閑話・何故走るのか……だって馬だもん
【琴乃】「話をお題に戻してお伺いしたいんですが、角谷さんって『MARO』の原作者なんですか?」
【角谷】「違いますよ。一応原案の一人ってことにはなってますけど(笑)」
【琴乃】「実は周囲の女の子達の間で、作詞・作曲の『白騎士』さんの名前が話題になってまして。登場人物の誰かに掛けてるんだとか、いや隠れキャラじゃないかとか……」
【角谷】「あー、夢壊す様でわるいけど、あれ『きし』じゃなくて『ないと』って読むんだわ」
【琴乃】「?」
※※※※※
あれはザウルスの忘年会での事。
二次会会場は主宰である須磨さんのアトリエで、プレイルームにはバーカウンターが設けられ、定番のビリヤード台やピアノまで設置されるなど、大人の遊び場的な雰囲気だった。
そんな中、昼間あった『有○記念』の話の流れから、馬の話で盛り上がった。名馬と呼ばれるには名ジョッキーに乗ってもらわないと、いやいや日頃世話をする厩務員の腕が一番等、各人が話に加わるうち、なぜか馬にまつわるドラマのストーリーが出来上がり、果ては酔いに任せて即興で主題歌まで歌われる始末。
♪馬よ~、馬よ~、なぜ走るのか~
鳥越さんのピアノの生伴奏もノリノリで、気分良く歌い上げたのだった。
うん、みんなかなり酔っていたんだ……一人を除いて。
その後、年も改まり正月気分もとうに抜けたある日、須磨さんから電話があった。
『須磨です。どうも、お久しぶり』
お久しぶりです。先日の忘年会ではお世話になりました」
『ああ、うん。で、例の『ウマ』、企画通ったから』
「(何の話?)ああ、おめでとうございます」
『それで、事後承諾になって申し訳ないけど、原案に名前入れさせてもらったから』
「は?」
『主題歌もあのまま行く積もりなんで、トリさんと打ち合わせヨロシク(プツッ)』
「え? あの、え~と、もしも~し?」
一方的に用件を告げられ切れたスマホを呆然と眺めていると、程無くしてメールが届いた。
添付動画を見て再び固まる俺。
『♪馬よ~、馬よ~』
そこには昨年のザウルス忘年会の様子が映し出されていて……。
「もしもし、鳥越さん。何アレ!」
『あ~、なんか大変だったね~』
「ってか現在進行形でしょ? 何であんなの撮ってんの。何処まで拡散してんの!?」
『ん~、それは大丈夫だと思うよ。歌詞の確認用に送ってもらっただけだから。須磨さんがミーティングの様子撮ってるのいつものことだし』
「マジであれ使うんですか、酔っ払いの歌なんて僕、知りませんよ」
『だ~いじょ~うぶ。それをなんとかするのがプロだから。じゃあ、カドヤンは知らないっということで、こっちで適当にアレンジしちゃっていいかな?』
「あ、はい。よろしくお願いします」
後日送られてきたサンプルCDは、本歌を生かしつつ(さすがに『馬よ~』は『友よ~』に変えられていたが)素晴らしいアレンジがなされていた。これがプロの仕事か、と素直に感動したと思う……作詞作曲『白騎士』の文字の上に手書きで『し~らないと』のルビが振られていなければ。
ザウルスでは酔っ払いはいつどこにでもいるらしい。
とりあえず、俺は知~らないっと。
※※※※※
【角谷】「僕、知~らないっと(笑)」
【琴乃】「……は~。正直聞かなきゃ良かったです」
【角谷】「うむ、世の中には知らない方が幸せということもあるのだよ」
ちなみに、角谷氏と同様ミーティング(笑)に加わってお絵描きしていた月山Q兎氏は、原案に留まらずそのままキャラクター設定に引っ張り込まれました。
※角谷氏は目上や初対面の相手には「僕」と自称しますが、素は「俺」が出ます。