くろとしろとの違い
〈『黒と白の攻防』・延長戦〉
【角谷】「いや、あの。キレイに纏めようとしてくれてるところ申し訳ないんだけど、もうちっとだけ続くんじゃ(笑)」
【琴乃】「なんか担当さんの顔ひきつってますけど……」
【角谷】「真面目な話、常用外の読みはやっぱり開くかルビ振るかして欲しいかな。
例えばケンカのシーンで『寛治くん、止めて!』と『寛治くん、止めて!』じゃまったく違った意味になるのに、漢字表記にすると同じ文字なんだよね。ルビなしだと誤読多発すると思うんだ」
【琴乃】「なぜそこで自分の名を連呼……(笑)。
たしかに書籍でも難読漢字にルビ振ることありますけど、毎回じゃないんですよね。それが人名とか固有名詞で忘れた頃に再登場してくると、うわ~何てよむんだっけ~、と前のページ探しまくるまでが読書あるあるで。
あ、ちなみに先ほどの例だと『寛治くん、止めて!』が常用外の読みですね」
【角谷】「……改めて他人に名前呼びされると恥ずかしいもんだね」
【琴乃】「寛治くん、あとはもうよろしかったですか」
【角谷】「……はい」
【琴乃】「ようやく最後のお題になります。『小説家を目指す人達にひとこと』って多分いままでの流れでいくと到底ひとことじゃ終わらない気がしますが(笑)」
【角谷】「小説家を目指す人達についてひとことなのか目指す人達に向けてひとことなのか……」
【琴乃】「あ~、なんかいますごくイイ顔してませんでした?」
【角谷】「僕等がデビューした頃は作家になろうと思ったら雑誌のコンテストに応募して入賞するか、出版社に持ち込み原稿認めてもらうか、自費出版ぐらいしかなかったもんな~。あ、たまにイベントでスカウトされるって都市伝説もあったか」
【琴乃】「漫画家さんなら学生時代に知り合いがイベントで企業の人から声かけられてましたけどね」
【角谷】「え、ほんとに?」
【琴乃】「スーツ着た人が並べてあった本パラパラ見て、イラスト描ける人探してるからよければ連絡くださいって名刺渡してきて……その時置いてあったのやおい本だったんですけど(笑)。当時聞いたことない名前だったんで放っておいたらその後結構有名な会社になってて、惜しいことしたねって」
【角谷】「ふ~ん、チャンスの前髪掴めなかったわけだ。まあ文字書きにはそんな話まずないから、とにかくみんな書いてはいろんな雑誌に投稿してたね。
誤字脱字なんてとんでもない。雑誌によって作品傾向も違うから少しでも受けがよくなるよう応募期限ギリギリまで何度も推敲するのが当たり前……とサークルの先輩方がよく言ってた」
【琴乃】「あれ? ご自分の話じゃなかったんですか」
【角谷】「え~、だって僕の場合、とりあえず納得する作品が書けたから一番近い応募期限のところに送ったらたまたま入選しちゃったし?」
【琴乃】「意外な事実だけどなんかむかつきます」
【角谷】「締切に追われて中途半端なもの書きたくなかったんだよ。期限を気にせず書けるってのはアマチュア時代の特権だからね。まあ、それ故にエタったり、わざわざ自主的に締切設けて自分を追い詰めたりするMな人とかもいたけど(笑)」
【琴乃】「(小説)投稿サイトでよく文句つけられる書き手のパターンとなんか似てますね」
【角谷】「ある社長さんが言ってたんだけど、早期退職して趣味を生かした仕事を始めたけど失敗する人って多いんだって。でもそれは当然の話で、趣味っていうのは自分でお金を出して同好の士とおままごとしてればいいけど、仕事は他人にお金を払ってもらう立場だから、相手に必要とされなければいくら素材や製作過程にこだわっても意味がない。それに気付かず独りよがりなままだとすぐダメになるんだって」
【琴乃】「『一番好きなことを仕事にしてはいけない』っていうのは、いざというときの逃げ場がなくなるからだって聞いてましたけど、裏返すとそういった意味もあるのかもしれませんね」
