○っぱいが好きな人
【角谷】「個人的には最近あちこちで聞く『甘じょっぱい』ってのが、音として品がないというか、文字どおり耳障りなんだけどね」
【琴乃】「私も駄目ですね。『○っぱい』表現は中学時代にちょっとありまして、トラウマではないんですが……」
【角谷】「あ、ごめん。嫌な事思い出させた?」
【琴乃】「いえ、思い出し笑いが」
【角谷】「は?」
【琴乃】「中学の理科の時間、味覚についての授業だったと思うんですけど、甘い、辛いと来て先生が
『【酸っぱい】ではなく【酸い】と言う。誰も【甘っぱい】とは言わんだろう?』
って言ったんです。
『え~、でも【しょっぱい】って言うじゃん?』
茶々を入れる男子に、その先生、
『ぱいぱい好きな君に教えてあげよう。それは【塩辛い】というのだよ』
とあっさり返して。
教室内大爆笑で、その後しばらく茶々入れた男子は『っぱい君』とか『乙白白』とか呼ばれて……自業自得なんでしょうが、トラウマ持つなら彼の方かと」
【角谷】「確かに中学男子にそれはキツいかもな~」
【琴乃】「で、最近TVで看板番組持つようなフリーのアナウンサーが『甘じょっぱい』多用してるのを見ると、つい……」
【角谷】「乙白白だ~、と(笑)」
【角谷】「アナウンサーで思い出したけど、琴乃さんは『数日』って具体的に何日だと思う?」
【琴乃】「ご期待に沿えず申し訳ありませんが5、6日……正確に言うと『2~9日の間』でしたっけ?」
【角谷】「いえいえ、よくご存知で。ふつうは2、3日って返ってくることが多いんだけど」
【琴乃】「元々親から5、6日って教わってたんですけど、ある時、会社の先輩が
『数週間って書いてあるのに一月経っても何の連絡もない!』
って文句言ってるのを聞いて、
『数週間って5、6週間だからもう少し待ってみても良いんじゃないですか?』
って言ったんです。そしたら
『え、2、3週じゃないの?』
って驚いてましたけど、しばらくして
『やっぱりいわれた通りだった。【数~】って【2~9の間の整数】だってさ』
って、わざわざ調べたことを教えてくれて。
ご本人は『ありがとね~』で気にしてませんでしたが、知ったかぶりして教えた方は冷や汗ダラダラで未だに忘れません」
【角谷】「それはまた(笑)。
アナウンスでは曖昧な表現は避けるってのが基本で、N○Kなんかだと使わないようにしているってどこかで見たきがするんだけど……」
【琴乃】「『復旧には数日かかります』って被災者にしてみればその期間が何日かで切実な問題になってきますからねぇ」
【角谷】「多分先ほどの乙さんと同じ人だと思うんだけど、2、3日って伝えてるのに『数日ですね』と念押ししてたりね。結構ガバガバだね、民放だからって訳でもないだろうけど」
【琴乃】「組織内であれば自他問わず注意されるのを見聞きして学べますが、フリーになるとそれがないですからね。おかしな事に気付かないまま他人の言動を真似て、他所から指摘された時には結構大事になってたり。私達作家もそうですが」
【角谷】「あ~、『走馬燈』とか誤用の拡大再生産されてるな~」
【琴乃】「そもそも走馬燈=アカシックレコードって勘違いはどこから始まったんでしょうね」
【角谷】「元々はそれまでの記憶が次々思い浮かんでくる様子を、くるくる廻る走馬燈の映像に例えた比喩表現だったのが、今際の際の『三途の川』やら『お花畑』と同類になってるもんな~。実際『走馬燈が見えた』ってポツンと走馬燈が置いてあったら正体不明で『何あれ?』って思うだろうけど。あ、今度何かのネタで使おう(笑)」
【琴乃】「元の意味を知らないのに使う人が増えていって、またそのうち辞書に載るんでしょうかね」
【角谷】「『新語辞典』なんかには既に載ってそうだけどね」
【角谷】「元の意味を知らずにっていう先例なら『H』があったね」
【琴乃】「『HENTAIの頭文字』ですよね」
【角谷】「そうそう。で、さらに『変態』とは『変態性欲』の略である。したがって昨今行為の意味として使っている人は自分は変態プレイを求めているとアピールしていると……」
【琴乃】「わ~わ~。一応R15ですから~」
【角谷】「……と、ここまでは一般常識。『H』とは明治時代には『husband』(『夫』)の略でもあったらしい。女学生仲間の隠語ってことは今で言うJK語? 当時の小説読んでて
『ねえ、彼ってHじゃない?』
なんて出てきたらいまなら絶対誤解するよね(笑)」
【琴乃】「明治時代からJK語ってあったんですね~」
【角谷】「ちなみに先に言った『~する』の意味を既に載せている辞書もあったりする。あとは『hip』の略だとか、鉛筆の硬度表示とかもあったね。数字が大きくなるほど固くなるとか」
【琴乃】「……いい加減『H』から離れませんか」
【角谷】「新語の扱いは気をつけないと、流行に乗って使っていたら30年後には意味不明になってたなんてよくある話だよね。1960~70年代の小説に出てくる『BG』とか『トルコ孃』とか分かるかな? ちなみに偶然だけどどちらも女性の職業だね」
【琴乃】「『トルコ孃』はソープランドのお姉さんのことですよね。『BG』は……ボディーガード……は男性の方が多いし、BG、ビージー……ひょっとしてビジネスガールですか?」
【角谷】「正解。てか何で『トルコ孃』知ってたの?」
【琴乃】「あー、以前の職場の同僚が変な歌付きのトルコ行進曲を聴かせてくれたことがあって(笑)。トルコの青年が抗議してどうとか」
【角谷】「なるほど、斉藤晴彦さん(の歌)ね。『BG』は娼婦を意味する言葉にもなるからって東京オリンピック、あ、昔のね、を控えて『OL』に変えたらしいけど。泥縄だね」
【琴乃】「へ~、というか何でそんなに色々詳しいんですか? 本当は中身お爺ちゃんとか」
【角谷】「やぁねぇ、れっきとしたOver 30よぉ。男だけど(笑)。
学生時代お金なかったから暇なときは辞書で遊んでたからね~。目を瞑って開いたページを端から読んでいったり、ある語句を言い換えた言葉をさらに検索して突き詰めてみたり。5つ6つ辿って行って終わる言葉もあれば、2、3の言葉の間でループして結局最初の意味に戻ってきたりして、辞書編纂者の本気度を試シテマシタ。あ、一度誤植発見したなぁ(笑)」
【琴乃】「何と言うか……はあ」
【角谷】「単に雑学好きなだけで広~く浅~く、興味あることは少しだけホリホリして。何でもは知らないけどってヤツ?」
【琴乃】「その『少しだけ』の基準を聞くのがコワイんですが」
【角谷】「ダイジョ~ブ、コワクナイヨ~」
【琴乃】「……殴っていいですか?」
【角谷】「なんで~?」