終着 1
久しぶりの地元は、まるで時が止まっているのかと思った。
駅の改札にICカードのタッチパネルが附いた以外に変化はなく。相も変わらず赤錆びた鉄骨が剥き出しになっている改札の周辺は最早誰も手を加えていなのではないか。木材という木材は塗装が浮き上がり、触れれば剥げてパラパラと打ちっぱなしの土間コンクリに落ちる。
時刻表、案内板、注意書き、どれも錆が浮いて表面のアクリルが曇りに曇っている。
待合所のベンチの塗装と、昨年の祭りのポスターが比較的新しい色彩を放ってこそいるが、やはりここはどん詰まり。とっくに死んだ過疎の駅だ。
手提げ鞄を持ち直して外に出ればそこはもう田舎の極致。山肌にまばらと立つ民家、広めの道路、閑散とした駅の駐車場に森、山、川、森、山、森、山。
いっそ都会よりも空が狭いと、その閉塞感に耐えかねて思わず天を仰ぐ。
深緑の癒し効果など、所詮都会人の都合のいい妄想に過ぎないのだろう。
真の緑とは、湿っていて、臭くて、ずぶずぶして、不愉快なものなのだ。
進む事も戻る事も出来ない、苔生した水溜りを想起させる、死んだ光景。
懐かしさと共にある種の絶望感を与えてくる故郷の姿に、鬱屈とした澱が頭にどろりと沸く。
頭が痛い。
時間が気になってあらゆる通知をカットしている携帯を覗きみると、不在着信を知らせるポップアップが画面に表示されているのが目に入って思わず心臓が跳ねる。
クハァッと、溺れるような呼吸が不意に溢れ出て胸を抑える。
ふらついて縋りついた鉄柵、塗装がバリバリと剥がれて指に纏わりつくのが不快極まりない。
四十三件の不在着信。
二十一件の未読メール。
もう後戻りできない事を表す死の宣告に近い恫喝がそこには封じられている。
ゴリゴリと固まっていく頭。
シィーーーーーーーーンッと、軋むように痛む頭を抱えてしばし目を閉じて心を落ち着ける。
最期くらい穏やかでありたい。
やめてくれ。
俺はもう、辞めるんだ。
激しくなる動悸を抑え付けながら姿勢を直すと、見知った道を辿り始める。
自分の始まった場所へ。
父が終わった場所に、自分を終わらせる為に。