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私に纏わる死止奮刃  作者: 三人天人
朝ぼらけ
1/6

 “鬼着”とは、妖退治を生業とする者共が生み出した問題の先送りである。

 平安の治世、人に仇成す妖を、斬っては捨てず解き解し、糸と紡いで機で織り、魅惑の衣裳と相繕っては帝に献上していた一族がいる。

 鬼縫の織る布はいずれも目を奪って止まぬ艶やかさで、何を元とするかを知りながらも欲する者が跡を絶たぬ蠱惑の品。

 飾れば春秋飽きることなく、着れば馬子とて侍大将。場末で花摘む娘にしても、婿探しには困らぬ困らぬ。いやさ嫁には着せられぬ、たわけ沸く事蛆の如し。と畏れ混じりに謳われた鬼縫の衣の数々は、無論の事並々の民草には知れぬ秘密を秘めている。言わずもがな、その布には鬼が宿るのだ。

 鬼縫が妖を元に織る衣は、いずれも貴族の欲するところであり、確かな財貨を以て鬼縫は影に日向に栄華を極めて此方へ至る。

 さりとて、その悉くが一路順風とは往かぬのが世の常。

 名退治屋にして機織りの大家とあっても御し難く、また捨て難い異様もまた巡り合うこと度々に渡る。

 『高砂の雷獣 春雷松割』

 『蔵王の雪女 白雨』

 『武蔵の血風 辻斬り無鞘』

 『富士の病樹 餓圓』

 『婿盗り姑獲鳥の鵯』

 『筑豊の嵐征 赤鬼嶽丸』

 『越後の燎元 熾狒』

 いずれも名うての妖足れば、人が纏えば気が狂い、ならばどうだと別の布まで分けても分けても、また寄り集まっては災禍を振り撒き大いに頭を悩ませた。

 仕舞いには、一着一妖と破格の仕立てで繕われし七つの衣。

 殺そうにも手に負えぬ。

 売ろうにも手が掛かる。

 捨てようにも気に罹る。

 困りに困って行李に放って蓋をする事数世紀。

 時は元文二年、桜町天皇の御代。

 豪商『絹居屋』その隠し蔵、月夜に怯まず忍ぶ影が一つ。

 胴にも項にも付かぬ曰くの品に手を伸ばす者が現れて。



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