【角谷】「小説ってのは誰かに読んでもらってなんぼのもんだから、例え趣味の延長で書いてるだけだとしても誤字脱字チェックは物書きとしての最低限のマナーだと思うんだ。そのうえで本気でプロを目指すなら更に推敲時間とってより良い文章、読みやすい文章を目指して欲しい」
【琴乃】「できれば長文での主語のダブりや『のでので』続くのもチェックして欲しいです」
【角谷】「まあ文体とかは個性にもなるし一概には言えないけど、最低限『だである調』と『ですます調』か統一されているだけでも整った文章にみえるし」
【琴乃】「味は同じでもキズがあったり曲がってたりするよりきれいな野菜の方が売れるのと同じですね」
【角谷】「そうそう。みてくれも結構大事。ただいくら美味しくてもいつも同じものばかりじゃ飽きられるから、素材や調理法を変えたりするよね。素材をジャンル、調理法を文体とするとスパイスにあたる語彙の種類は多い方が料理の幅が広がったり味に深みが出るってのは想像つくと思う。だから語彙を増やしましょうって話になるんだけど」
【琴乃】「単語帳の出番ですか」
【角谷】「いや、別に僕みたいなアナクロアナログ方法まねる必要ないけど」
【琴乃】「え~、また外す?」
【角谷】「だって面倒いじゃん。僕だってまたいちから始めろって言われたら遠慮したいし(笑)。
知識として身につけるための方法は人それぞれだから、どれが正しいってものはなくて、自分に合う方法を試せばいいんだよ。別にその都度辞書ひけば済むことなんだから。ただそこでひと工夫して調べた言葉にマーカーでしるしをつけるなりしておけば、次回以降の参考なり知識となっていく」
【琴乃】「ネットや電子辞書じゃ無理ですけどね」
【角谷】「え~、物書きなら辞書くらい揃えようよ。知り合いにマジで瞬間記憶能力みたいなの持ってる人がいてさ。『その話なら何月何日に誰それが言ってた』とか、分厚いマニュアルについて聞かれても『何ページの何行目から書いてある』とかすぐに答えてくれてたんだけど、そんな人が電子書籍で続きを読む時に『どこまで読んだかわからない』って言うんだ。専門的なことはよくわからないけど、瞬間記憶能力がエピソード記憶の高機能版みたいなものなら、覚える作業はアナログ方式の方が効果あるんじゃないかと僕は思うし。まあさっきも言ったとおり人それぞれだから強制はしないけど」
【琴乃】「とりあえず未来への自己投資は惜しむなということで」
【角谷】「プロなら経費で落ちるけどね」
【琴乃】「それ言っちゃいますか(笑)」
【角谷】「最近やたら長いタイトルの作品が多いけど、どうなんだろう。一作二作ならインパクトもあるんだろうけど、大勢が右へならえでやって意味があるんだろうか」
【琴乃】「小説サイトに数多ある登録作品の中から読んでもらおうと思ったら、タイトルだけで内容想像できる方が選ばれやすいとか? 書籍だとマイナス要素ですけどね。平積みのうちは表紙のデザイン次第でなんとでもなりますけど、背表紙タイトル2行になると書棚では文字が小さくて目立たないですもん。書籍化の際にタイトル変更が多いのはその辺りもあるんじゃないかと」
【角谷】「僕が見かけた本は3行タイトルだったけど、長くて覚えてないや」
【琴乃】「よく出版したな~。何の嫌がらせですか(笑)」
【角谷】「先ほど自由に書けるのがアマの強みって言ったけど、プロで食っていこうと思うならまず売れることを考えないと次の仕事に繋がらないからからね。売れるようになって初めてこちらのワガママも通せるようになってくる」
【琴乃】「角谷先生は自由ですものねー(棒読み)」
【角谷】「はっはっは~、くやしかったらやってごらん」
【琴乃】「……遠慮しておきます」
玄人=プロフェッショナル
素人=アマチュア
※サブタイトルにうっとりしてます。