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ホラー女優が天才子役に転生しました ~今度こそハリウッドを目指します!~  作者: 鉄箱
Interval2 妖精=クライマックス≠バラエティ
141/182

opening/Second half

――opening/secondhalf――




 現場に指示を出しながら、移動時間も考慮して素早く準備を進めていく。


(これはすごい、すごい画が撮れる……!)


 この熱が冷めないうちにシーンを移動して、最高の演技をして貰いたい。泣いても笑っても今日でクランクアップだ。この歴史に名を残すであろう役者たちに最高の舞台を与えられなかったとなれば、俺も、メガホンを置くしかない。

 監督って人間は、どんなに足掻いても、自分一人じゃ自分一人分の枠のものしか作れない。だが、役者がいれば、何倍にも何乗にもなる。





 かつて、あの洞木ほらぎ監督が、桐王鶫だからここまでの作品が撮れたと言ったように。

 かつて、その洞木監督が、脚本まで自分で手がけ、生涯を賭けて練り上げ――桐王鶫以外には演じられないといって脚本をお蔵入り(・・・・)させた(・・・)ように。





 メンタル状況やメイクをチェックしながら、撤収班を現場に残しロケバスで移動する。その間に台本をチェックしておくことも忘れない。

 病院のシーンは、近場に抑えてある。駐車場から入って、あらかじめ準備していた病室で、病院着に着替えたつぐみを寝かせた。


「調子はどうだ? つぐみ」

「いつでもやれます! ひらがかんとく!」

「はは、良い返事だ」


 腕には点滴。身体にはシーツが掛けられ、瞳を閉じるつぐみは穏やかだ。全員立ち位置についたことを確認すると、俺は、周囲に指示を出してモニターをチェックした。

 準備は万端だ。今日はこのあと、水城と黒瀬のラストシーンを撮影してクランクアップ。だが、子供たちのシーンはこれで終わりだ。ここで、彼女たちと出会ってから築き上げたドラマの集大成が紡がれる。


 それは、なんて。


「三」


 カウントダウン。

 同時に、つぐみの顔色が変わる。役に入ったのだろうか。穏やかな表情は、まるで死人のように無色の表情に変化した。


「二」


 空気が変わっていく。夏の日差しで暖かかったはずの世界が、じわじわと熱を失っていくように。


「一」


 表情。

 呼吸。

 身じろぎ、


 そんなもので、君は、観客の心を動かすのか。

 CGではできない、表現の神髄。その一端を見せられているかのような。


「――アクション!」


 カチンコが打ち鳴らされ、シーンがスタートする。柊リリィの両親は仕事で家を空けることが多く、今日も海外出張中だ。事前に、「海外でリリィが倒れた知らせを聞き、慌てて帰国する」という様子が撮影されている。だが、今は間に合わないので、病室に飛び込んでくるのは子供たちだ。

 大人たちは医師と共に病室の外で様子を見守っている。幸い、リリィに命の別状はない。大人に襲われて恐怖を覚えたことだろう。まずは、友達と会わせて安心させてあげようという判断だった。



「リリィ! どうして、どうして、こんな無茶を」



 まずリリィに縋るのは、楓だ。楓は涙を流しながら、リリィの手を握る。



「そうだな。あたしたちは、こいつにキッチリ話を聞かなきゃ。――みんなに謝って、そしたら、今度こそ友達になれると、思うし」

「明里ちゃん、自信、ないの?」

「美奈帆……言うようになったよな」



 リリィに縋る楓の後ろで、明里と美奈帆が言葉を交わす。

 明里に最初のような苛烈さはなく、美奈帆にあの頃のような怯えはない。楓も誰に遠慮することもなく、ただ、リリィの友達として、胸を張っている。みんな成長を果たした。誰もが前を見て、誰もが未来を夢見ている。


