは作詞で悩んでましたか。あと、鈍い殺される面々に演技が見た目でそういうことするように見えるのを優先で演技力は無視で集められたのかな。桜架の怨霊演技で本気で恐怖に追い込むつもりだな、…
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