 だからこそ。



「ぁ……れ?」



 リリィの目が開く。死人のように眠っていた彼女は、ゆっくりと身体を起こし、ぐるりと周囲を見回して。



「リリィ! 良かった。大丈夫? 痛いところはない?」

「おいおい楓、迫りすぎだって」

「まぁまぁ明里ちゃん。楓ちゃんだって、安心したいんだよ」



 大人びた子供たちの言葉に、リリィは――



「えっと……?」



 ――ただ、首を傾げた。



「あなたたち、だれ?」



 その表情は、悪辣であったリリィのものではない。

 その表情は、真摯であったリーリヤのものではない。

 その表情は、無垢であったかつての彼女のものでも、ない。



「わたし……あれ? わたし、って、だれ?」



 虚無。

 まっさら、と、言い換えても良い。



「リ、リィ? う、うそだよね? そうやって、私を、からかっているんだよね?」

「リリィ? わたし、リリィっていうの? あなたは?」

「楓だよ! リリィの、ぅぁ、友達のッ! っあ、楓だよ!」

「ともだち? わたしの? ともだち、の、かえでは――どうして、泣いているの? どこか痛いの? だいじょうぶ?」

「う、うぅぁ、あぁぁぁぁぁっ!!」



 泣き崩れる楓を、おぼつかない手つきで撫でるリリィ。

 リリィはあのとき、死を覚悟して屋上から身を投げた。そのときの浮遊感が、感情が、己が死んだと錯覚させたのだ。そしてその死は、人格の統合を果たした彼女たちの“すべて”に平等に訪れた。リリィにも、リーリヤにも、無垢だった彼女にも。


 だから今、この病室にいるのは、いずれの彼女でもない。なにも持たない、柊リリィになる前の少女。


(そうか、だから、楓を突き落とすシーンで無垢なリリィを演じたのか)


 あのとき、無垢なリリィも共に身を投げていたとするのなら、今この場の演技に厚み(・・)が増す。まさか、そこまで考えて演じていたのか?



「かえで? だいじょうぶ? あの、えっと、あなたたちも、わたしのともだち?」

「……ああ、そうだ、そうだよ。あたしは明里。明里、だ。リリィ」



 唇を噛み、引きつった笑みを浮かべながら一歩踏み出す明里。



「私、は、私は、美奈帆」

「みなほ? みなほも、ともだち?」

「私は、違うよ。リリィの友達じゃない」



 そしてただ、美奈帆はそう、突き放すように告げた。それでもリリィの表情は変わらない。友達、というものが、よくわかっていない。言葉の羅列だけ覚えていて、言葉の重みを失っている。あれほど、誰よりも、友達という存在に線引きをしていたリリィが。

 美奈帆はそんなリリィに、明里と同じように、一歩踏み出した、うつむき、ゆっくりと首を振り、やがて、リリィとはじめて対峙したときのように胸を張る。



「だから、友達になろう?」



 友達になれば、おまえを虐めない。

 そう問いかけた、かつてのリリィの悪魔のささやき。それを告げると言うことは、美奈帆が“乗り越えた”証でもあった。



「うん! いいよ! かえでと、あかりと、みなほが、わたしのともだち!」



 美奈帆が差しだした手を、リリィが受け取る。第一話の焼き直しのような光景でありながら、明確に、何かが変化した。その変化を演じきった彼女たちに、俺は、拍手を送りたい。



「カット! ――素晴らしい。みんな、ありがとう、本当に!」



 ただ今は、彼女たちの努力をねぎらおう。

 一人のプロフェッショナルとして、賞賛しよう。

 それがこのドラマに携わることが出来た俺たちの、最大限の謝意だと思うから。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ最後まで読めてないけど、なろうで数話毎に涙が出る作品は読んだことない。 [一言] アニメもいいけど、海外ドラマみたいに何シーズンもあるドラマとしてみたいな。
[良い点] ポチポチ漁ってたどりついたらとんでもない神作品だった、、、文章とか物語の流れの構成とかとても読みやすいし人物の特徴もわかりやすい。 何より一章で良いのかな?で始まった妖精の匣のスタートは…
[一言] 確かに、掲示板、みたいですっ!!
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